Fairy Song

時雨青葉

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第16歩目 迷夢へ

次なる目的地は―――

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「なんだか、一気に疲れてきたな……」


 見るものを見て、今度こそ安心したからかもしれない。
 体が、どっと重くなってしまった。


 軽い眩暈めまいがして、シュルクはフィオリアの肩にもたれかかった。


「シュルク、大丈夫?」


 少しばかり慌てながら、フィオリアがシュルクの体を支える。


「ああ、大丈夫。ただ、さすがに今回の召喚はきつすぎて……気分的には、あと半日くらい寝たい。」


「申し訳ありません。私どもが、無理にお願いをしたばかりに。」


「いやいや、ニコラさんたちが悪いわけじゃないですよ。この二人が時間を使いすぎただけです。」


 シュルクはヒンスたちを指し示し、次に意地悪い笑みを見せる。


「この二人、どんだけイチャイチャしてたのか知らないけど、散々待たせてくれちゃって。ようやく戻ってきたと思ったら、帰れって言ってんのに、また喧嘩を始めやがって。喧嘩するほどなんとやらとは言いますけど、ねぇ?」


 意味ありげにそちらを見れば、途端に顔を赤くして視線を逸らす二人がいる。
 事情を察した周りからも生温かい目を向けられ、ものすごく居心地が悪そうだ。


 すると、それを見たニコラが目を輝かせてミシェリアに語りかけた。


「奥方様。ちなみに、旦那様とはどんなお話を?」
「やめろ。」


 ニコラの質問に、ヒンスが全力で首を横に振る。
 だが―――


「えっと、旦那様の昔話を少々。」


 ミシェリアが正直にそう答えると、それを聞いたニコラがさらに目を輝かせた。


「ほほう! そのお話、後で詳しく!」
「はい、ぜひ! わたくしも、ニコラさんにお訊きしたいことがありますの。」


「だからやめてくれ!!」
「でも、ニコラさんにお話を聞いてみろとおっしゃったのは旦那様ですわ!」


「ぐっ…」


 記憶に思い当たる発言だったのか、ヒンスが顔を赤くしたまま言葉につまる。


 さあさあ。
 後で死ぬほど恥ずかしい思いをするがいい。


 そして、これまで素直に気持ちを伝えてこなかった己の言動を、心の底から悔いるといいのだ。


「ざまあみろ。」
「もう、シュルク! 大人げない!」


 小声でぼやいたら、間髪入れずにフィオリアにたしなめられてしまった。


「へいへい。話を変えりゃいいんでしょ。」


 シュルクは肩を落とす。


 仕方ない。
 ヒンスへの仕返しは、ミシェリアとニコラに任せるとしよう。


「ミシェリアさん。ちょっと訊きたいことが。」


 そう切り出すと、ミシェリアが首を傾げて先をうながしてきた。


「迷夢の中で、空に紫と白のオーロラっぽいのが見えたんですけど、あれって何か心当たりあります?」


 ブリッグレーでヒンスたちの帰りを待っている時、迷夢の方向にそんなものが見えていた。


 あれは迷夢の中でしか見られないものなのか、それとも―――


「ああ、あれですね。心当たりがありますわ。」


 ミシェリアは、シュルクの問いを肯定。


「わたくしの故郷で、よく見られたものですわ。あれが何か、ということまでは分かりませんが。」


「ミシェリアさんの故郷ってのは、どこですか?」


「ええっと……」


 そこで答えに困ったらしいミシェリアは、助けを乞うようにヒンスを見上げた。


「彼女を買ったのは、ペチカ国北部にあるダントリアンという町だ。君が気にしている紫と白のオーロラは、ダントリアン近くにあるネラみさきで綺麗に見られると聞いたことがある。昔は観光名所として名高かったらしいが、今は諸事情があって、そこを訪れる者は減っている。」


「ペチカ国、ダントリアン……ね。」


 シュルクは真剣な表情で腕を組む。




「―――〝紫縞しじまとばりの降りる先〟」




 うたの一節を口ずさむと、フィオリアが真っ先に顔色を変えた。


「もしかして……」
「ああ。多分、次の行き先はそこになるな。」


 確信しながらも、心の中は少しだけ複雑だった。




〈これを読む君は、きっとこの呪いを解く資格を得たのだろう。〉




 脳裏に、あの手記の最後のページに書かれていた文章がよみがえる。


〈私には、その資格がなかった。しかし、たとえ資格がなかったとしても、私はジルの努力と想いを無駄にしたくない。だから、もしこれを見つける誰かがいた時のために、私ができる精一杯のことをするつもりだ。―――運命に導かれし者よ。薄鈍うすにびの座を目指すがいい。これを見つけられた君なら、きっと辿り着けるだろう。私は呪いの終焉しゅうえんを願い、私とジルの全てをそこにのこす。資格を与えられなかった私には、未来に願いを託すことしかできないが……どうかいつか、悲しい運命が浄化されんことを祈って。〉


 運命に導かれし者、か……


 生まれてから運命というものを疑ってきた自分だが、今はその運命の強力さに寒気がしている。


 だって、現に自分は、これまでほとんど迷わずにルルーシェの運命石を集められている。


 手がかりがゼロの状態だったとしても、調べればなんとかなった。
 ここだって次の行き先だって、手がかりは探さずとも向こうから転がり込んできた。


 これを運命の導きと言わずして、なんと言うのか。


「ダントリアンまでは、かなり遠いぞ。交通の手なら、私の方で用意しよう。」


 ヒンスのありがたい申し出に、胸中の複雑さはますます大きくなるばかり。


 ほら。
 自分が望まなくとも、道は勝手にひらけていく。


 さっさと定められた道を進めと言わんばかりに、運命とやらに背中を押されている気分だ。


 やれやれ。
 この運命に従ったが最後、果てに待つのは一体なんなのか。


 とはいえ、目的が合致している以上、少なくとも運命石か集まっていない今は、大人しく運命に沿って歩いてやるしかあるまい。


 分かってはいるのだが、自分の道が勝手に決められているようで、なんとなく面白くないシュルクだった。


「……んじゃ、そこはお言葉に甘えることにしますわ。」
「分かった。ただ……」


 ヒンスはそこで、苦い顔をした。


「多分察しているとは思うが、ダントリアンは奴隷商が数多く集まる地域。さっき諸事情でネラみさきに訪れる者が減っていると言ったのは、そういうわけなんだ。お世辞にも治安がいいとは言えないから、十分に気をつけてくれ。」


 それはもちろん理解しているつもりだ。
 シュルクは真面目に頷き、次なる旅路への覚悟を決める。


 どこへ行こうとも、自分が守るものは変わらない。


 その想いを胸に、フィオリアの手を強く握った。

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