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第19歩目 闇は、確実に忍び寄って―――
葛藤の夜への乱入者
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時おり聞こえていた衣擦れの音が消えた。
それに気付き、シュルクは資料から顔を上げた。
「寝たか……」
ベッド際に近寄って枕元に腰を下ろしたシュルクは、絹のように細いフィオリアの髪を優しく梳いた。
相当深く眠っているのだろう。
穏やかに肩を上下させるフィオリアは、全く起きる気配がなかった。
「フィオリア。」
試しに名前を呼んでみる。
しかし、やはり返事はない。
「……怒るなよ?」
ぽつりと呟く。
それは、ずっと気を張っていた精神の隙間から零れた弱音だった。
「お前を信用してないわけじゃないんだ。お前に、こんな現実を見てほしくないだけなんだよ……」
そう。
これは結局、独りよがりなわがままだ。
誰よりも大事にしたい。
そう思うからこそ、肝心な部分に蓋をしてしまった。
本当に自分勝手だ。
そんなことを思えば、途端に自己嫌悪が鎌首をもたげてくる。
この旅を始めてから、自分は彼女を何度不安にさせたただろう。
一体、何度彼女を危険で苦しいに状況に放り込んでしまっただろう。
ただでさえ力不足を痛感してばかりなのに、とうとう自分の首に呪いの手がかかってしまった。
こんな不甲斐ない自分を見られたくないと思うのは、愚かな逃げだろうか?
こうして自信をなくして弱音を吐いてしまうのは、無責任だろうか?
―――本当は、危険のない場所で自分の帰りを待っていてほしいなんて。
そう思ってしまうのは、罪なことなのだろうか…?
『絶対、絶対に戻ってきて。』
イストリアでああ言われて送り出された時、どんな時よりも安堵した。
あの言葉に、どれだけ背中を押されただろう。
いつもああ言って、送り出してくれたら。
そうは思うけれど、それはきっとフィオリアの本当の願いではなくて。
「待っててくれって言ったら、それこそお前は怒るんだろうな……」
分かっている。
分かっているのだ。
でも……
ぐるぐると脳内を駆ける思考は、そこで止まらざるを得なくなる。
部屋のドアが勢いよくノックされたからだ。
夜中にもかかわらず、近所迷惑レベルで大きなノックだ。
ちょっとは周囲に遠慮しろっての。
一つ溜め息をついたシュルクは、ドアの鍵を開ける。
少しドアを開くと、そこからなだれ込むようにラミアが入ってきた。
「うわ、酒くさ……」
とっさにラミアを支えることになったシュルクは、眉をひそめる。
彼女の全身から漂うアルコール臭。
どうやら、かなり飲んできたらしい。
「あはは! やっぱ、あんたは起きてたわねー♪」
シュルクにべったりともたれかかるラミアは、上機嫌でシュルクの肩を叩いた。
「こんな時間に、何しに来たんですか。迷惑なんですけど?」
「相変わらずつれないわね。ちょっと付き合いなさいよー。」
彼女の手には、当然のように酒の瓶が。
シュルクは大袈裟に息を吐く。
そして、露骨に煙たい顔をしてしっしっと厄介払いを。
「他を当たってください。」
「みーんな、酔い潰れちゃった。」
「なら、諦めて寝てください。」
「いーやーよー。次はあんたと飲むって決めてたのーっ!」
「だーっ! しつこいな!!」
次なる手段として、シュルクは怒鳴ることを選択する。
「何なんだよ、お前は! ずーっと我慢してたけど、もう限界だ!! なんで俺たちに逐一絡んでくる!? おかげで、こっちは研究どころじゃないんだぞ!!」
「研究なんて、ポイでいいじゃない。こっちを見てよ。」
「はあ?」
怪訝そうなシュルクを真正面から見つめ、ラミアは妖艶に微笑んだ。
「なんで絡んでくるのかって? レディにそんなことを言わせるなんて、まだまだお子様ねぇ。」
ラミアの両腕が、もったいつけるような仕草でシュルクの首にかかる。
「好みだから……じゃ、いけない? その顔も声も、ご主人に忠実なところも、ぜーんぶあたし好み。……ねぇ、あたしと遊びましょうよ?」
