Fairy Song

時雨青葉

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第25歩目 日だまりと水溜まり

霊神召還の意義

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 それから数日は、霊子の声を聞く特訓にあまり集中できなかった。


「時には、立ち止まることも大事なことさ。シュルクの場合、普段から突っ走りすぎている節があるようだから、ちょうどいいんじゃないかい?」


 優しく肩を叩いてきたガルドは、自分に何が起こっていたのかを知っているような雰囲気だった。


「いいんだよ。長い目で見れば、たった数日なんて誤差の範囲じゃない。私にルルーシェとしての心を認めていいって言ってくれたように、シュルクも過去の自分を認めてあげて。」


 そう言ったフィオリアの笑顔は、過去を受け入れられた晴れやかさに満ちているように見えて、今まさにその壁にぶち当たっている自分にはいささかまぶしすぎた。


 そして、自分から落ち込んだ雰囲気でも感じ取ったのか、ミオンやシノンに動物たちが遊ぼうとせがんでくる。


 そんな風に日中はせわしなく過ぎていくのだけど……夜になれば、嫌でも己と向き合う長い時間がやってくる。


 この夜も例外ではなかった。


 ―――強烈な痛みを伴うこと以外は。


「くそ…っ。痛みが出る間隔も短くなってるな……」


 胸を押さえて、シュルクは苦しげに奥歯を噛む。


 無表情で耐えるにはつらくなってきた痛み。
 今のところ日中の生活には差し支えないが、それもいつまでのことか。


 とはいえ、以前の一件でこの痛みを最短でやわらげる方法を知られたのが救いだ。


「………」


 ゆっくりとチョーカーを外す。
 周囲でまばゆく輝き出した光を見据みすえて、深く呼吸。


 大丈夫。
 知識は十分に身につけているし、伝承を信じるに足る実例も見た。
 あとは、自分の気持ち一つだと思う。


「―――リーラエーラ。」


 脳裏に小さな少女の姿を思い浮かべながら、呪文は省いて名前だけを呼んでみる。
 すると、周囲の光が瞬く間に凝集し始めた。


 光の中から現れた少女は、優しい歌声をつむぐ。


 しばらくして自分の表情が穏やかになったことを確認し、彼女は空色の双眸をなごませた。


「こんばんは。んでくれてありがとう。」


 どこか嬉しそうに告げたリーラエーラは、次に気遣わしげに額に触れてきた。


「痛みはどう?」


「もう大丈夫。ひどくなる前にリーラに頼れたからか、前に比べたら楽なもんだよ。」


「それはよかった。でも、ごめんなさいね。私はその場しのぎの癒しを施すことしかできないの。」


「気にするなって。原因をどうにかするのは俺たちの仕事だ。その場しのぎでも、痛みをなくせるだけかなりマシだよ。」


「そう言ってくれると嬉しいわ。」


「うん……」


 シュルクは曖昧あいまいに笑って目を伏せる。


 ……どうしてだろう。


 今度リーラエーラをんだら聞いてほしいことがあったのに、なかなか言葉が続かない。


 こんなことを話してもいいのだろうか、と。


 微かな罪悪感が、胸の中にくすぶっている気持ちを形にすることを躊躇ためらわせてしまう。


「……ねぇ、シュルク。あなた、明確な目的と用件がなくちゃ私たちをんじゃいけないって思ってない?」


「え、違うの?」


 自分がリーラエーラと話を続けることを躊躇ためらっていた理由を見事に言い当てられ、シュルクはきょとんとまぶたを叩いた。


「ええ、違うわ。」


 即答したリーラエーラは、周囲の霊子を示すように虚空へと手を掲げた。


「霊神召還っていうのは、本来は人が霊子と言葉を交わすための手段なの。その人がどんな風にコミュニケーションを取りたいか、そして霊子がその人をどんな風に思っているか、それらによって召還される姿形は変わるけれどね。」


「そ、そうなの…?」


「まあ、今となっては本来の目的が薄れても仕方ないんだけどね。自分の適性に合った霊神を召還すればいいのに、今の人たちは霊神が持つ能力を重視して霊神を召還するから。言葉を交わす前に霊子が拡散してしまうし、それ以前に用が済んだらさようならなんだもの。」


「なんか、すみません……」


 霊神が話せるのはおまけ程度の能力だと思っていた自分には、唇を尖らせるリーラエーラに言えることがそれしかない。


 とはいえ、外の世界に流通している霊子学や召還学の教本には、今聞いた話なんて一文も記載されていない。


 教官や学者の口からもそんな話を聞かないことを加味すると、霊神召還の本来の目的は長い歴史の中にうずもれて消えたと考えるのが筋。


 リーラエーラの言うとおり、実用性重視の霊神召還が普通となってしまうのも仕方ないことだろう。


「どう? 少しは気が楽になった?」
「……え?」


 突然そんなことを問われて、シュルクは戸惑いもあらわに表情を固くする。
 リーラエーラはそれを気にせず、優しく笑いかけるだけ。


「ここ最近、ずっと私をびたそうにしてたでしょ? 何をそんなに悩んでいるのかしら?」


 軽い口調の問いかけ。
 それが、心を大きく揺らす。


 リーラエーラを召還したかったのは事実だ。


 胸にわだかまっている疑問や本音は霊子にぶつけないと意味がないし、霊子側の意見を明確に言語化できると分かっている知り合いは彼女くらいだったから。


 でも、癒しを施すことを役割としているリーラエーラを、その役割かられる用件で召還してもいいのか。


 仮に呪いの痛みに襲われて彼女を召還したとしても、役割を終えた彼女を引き留めてしまっていいのか。


 そんな風に考えて、胸のわだかまりを吐き出せずにいた。




 だけど、言葉を交わして心を通わせることこそが霊神召還の意義なのだとしたら―――



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