161 / 257
第16歩目 迷夢へ
次なる目的地は―――
しおりを挟む「なんだか、一気に疲れてきたな……」
見るものを見て、今度こそ安心したからかもしれない。
体が、どっと重くなってしまった。
軽い眩暈がして、シュルクはフィオリアの肩にもたれかかった。
「シュルク、大丈夫?」
少しばかり慌てながら、フィオリアがシュルクの体を支える。
「ああ、大丈夫。ただ、さすがに今回の召喚はきつすぎて……気分的には、あと半日くらい寝たい。」
「申し訳ありません。私どもが、無理にお願いをしたばかりに。」
「いやいや、ニコラさんたちが悪いわけじゃないですよ。この二人が時間を使いすぎただけです。」
シュルクはヒンスたちを指し示し、次に意地悪い笑みを見せる。
「この二人、どんだけイチャイチャしてたのか知らないけど、散々待たせてくれちゃって。ようやく戻ってきたと思ったら、帰れって言ってんのに、また喧嘩を始めやがって。喧嘩するほどなんとやらとは言いますけど、ねぇ?」
意味ありげにそちらを見れば、途端に顔を赤くして視線を逸らす二人がいる。
事情を察した周りからも生温かい目を向けられ、ものすごく居心地が悪そうだ。
すると、それを見たニコラが目を輝かせてミシェリアに語りかけた。
「奥方様。ちなみに、旦那様とはどんなお話を?」
「やめろ。」
ニコラの質問に、ヒンスが全力で首を横に振る。
だが―――
「えっと、旦那様の昔話を少々。」
ミシェリアが正直にそう答えると、それを聞いたニコラがさらに目を輝かせた。
「ほほう! そのお話、後で詳しく!」
「はい、ぜひ! わたくしも、ニコラさんにお訊きしたいことがありますの。」
「だからやめてくれ!!」
「でも、ニコラさんにお話を聞いてみろとおっしゃったのは旦那様ですわ!」
「ぐっ…」
記憶に思い当たる発言だったのか、ヒンスが顔を赤くしたまま言葉につまる。
さあさあ。
後で死ぬほど恥ずかしい思いをするがいい。
そして、これまで素直に気持ちを伝えてこなかった己の言動を、心の底から悔いるといいのだ。
「ざまあみろ。」
「もう、シュルク! 大人げない!」
小声でぼやいたら、間髪入れずにフィオリアにたしなめられてしまった。
「へいへい。話を変えりゃいいんでしょ。」
シュルクは肩を落とす。
仕方ない。
ヒンスへの仕返しは、ミシェリアとニコラに任せるとしよう。
「ミシェリアさん。ちょっと訊きたいことが。」
そう切り出すと、ミシェリアが首を傾げて先を促してきた。
「迷夢の中で、空に紫と白のオーロラっぽいのが見えたんですけど、あれって何か心当たりあります?」
ブリッグレーでヒンスたちの帰りを待っている時、迷夢の方向にそんなものが見えていた。
あれは迷夢の中でしか見られないものなのか、それとも―――
「ああ、あれですね。心当たりがありますわ。」
ミシェリアは、シュルクの問いを肯定。
「わたくしの故郷で、よく見られたものですわ。あれが何か、ということまでは分かりませんが。」
「ミシェリアさんの故郷ってのは、どこですか?」
「ええっと……」
そこで答えに困ったらしいミシェリアは、助けを乞うようにヒンスを見上げた。
「彼女を買ったのは、ペチカ国北部にあるダントリアンという町だ。君が気にしている紫と白のオーロラは、ダントリアン近くにあるネラ岬で綺麗に見られると聞いたことがある。昔は観光名所として名高かったらしいが、今は諸事情があって、そこを訪れる者は減っている。」
「ペチカ国、ダントリアン……ね。」
シュルクは真剣な表情で腕を組む。
「―――〝紫縞の帳の降りる先〟」
詩の一節を口ずさむと、フィオリアが真っ先に顔色を変えた。
「もしかして……」
「ああ。多分、次の行き先はそこになるな。」
確信しながらも、心の中は少しだけ複雑だった。
〈これを読む君は、きっとこの呪いを解く資格を得たのだろう。〉
脳裏に、あの手記の最後のページに書かれていた文章がよみがえる。
〈私には、その資格がなかった。しかし、たとえ資格がなかったとしても、私はジルの努力と想いを無駄にしたくない。だから、もしこれを見つける誰かがいた時のために、私ができる精一杯のことをするつもりだ。―――運命に導かれし者よ。薄鈍の座を目指すがいい。これを見つけられた君なら、きっと辿り着けるだろう。私は呪いの終焉を願い、私とジルの全てをそこに遺す。資格を与えられなかった私には、未来に願いを託すことしかできないが……どうかいつか、悲しい運命が浄化されんことを祈って。〉
運命に導かれし者、か……
生まれてから運命というものを疑ってきた自分だが、今はその運命の強力さに寒気がしている。
だって、現に自分は、これまでほとんど迷わずにルルーシェの運命石を集められている。
手がかりがゼロの状態だったとしても、調べればなんとかなった。
ここだって次の行き先だって、手がかりは探さずとも向こうから転がり込んできた。
これを運命の導きと言わずして、なんと言うのか。
「ダントリアンまでは、かなり遠いぞ。交通の手なら、私の方で用意しよう。」
ヒンスのありがたい申し出に、胸中の複雑さはますます大きくなるばかり。
ほら。
自分が望まなくとも、道は勝手に開けていく。
さっさと定められた道を進めと言わんばかりに、運命とやらに背中を押されている気分だ。
やれやれ。
この運命に従ったが最後、果てに待つのは一体なんなのか。
とはいえ、目的が合致している以上、少なくとも運命石か集まっていない今は、大人しく運命に沿って歩いてやるしかあるまい。
分かってはいるのだが、自分の道が勝手に決められているようで、なんとなく面白くないシュルクだった。
「……んじゃ、そこはお言葉に甘えることにしますわ。」
「分かった。ただ……」
ヒンスはそこで、苦い顔をした。
「多分察しているとは思うが、ダントリアンは奴隷商が数多く集まる地域。さっき諸事情でネラ岬に訪れる者が減っていると言ったのは、そういうわけなんだ。お世辞にも治安がいいとは言えないから、十分に気をつけてくれ。」
それはもちろん理解しているつもりだ。
シュルクは真面目に頷き、次なる旅路への覚悟を決める。
どこへ行こうとも、自分が守るものは変わらない。
その想いを胸に、フィオリアの手を強く握った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる