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第24歩目 特訓の始まり
知らないことだらけの世界
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この里の夜空はとても綺麗だ。
星たちのまたたきに霊子たちの光が加わり、空にも地上にも幻想的な光景を作り上げている。
しかし……今ばかりは、それを悠長に眺める気分にはなれない。
「くっ……う…っ」
ズキズキと痛む胸を押さえ、シュルクはベッドの上で小さく縮こまる。
ネラ岬で運命石を回収した時以来、約一週間ぶりの痛み。
予想していたとおり、それはこれまでよりも強く自分を苛んできた。
以前までは数分で痛みが収まっていたのに、今回は十分以上の時間が経過しても収まる気配がない。
「どうしたもんかね…。あんまり長引くと、フィオリアに気付かれかねないんだけど…っ」
大丈夫。
胸が痛いだけで呼吸ができないわけでもないし、まだ死ぬようなレベルじゃない。
頭のどこかでそう確信はしていても、こんな姿を好きな相手には見せたくないものだ。
彼女の泣き顔ならリドーで腐るほど見たんだし、しばらくは笑顔だけを見ていたい。
そんなわがままで、呪いの症状がひどくなっていることを言えないままでいる。
この先も運命石を集め続けるなら、いつかは隠し通せなくなる日が来ると。
それも分かっているのに、やっぱり言うに言えなくて……
依然として襲い来る痛みに耐えていると、ふいにドアをノックされる。
そして、ノックの主はこちらの返事を待つことなく部屋に入ってきた。
「……ああ。なんとなく、来るんじゃないかなって思ってたよ。霊子がしゃべらないわけがないもんな…っ」
薄目を開けた先にいたガルドに、シュルクは思わず苦笑い。
一方のガルドは、憂いに満ちた表情でシュルクに手を伸ばし、額に浮かんでいた汗を拭う。
「まったく…。無駄にかっこつけて、一人で抱え込んじゃってからに。つらいならつらいと、正直に言えばいいものを。」
「別に、つらくはないんだよ。」
よろよろと上半身を起こしたシュルクは、笑みを絶やさないまま語る。
「なんだろうな…。俺、逆境が好きなのかも。こうして苦しめられるほど、もっとやってみやがれって思うんだよね。この程度のことで折れるつもりなんかないし。」
「やれやれ。ゆっくり休ませろって言う霊子が多い一方で、早く恵み子の技術を教えてやれって言う霊子も多いわけだよ。」
頭が痛そうにこめかみを押さえたガルドが、しばらくして小さく肩を落とした。
「私が呼ばれたのは、こういう理由だったんだね。―――リーラ、癒してあげてくれないかな?」
虚空に向かってそう告げるガルド。
すると、彼が差し出した手のひらに優しい光が灯り、その中から金色の髪と空色の瞳をした小人が現れた。
「へ…?」
まさかの光景を前にして、瞬間的に痛みも忘れてしまった。
自分がそんな風に呆けている間に、小人の少女は自分の肩に舞い降りて歌を歌う。
そうして彼女が歌い終わる頃には、胸の痛みが嘘のようになくなっていた。
「そんな……あっさりと一瞬で……」
もはや、口からは呻くような声しか出ない。
ガルドが喚び出したのは、過去に自分も召還したことがある第十霊神《癒しの詩人 リーラエーラ》。
確かに恵み子ともなれば第十霊神を召還するなんて朝飯前だろうけど、自分の時とは条件が違いすぎる。
呪文も唱えていない上に、霊神の名前すらも略して喚び出すだなんて……
「何をそんなに驚くんだい? まさか、外には恵み子が呪文の詠唱なしで霊神を召還できるって記録も残っていないのかい?」
「いや、記録はあったよ。だけど、本当のことだとは思ってなくて……」
正直な心境を伝えると、ガルドは思案げに唸りながら腕を組んだ。
「そうか…。ということは、このことも知らないか信じられていないかな?」
「このことって…?」
「リーラ。」
おうむ返しに訊ねると、その回答はガルドからリーラエーラに委ねられる。
それを受けて自分の前に浮かんだリーラエーラを見つめていると……
「―――ふふ。こんばんは。」
薄く開いた唇から、歌とは明らかに違う声が発せられた。
「……しゃ、しゃべれんの?」
「やっぱり知らなかったか。」
きょとんとして目をまたたかせるシュルクに、ガルドが溜め息混じりに一言。
リーラエーラも小さく笑う。
「この前喚ばれた時は、癒しだけを施して帰ったものね。あの時に話しかけてもよかったのだけど、ここに来てからの方が受け入れやすいかと思って、あえて黙っていたの。」
