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第20歩目 静観
愛しい人に迫る魔の手
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シュルクを諦めるつもりはない、と。
そう明示したラミアは、上機嫌で語り始める。
「あんなお宝、ただで帰すなんてありえないでしょ。緑の髪と目ってだけでも希少なのに、あの顔と身のこなしよ。間違いなく、ここ数年で一番の高値がつくわ。観賞用として店に売ってもよし、従順な護衛として売ってもよし。奴隷の刻印をつけるのが、もったいなくなるくらいね。」
「では、刻印はつけずに限定品評会を開いてはどうです?」
「そうね。品評会への参加費だけふんだくって何回か焦らせば、限界まで値段は上げられそうね。だけど……」
そこで、ラミアが難しげに唸る。
「あれだけの高級品じゃない? 一度で売り払いってのも、どうなのかしら…? あたしたちのペットとして飼い慣らした方が、継続的な収益を得られてプラスって感じもしない?」
「ああ…。言われてみると、確かに。」
「いっそのことこちら側に引き込めれば、彼自ら売り値の十倍は稼いでくれそうですよね。」
「でしょー? あたしが仕掛けたら、即で交渉を持ちかけてきたくらいだもの。清濁を併せ呑む気概があるかつ、自分の能力に自信もあるんでしょう。ちょっと、アプローチを変えてみようかしら。」
ラミアの意見に異論はないのか、他の皆も頭を捻る。
「一番の論点は、あの彼をどう落とすかでしょうね。」
しばらくして、男性の一人が思案げに呟いた。
「僕も何度か話をしましたけど、ラミアさんが言うとおり、隙という隙はないんですよね。睡眠薬入りの食事も食べてくれないし、夜も寝ずにお嬢様の番人をしてるようですから。」
「ラミアさんが仕掛けても動揺しなかったってことは、私たちのやり口が初めから分かっていたんですよね…。それだけの情報を集めたにしろ、推測で動いていたにしろ、難攻不落なのは確実ですね……」
この人たちは、先ほどから何を話しているのだろう。
彼らの間で交わされる会話が、不快感で全身を粟立たせるようだ。
人々を薬で眠らせて、彼らの意識がないうちに悪事を働く。
シュルクがツアーで出される食事を頑なに拒んでいたのは、その可能性を危惧していたからだったんだ。
自分がやけに眠たくてたまらなかったのは、まんまと彼らの策に乗せられていたから?
じゃあ、今までいなくなった人たちは…?
ここに残ると言って、ツアーを離脱したコルムやウタたち。
まさか、彼らはもう―――
生理的な嫌悪で吐き気がしてくる。
ぐらりと体がよろけてしまって、体を支えようとした足が枝を踏んでしまった。
「誰だ!?」
大きく響く誰何の声。
「あ…」
しまったと思った時にはもう遅い。
話し合っていた彼らの視線が、漏れなくこちらに集中してしまった。
「あら、聞いてたの。」
動揺している彼らの中で唯一、ラミアだけは暢気に煙管を吸う。
「聞かれちゃったなら、しょうがないわね。」
わざとらしく肩をすくめたラミアは、フィオリアを視界の中心に据える。
ねっとりとしたその視線に、背筋が冷えた。
「あの子の弱点が一つあるとすれば、そこのお嬢様ね。」
唇で弧を描くラミア。
「ここは、あの子に言うことを聞かせるための人質にでもなってもらいましょうか。」
彼女がそう言った瞬間、周囲の人々の雰囲気と態度が豹変する。
「いや……来ないで……」
狩人の目でじりじりと近寄ってくる彼らに怯え、フィオリアは一歩退いた。
とっさに、その手が外套の内ポケットを探る。
そこには、シュルクから渡されたお守りが二つ。
どうする?
スリーフォスを閉じ込めたガラス玉を割って逃げる?
でも、今逃げたところで何になるの?
自分の身を守ることはできる。
でも、自分が逃げたところで、彼女たちは他の客を狙うだけだろう。
それじゃあ、ここで彼女たちの悪事を知った意味もない。
―――なら、どうする?