力がこもるラミアの腕。
次の瞬間、互いの唇の距離がゼロになる―――
それに気付き、シュルクは資料から顔を上げた。
「寝たか……」
ベッド際に近寄って枕元に腰を下ろしたシュルクは、絹のように細いフィオリアの髪を優しく梳いた。
相当深く眠っているのだろう。
穏やかに肩を上下させるフィオリアは、全く起きる気配がなかった。
「フィオリア。」
試しに名前を呼んでみる。
しかし、やはり返事はない。
「……怒るなよ?」
ぽつりと呟く。
それは、ずっと気を張っていた精神の隙間から零れた弱音だった。
「お前を信用してないわけじゃないんだ。お前に、こんな現実を見てほしくないだけなんだよ……」
そう。
これは結局、独りよがりなわがままだ。
誰よりも大事にしたい。
そう思うからこそ、肝心な部分に蓋をしてしまった。
本当に自分勝手だ。
そんなことを思えば、途端に自己嫌悪が鎌首をもたげてくる。
この旅を始めてから、自分は彼女を何度不安にさせたただろう。
一体、何度彼女を危険で苦しいに状況に放り込んでしまっただろう。
ただでさえ力不足を痛感してばかりなのに、とうとう自分の首に呪いの手がかかってしまった。
こんな不甲斐ない自分を見られたくないと思うのは、愚かな逃げだろうか?
こうして自信をなくして弱音を吐いてしまうのは、無責任だろうか?
―――本当は、危険のない場所で自分の帰りを待っていてほしいなんて。
そう思ってしまうのは、罪なことなのだろうか…?
『絶対、絶対に戻ってきて。』
イストリアでああ言われて送り出された時、どんな時よりも安堵した。
あの言葉に、どれだけ背中を押されただろう。
いつもああ言って、送り出してくれたら。
そうは思うけれど、それはきっとフィオリアの本当の願いではなくて。
「待っててくれって言ったら、それこそお前は怒るんだろうな……」
分かっている。
分かっているのだ。
でも……
ぐるぐると脳内を駆ける思考は、そこで止まらざるを得なくなる。
部屋のドアが勢いよくノックされたからだ。
夜中にもかかわらず、近所迷惑レベルで大きなノックだ。
ちょっとは周囲に遠慮しろっての。
一つ溜め息をついたシュルクは、ドアの鍵を開ける。
少しドアを開くと、そこからなだれ込むようにラミアが入ってきた。
「うわ、酒くさ……」
とっさにラミアを支えることになったシュルクは、眉をひそめる。
彼女の全身から漂うアルコール臭。
どうやら、かなり飲んできたらしい。
「あはは! やっぱ、あんたは起きてたわねー♪」
シュルクにべったりともたれかかるラミアは、上機嫌でシュルクの肩を叩いた。
「こんな時間に、何しに来たんですか。迷惑なんですけど?」
「相変わらずつれないわね。ちょっと付き合いなさいよー。」
彼女の手には、当然のように酒の瓶が。
シュルクは大袈裟に息を吐く。
そして、露骨に煙たい顔をしてしっしっと厄介払いを。
「他を当たってください。」
「みーんな、酔い潰れちゃった。」
「なら、諦めて寝てください。」
「いーやーよー。次はあんたと飲むって決めてたのーっ!」
「だーっ! しつこいな!!」
次なる手段として、シュルクは怒鳴ることを選択する。
「何なんだよ、お前は! ずーっと我慢してたけど、もう限界だ!! なんで俺たちに逐一絡んでくる!? おかげで、こっちは研究どころじゃないんだぞ!!」
「研究なんて、ポイでいいじゃない。こっちを見てよ。」
「はあ?」
怪訝そうなシュルクを真正面から見つめ、ラミアは妖艶に微笑んだ。
「なんで絡んでくるのかって? レディにそんなことを言わせるなんて、まだまだお子様ねぇ。」
ラミアの両腕が、もったいつけるような仕草でシュルクの首にかかる。
「好みだから……じゃ、いけない? その顔も声も、ご主人に忠実なところも、ぜーんぶあたし好み。……ねぇ、あたしと遊びましょうよ?」
力がこもるラミアの腕。
次の瞬間、互いの唇の距離がゼロになる―――
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