「そうなんだ…。え? じゃあ、他の霊神も?」
「ええ。知恵や知識に差はあれど、霊神ほどの高位になれば大体は。とはいえ、第一や第二くらいの霊神はたくさんの人が喚べる分、性格や記憶は様々だけどね。」
「え、ええ…?」
やばい。
霊子や霊神のことなら極めたと思っていた自分でも、全然話についていけない。
静かに目を回すシュルク。
その反応も無理はないと思っているらしく、ガルドもリーラエーラも保護者のような暖かい眼差しを向けるだけであった。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ。あなたがずっと努力してきたのはみんなが知っているし……あなたが悪くないってことも、ちゃんと分かっているの。あの環境じゃあ、私たちと縁を深めるのは難しいものね。」
「………」
気遣わしげに髪に触れられて、シュルクはなんとも言えない気持ちで視線を横にずらす。
ここで初めて知る霊子や霊神の想い。
それを目の当たりにするほどに、自分の中には罪悪感のようないたたまれなさが積み重なっていく。
「そんな顔をしないで。寂しくて文句は言っているけれど、私たちは今もあなたが大好きよ。過去は過去として、これからやり直していきましょう?」
「……うん。」
小さく頷きはするシュルクだが、その表情は複雑なままで晴れそうにない。
それを見かねて、ガルドがわざとらしく咳払いをした。
「それはそうと、シュルク。君が今まで集めてきた運命石を、少しの間貸してくれないか?」
「え…?」
告げられたのは、自分の想定には全くなかった頼み。
顔を上げたシュルクからは気まずさが抜けていく代わりに、不可解そうな雰囲気が広がっていく。
「いいけど……なんで?」
ガルドのことは信用しているので、運命石を貸すのは構わない。
しかし、彼がそう求めてくる理由にとんと検討がつかないのだ。
「ちょうどいいから、しばらくリーラに預けてその子たちも癒してもらおうと思ってね。ついでに、私もそれに施したいことがあるんだ。」
返ってきた答えを脳内で繰り返してみても、納得どころか疑問が増えるばかり。
それでも、今のガルドがこれ以上の解説をしてくれるとも思えなくて……
「まあ……分かった。」
ここは素直に、運命石が入った小瓶を渡すしかなかった。
星たちのまたたきに霊子たちの光が加わり、空にも地上にも幻想的な光景を作り上げている。
しかし……今ばかりは、それを悠長に眺める気分にはなれない。
「くっ……う…っ」
ズキズキと痛む胸を押さえ、シュルクはベッドの上で小さく縮こまる。
ネラ岬で運命石を回収した時以来、約一週間ぶりの痛み。
予想していたとおり、それはこれまでよりも強く自分を苛んできた。
以前までは数分で痛みが収まっていたのに、今回は十分以上の時間が経過しても収まる気配がない。
「どうしたもんかね…。あんまり長引くと、フィオリアに気付かれかねないんだけど…っ」
大丈夫。
胸が痛いだけで呼吸ができないわけでもないし、まだ死ぬようなレベルじゃない。
頭のどこかでそう確信はしていても、こんな姿を好きな相手には見せたくないものだ。
彼女の泣き顔ならリドーで腐るほど見たんだし、しばらくは笑顔だけを見ていたい。
そんなわがままで、呪いの症状がひどくなっていることを言えないままでいる。
この先も運命石を集め続けるなら、いつかは隠し通せなくなる日が来ると。
それも分かっているのに、やっぱり言うに言えなくて……
依然として襲い来る痛みに耐えていると、ふいにドアをノックされる。
そして、ノックの主はこちらの返事を待つことなく部屋に入ってきた。
「……ああ。なんとなく、来るんじゃないかなって思ってたよ。霊子がしゃべらないわけがないもんな…っ」
薄目を開けた先にいたガルドに、シュルクは思わず苦笑い。
一方のガルドは、憂いに満ちた表情でシュルクに手を伸ばし、額に浮かんでいた汗を拭う。
「まったく…。無駄にかっこつけて、一人で抱え込んじゃってからに。つらいならつらいと、正直に言えばいいものを。」
「別に、つらくはないんだよ。」
よろよろと上半身を起こしたシュルクは、笑みを絶やさないまま語る。
「なんだろうな…。俺、逆境が好きなのかも。こうして苦しめられるほど、もっとやってみやがれって思うんだよね。この程度のことで折れるつもりなんかないし。」
「やれやれ。ゆっくり休ませろって言う霊子が多い一方で、早く恵み子の技術を教えてやれって言う霊子も多いわけだよ。」