震える手はいつの間にか、ペンに見せかけた小型のナイフを握っていた。
自分が逃げるだけではだめ。
ここで彼女たちを止めないと。
そう思いはするけど、本能的な恐怖が全身を縛りつける。
皆を助けるために、彼女たちを傷つける。
本当に、自分にそんなことができるのだろうか。
想像しただけで恐ろしくて、ナイフを握る手が強張ったまま動かない。
霊神召喚をする余裕さえなかった。
そうこうしているうちに、着実にラミアの手先が距離を縮めてくる。
どうしよう。
怖い。
そう思った時だ。
「やめろ!!」
泣きたくなるような、安心するような。
そんな声が耳朶を叩いたのは―――
そう明示したラミアは、上機嫌で語り始める。
「あんなお宝、ただで帰すなんてありえないでしょ。緑の髪と目ってだけでも希少なのに、あの顔と身のこなしよ。間違いなく、ここ数年で一番の高値がつくわ。観賞用として店に売ってもよし、従順な護衛として売ってもよし。奴隷の刻印をつけるのが、もったいなくなるくらいね。」
「では、刻印はつけずに限定品評会を開いてはどうです?」
「そうね。品評会への参加費だけふんだくって何回か焦らせば、限界まで値段は上げられそうね。だけど……」
そこで、ラミアが難しげに唸る。
「あれだけの高級品じゃない? 一度で売り払いってのも、どうなのかしら…? あたしたちのペットとして飼い慣らした方が、継続的な収益を得られてプラスって感じもしない?」
「ああ…。言われてみると、確かに。」
「いっそのことこちら側に引き込めれば、彼自ら売り値の十倍は稼いでくれそうですよね。」
「でしょー? あたしが仕掛けたら、即で交渉を持ちかけてきたくらいだもの。清濁を併せ呑む気概があるかつ、自分の能力に自信もあるんでしょう。ちょっと、アプローチを変えてみようかしら。」
ラミアの意見に異論はないのか、他の皆も頭を捻る。
「一番の論点は、あの彼をどう落とすかでしょうね。」
しばらくして、男性の一人が思案げに呟いた。
「僕も何度か話をしましたけど、ラミアさんが言うとおり、隙という隙はないんですよね。睡眠薬入りの食事も食べてくれないし、夜も寝ずにお嬢様の番人をしてるようですから。」
「ラミアさんが仕掛けても動揺しなかったってことは、私たちのやり口が初めから分かっていたんですよね…。それだけの情報を集めたにしろ、推測で動いていたにしろ、難攻不落なのは確実ですね……」
この人たちは、先ほどから何を話しているのだろう。
彼らの間で交わされる会話が、不快感で全身を粟立たせるようだ。
人々を薬で眠らせて、彼らの意識がないうちに悪事を働く。
シュルクがツアーで出される食事を頑なに拒んでいたのは、その可能性を危惧していたからだったんだ。
自分がやけに眠たくてたまらなかったのは、まんまと彼らの策に乗せられていたから?
じゃあ、今までいなくなった人たちは…?
ここに残ると言って、ツアーを離脱したコルムやウタたち。
まさか、彼らはもう―――
生理的な嫌悪で吐き気がしてくる。
ぐらりと体がよろけてしまって、体を支えようとした足が枝を踏んでしまった。
「誰だ!?」
大きく響く誰何の声。
「あ…」
しまったと思った時にはもう遅い。
話し合っていた彼らの視線が、漏れなくこちらに集中してしまった。
「あら、聞いてたの。」
動揺している彼らの中で唯一、ラミアだけは暢気に煙管を吸う。
「聞かれちゃったなら、しょうがないわね。」
わざとらしく肩をすくめたラミアは、フィオリアを視界の中心に据える。
ねっとりとしたその視線に、背筋が冷えた。
「あの子の弱点が一つあるとすれば、そこのお嬢様ね。」
唇で弧を描くラミア。
「ここは、あの子に言うことを聞かせるための人質にでもなってもらいましょうか。」
彼女がそう言った瞬間、周囲の人々の雰囲気と態度が豹変する。
「いや……来ないで……」
狩人の目でじりじりと近寄ってくる彼らに怯え、フィオリアは一歩退いた。
とっさに、その手が外套の内ポケットを探る。
そこには、シュルクから渡されたお守りが二つ。
どうする?
スリーフォスを閉じ込めたガラス玉を割って逃げる?
でも、今逃げたところで何になるの?
自分の身を守ることはできる。
でも、自分が逃げたところで、彼女たちは他の客を狙うだけだろう。
それじゃあ、ここで彼女たちの悪事を知った意味もない。
―――なら、どうする?
震える手はいつの間にか、ペンに見せかけた小型のナイフを握っていた。
自分が逃げるだけではだめ。
ここで彼女たちを止めないと。
そう思いはするけど、本能的な恐怖が全身を縛りつける。
皆を助けるために、彼女たちを傷つける。
本当に、自分にそんなことができるのだろうか。
想像しただけで恐ろしくて、ナイフを握る手が強張ったまま動かない。
霊神召喚をする余裕さえなかった。
そうこうしているうちに、着実にラミアの手先が距離を縮めてくる。
どうしよう。
怖い。
そう思った時だ。
「やめろ!!」
泣きたくなるような、安心するような。
そんな声が耳朶を叩いたのは―――
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