Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
171 / 257
第17歩目 奴隷の町

運命石に作用する呪術

しおりを挟む

「いくら欲しいのか知らねぇけど、すぐには金は積んでやらないからな。」


 仕方あるまい。
 ここは、少しくらい話は聞いてやろう。
 おそらく、そうするのが自分のためになる。


 肩を落としたシュルクが臨戦態勢を解くと、石売りは機嫌よく笑った。


「んふふ。いいですね、その威勢。あなたって、実は支配者でいたいタイプでしょう?」


「否定はしないな。命令されんのは大嫌いだ。」


 もちろん時と場合は考えるが、自分が認めてもいない奴の言うことは聞くつもりなどない。


 そういう志向の自分は、ある一面から見れば支配者だとか身勝手だと表現されるのだろう。


 シュルクの答えを聞いた石売りは、嬉しそうに声を弾ませる。


「私のお客様には、あなたみたいなタイプがもってこいなんですよぉ。どうです? 誰も逆らえない支配者になってみません?」


 にやり、と。


 石売りが不気味に唇を吊り上げただろうことは、フードを被っている状態でも伝わってきた。


「……どういう意味だって、そう訊くのがお約束か?」
「つれないですねぇ。いいですよ。特別に、もったいぶらずに教えてあげましょう。」


 石売りがまた一歩、また一歩と歩みを進める。


「私は呪術師の家系でしてね。ここにある運命石を商品にできるのは、その呪術のおかげなんです。」


 シュルクの懐に滑り込んだ石売りは、ささやくようにそう告げた。


「つまり、石売りはついでで、運命石に呪術を施すのが本業ってことなんだな。」
「そのとおり。話が早くて助かります。」


 石売りは上機嫌で話を進める。


「運命石にかける呪術は、もちろんその持ち主に作用します。絶対服従の呪いとか、生命力を奪う呪いなんかがおもたるものですかね。あとは取り替えの呪いとかも、地味に注文が多かったりしますねー。」


「取り替え?」


「ええ。ご自分の運命石が気に入らない方が、ご自分の運命石と好みの運命石を取り替えるんですよ。そのまま取り替えたって意味がないので、呪術で運命ごと入れ替えるんです。じゃないと、自分の運命の人とかが変わっちゃうでしょ?」


「なるほどな……」


 金持ちの腐った奴らが、いかにも考えそうなことだ。
 あの手の人種は、いびつさというものを許せないから。


 それを求めすぎる自身が一番いびつだという事実に目を塞いだまま、馬鹿みたいに美しさを求めて、気に入らないものを切り捨てる。


 物であれ、人であれ……


(ん…?)


 そこで、はたと思考が止まる。


「お前……今、運命を入れ替えないと運命の人が変わるって言ったよな。」


「ええ。」


「………」


 黙り込むシュルク。
 その脳裏によぎるのは、とある仮説。


「取り替えの呪いを注文する奴が気に入らないのは、本当に運命石か?」


 訊ねる。


「さて?」


 返ってきたのはこれ。


 だが、その一言に漂った含みのある響き。
 自分が得たい答えは、きちんとそこにあった。


「ふふふ…。あなた、バーティスさんと組んでここで生きてはどうです?」


 何を思ったのか、石売りは突然そんなことを言ってきた。


「ただのお客様で終わらせるには、もったいない気がしてきました。あなたは私たちのこと毛嫌いしてるみたいですけど、私としては、あなたは相当化けると思うんですよ? いい稼ぎがしらになれるんじゃないですかね。バーティスさんも、後釜を欲しがってましたし。」


 おっと。
 これは予想外の展開だ。


(なんで俺は、こういうめんどくせぇ奴らに好かれんのかなぁ…?)


 平穏すぎる毎日は嫌だと、常々そう思っていることは事実として認めよう。
 しかし、だからといってここまでぶっ飛んだ世界には足を突っ込みたくない。


 とはいえ、確かにこの能力も使いよう。
 自画自賛するわけじゃないが、勧誘する相手は間違っていないと言える。


「隠してるつもりだけど、なんか出ちまうもんなのかねぇ…。めんどくせぇ。」


 思わず、本音を零してしまっていた。


「おお。何か、自覚ありですか?」


 何を期待しているのか、石売りはこちらに興味津々だ。
 それに対し、シュルクは大袈裟に肩を落とす。


 そろそろ潮時だ。
 頃合いもちょうどいいだろうし、自分が聞くべきことは聞いたはずだ。


「ま、色々と考えとくよ。ところで、お前って装飾品には詳しいのか?」


 訊きながら、シュルクは腰に下げたかばんをごそごそと漁る。


「え、ええ…。石売りと名乗ってる手前、扱うのは運命石だけじゃないですけど……」
「そうか。なら―――」


 シュルクは、かばんから取り出したものを石売りの前にちらつかせた。


「今回の報酬、これでどうだ?」


 そこにあるのは、光の粒子を閉じ込めた赤い鉱石。


「え……ええっ!?」


 仰天した石売りが、見事なスピードで鉱石をひったくっていく。


「このなめらかな質感と透き通る赤色……間違いない。これ、ライトマイトですよね!? しかも、この色味はランク五の最高級品じゃないですかぁ!! それになんですか、このキラキラしたの!?」


「知り合いの研究者が言うには、霊子じゃないかってさ。」


「霊子を閉じ込めたライトマイトなんて……」


「聞いたことがないだろうな。何しろ、新発見の品だから。あの研究バカが売り払ってなきゃ、それを持ってるのは、俺とあいつと……お前だけかもな?」


 煽るように言うと、石売りは食い入るようにライトマイトを見つめた。


 掴みは上々。
 十中八九、そのライトマイトをいらないとは言わないだろう。


「どうだ? 取引としては申し分ないだろ? それとも少ないか?」
「め、滅相もない!」


 石売りが興奮した様子で首を振る。


「というか、払いすぎですよ! これ一つから、どれだけの加工品できると思ってるんです!? それを売りさばけば、向こう十年は遊べますよ!? 私、そこまでの働きなんかしてませんが!?」


 石売りは、大いに取り乱しているよう。
 まさに狙い通りだ。




「別にいいんだよ。―――超過分は、これからもらう。」




 そこで、翡翠ひすい色の瞳があやしげに光った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...