Fairy Song

時雨青葉

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第19歩目 闇は、確実に忍び寄って―――

ちぐはぐな裏表

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 最後にもう一度礼をして、コルムとウタが寄り添いながら浜辺を歩いていく。


「はあ……素敵なお話だった。」


 二人を見送るフィオリアは、どこかうっとりとしていた。


「そんなに憧れるもんか?」


「女の子だもん。ピンチを助けてくれた王子様が運命の相手だったなんて、物語みたいで素敵じゃない!」


「ははっ。俺らの出会いなんて、近所の公園だったもんな。」


 ロマンチックさなんて欠片かけらもなく、それ以前に互いに望んでいなかった出会い。
 今となっては、それも懐かしい思い出だ。


「シュルク……」


 ふと沈む、フィオリアの声。
 フィオリアはシュルクの横にすっと並ぶと、その腕に自分のそれを絡めた。


「お、おい…っ」


 シュルクは狼狽うろたえる。


「いいでしょ。ちょっとの間だけでいいから、恋人気分を味わってみたいの。」


 茶目っ気を含めて笑うフィオリアは、自分の頭をシュルクの肩に乗せた。
 そして―――


「シュルク。なんか変だよ。」


 ひっそりと、そう指摘する。


「―――っ」


 シュルクは肩を震わせる。


「役に徹してるだけじゃない気がする。一体、何をそんなに警戒してるの?」
「………」


「私には言えないこと?」
「……いや。俺が肩肘を張りすぎてるだけかもしれないな。」


 恋人たちがそうするように。
 シュルクはフィオリアに合わせて、自分の頭も彼女の方へと傾けた。


「ここのスタッフも客も、全員を敵だと思うことにしてる。昨日も寝てないんだ。」
「え…」


 予想外の事実だったのだろう。
 一度目を丸くしたフィオリアの顔色が、瞬く間に青くなっていく。


「そ、そんな無茶をしてたの? 体調だってよくないのに…っ」
「まだ一日だ。それに、体調だって特に問題はないって、医者も言ってたじゃねぇか。」


「本気でそう思ってるの…? 体調が悪いのは、きっと―――」
「フィオリア。」


 華奢きゃしゃな体をぐっと引き寄せ、先に続くだろう言葉を遮る。


言霊ことだまって知ってるか? 嫌なことを口に出したら、それが本当に現実になっちまうかもしれねぇぞ。」


「そういう問題じゃ……」


「分かってるよ。俺だって、全部を楽天的に考えちゃいないさ。自分の身に何が起こってるのかくらい、言われずとも察してるよ。」


「………」


 フィオリアは黙り込む。


 やはり、彼女も呪いの進行を疑っていたか。
 深刻そうに唇を噛む姿を見れば、それは明らかだった。


 だから自分も、明言はせずともその疑いを伏せないでおこうと思った。
 一人で抱えて悶々もんもんとするよりも、二人で共に不安を分かち合う方がいいはずだ。


「とはいえ、今はそっちよりも大事なことがあるからな。さっきも言ったけど、ここまで来た以上、いつ何が起こるか分からないから。」


「……うん。そうだね。」


 少し悩ましげではあったが、フィオリアはこちらに同意してくれた。
 それにほっと安堵していると、彼女がより一層身を寄せてくる。


「でも、シュルクだけがずっと警戒するのも大変でしょ? ここは私も―――」
「お前は、そのまま自然体でいてくれ。」


 ほぼゼロになった距離感のまま、シュルクはフィオリアの耳元でささやく。


「実際のところ、お前の自然体が俺の警戒を上手くごまかしてくれてるんだ。自由な主人と堅物な護衛って設定は、昨日で十分浸透したはずだ。ここでお前まで態度がよそよそしくなったら、敵に警戒されるかもしれない。ネラみさきに着く前に事を荒立てられたら厄介だ。」


「事を荒立てられたらって……確実にこの中に奴隷商がいるって、シュルクはそう思ってるの?」


「確証はない。でも、いると想定して動いた方がいいだろうな。たとえツアーに関係している奴らが奴隷商じゃないとしても、移動中にすれ違う奴らまで奴隷商じゃないとは言いきれない。俺はそこまで計算してる。」


「すれ違う人…。確かに、そうだね……」


「ちょうどいい。他の奴らも自由に動き回ってるうちに、いくつか確認させてくれ。」


 念のために周囲の様子を見渡してから、シュルクは慎重に口を開いた。


「昨日今日と、運命石を見せてくれとか、上着を取れとか言ってきた奴はいたか?」
「上着は窮屈じゃないのって訊いてきた人は何人かいたけど、運命石のことはまだ何も。」


「お前の目から見て、怪しい奴は?」
「特には…。みんな、いい人だったと思うよ。」


「そうか……」


 シュルクは物思いにふける。


 現状の所感は、自分もフィオリアと同じ。
 いて言うなら、ラミアがうざったいくらいだ。


 ツアー自体は平穏に進んでいる。
 ならば、昨夜見た光景はなんだというのか。


 男たちに運ばれていった彼らはどこへ消えた?
 まさか、家が近所だから送っていっただけ?


 ―――そんなはずはない。


 昨日だけで、五人が運ばれていった。
 その五人全員が、近所に住む常連だとでも?
 自分は、そんなに都合よく物事はとらえない。


 フィオリアにはにごしておいたが、確実に従業員か客の中に奴隷商の内通者がいる。
 客は置いておくとして、従業員全員がグルだという可能性も否定できない。


 危険と隣り合わせの場所を巡る観光ツアー。
 それが成り立っていること自体、おかしな話なのだから―――

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