頭が痛そうにこめかみを押さえたガルドが、しばらくして小さく肩を落とした。
「私が呼ばれたのは、こういう理由だったんだね。―――リーラ、癒してあげてくれないかな?」
虚空に向かってそう告げるガルド。
すると、彼が差し出した手のひらに優しい光が灯り、その中から金色の髪と空色の瞳をした小人が現れた。
「へ…?」
まさかの光景を前にして、瞬間的に痛みも忘れてしまった。
自分がそんな風に呆けている間に、小人の少女は自分の肩に舞い降りて歌を歌う。
そうして彼女が歌い終わる頃には、胸の痛みが嘘のようになくなっていた。
「そんな……あっさりと一瞬で……」
もはや、口からは呻くような声しか出ない。
ガルドが喚び出したのは、過去に自分も召還したことがある第十霊神《癒しの詩人 リーラエーラ》。
確かに恵み子ともなれば第十霊神を召還するなんて朝飯前だろうけど、自分の時とは条件が違いすぎる。
呪文も唱えていない上に、霊神の名前すらも略して喚び出すだなんて……
「何をそんなに驚くんだい? まさか、外には恵み子が呪文の詠唱なしで霊神を召還できるって記録も残っていないのかい?」
「いや、記録はあったよ。だけど、本当のことだとは思ってなくて……」
正直な心境を伝えると、ガルドは思案げに唸りながら腕を組んだ。
「そうか…。ということは、このことも知らないか信じられていないかな?」
「このことって…?」
「リーラ。」
おうむ返しに訊ねると、その回答はガルドからリーラエーラに委ねられる。
それを受けて自分の前に浮かんだリーラエーラを見つめていると……
「―――ふふ。こんばんは。」
薄く開いた唇から、歌とは明らかに違う声が発せられた。
「……しゃ、しゃべれんの?」
「やっぱり知らなかったか。」
きょとんとして目をまたたかせるシュルクに、ガルドが溜め息混じりに一言。
リーラエーラも小さく笑う。
「この前喚ばれた時は、癒しだけを施して帰ったものね。あの時に話しかけてもよかったのだけど、ここに来てからの方が受け入れやすいかと思って、あえて黙っていたの。」
「そうなんだ…。え? じゃあ、他の霊神も?」
「ええ。知恵や知識に差はあれど、霊神ほどの高位になれば大体は。とはいえ、第一や第二くらいの霊神はたくさんの人が喚べる分、性格や記憶は様々だけどね。」
「え、ええ…?」
やばい。
霊子や霊神のことなら極めたと思っていた自分でも、全然話についていけない。
静かに目を回すシュルク。
その反応も無理はないと思っているらしく、ガルドもリーラエーラも保護者のような暖かい眼差しを向けるだけであった。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ。あなたがずっと努力してきたのはみんなが知っているし……あなたが悪くないってことも、ちゃんと分かっているの。あの環境じゃあ、私たちと縁を深めるのは難しいものね。」
「………」
気遣わしげに髪に触れられて、シュルクはなんとも言えない気持ちで視線を横にずらす。
ここで初めて知る霊子や霊神の想い。
それを目の当たりにするほどに、自分の中には罪悪感のようないたたまれなさが積み重なっていく。
「そんな顔をしないで。寂しくて文句は言っているけれど、私たちは今もあなたが大好きよ。過去は過去として、これからやり直していきましょう?」
「……うん。」
小さく頷きはするシュルクだが、その表情は複雑なままで晴れそうにない。
それを見かねて、ガルドがわざとらしく咳払いをした。
「それはそうと、シュルク。君が今まで集めてきた運命石を、少しの間貸してくれないか?」
「え…?」
告げられたのは、自分の想定には全くなかった頼み。
顔を上げたシュルクからは気まずさが抜けていく代わりに、不可解そうな雰囲気が広がっていく。
「いいけど……なんで?」
ガルドのことは信用しているので、運命石を貸すのは構わない。
しかし、彼がそう求めてくる理由にとんと検討がつかないのだ。
「ちょうどいいから、しばらくリーラに預けてその子たちも癒してもらおうと思ってね。ついでに、私もそれに施したいことがあるんだ。」
返ってきた答えを脳内で繰り返してみても、納得どころか疑問が増えるばかり。
それでも、今のガルドがこれ以上の解説をしてくれるとも思えなくて……
「まあ……分かった。」
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