Fairy Song

時雨青葉

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第26歩目 出るか、残るか―――

左右に揺れる天秤

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 その後、色々と決着がついて家に帰る頃には、普段の昼食の時間を大きく過ぎていた。


「おや。随分と遅かったじゃないか。今、サクナがご飯を温め直しているよ。」


 リビングに入ると、ガルドがそんなことを言ってくる。
 その言葉どおり、キッチンではサクナが鍋に火をかけていた。


「シュルクお兄ちゃんが、名前を全然決められなかったからだよー。」


 嘘やごまかしを知らないミオンたちが、帰りが遅くなった理由を明け透けもなく告げる。


「名前…?」


 小首を傾げるガルド。


 その疑問に応えるように、それまで腕に抱いていた白キツネが肩まで登ってきて、きゅっと鳴きながらガルドに向けて片方の前足を挙げた。


「……ははぁ。レベルアップが早すぎないかい?」


 さすがはめぐの里の長老。
 何があったのか、一瞬で見抜いたようだ。


「シノンがミオンにやらせようとしたから、俺がやるしかなかったんだよ。」


 端的に事情を説明する。
 それに一度目を丸くしたガルドは、これまたすぐに全てを察した顔をする。


「ということは、またチョーカーでもつけようとしたね?」


「だって、落ち着けって言ってるのに、霊子たちが騒ぎまくるから……」


「まあ、事情は分かるけどね。それにしても、名前を全然決められなかったって…。どうせ、あれこれ考えすぎて目でも回してたんだろう?」


「うう…っ」


 見事に正解。
 何も反論できない。


「それで? 名前は決まったのかい?」
「チェーロ!!」
「きゅきゅーっ!!」


 ガルドの質問に、ミオンたちが嬉しそうに答えを寄越す。


「えーっと……」


 そこで、フィオリアが戸惑いがちに口を開いた。


「ごめんなさい。何があったのか、訊いてもいい?」
「ああ、悪い。見えないと分からないよな。」


 フィオリア第一のシュルク。
 彼女の声を聞いた途端、瞬時に恥ずかしさも気まずさも引っ込める。


「朝に軽くだけど、霊神の他に霊獣や霊族ってのが存在するって話はしただろ?」


「うん。実は、シノンちゃんが霊族だとも言ってたよね。」


「そう、その話。これまた簡潔なまとめで申し訳ないけど、あの後ミオンにアドバイスをもらいながら、俺も霊獣を生み出してみたんだよ。で、そいつが俺の肩に乗ってる。」


「ああ! それで、その子の名前がチェーロっていうのね!! ……ふふ。考えすぎて名前をつけるのに時間がかかったなんて、シュルクらしいね。」


「お前まで言うなよ…。というか、突っ込むところはそこか? 俺があっさり霊獣を生み出したことには、違和感とかないの?」


 するすると話が進むことに、シュルクはいささか複雑そう。
 そして、それに対するフィオリアの答えは……


「え? だって、シュルクだもん。才能にあふれたあなたなら、普通にできちゃってもおかしくないじゃない?」


 これであった。


「だから、お前は俺をなんだと思って……」


 そこまで純粋に信じるなって。
 心配すぎて目も離せないじゃないか。


「やれやれ。本当に相思相愛だね。」
「じじ様、そーしそーあいって?」


「ラブラブってことだよ。」
「ラブラブー♪」


 自分たちにも分かる表現になったからか、ミオンとシノンが甲高い声で煽ってくる。
 これはこれで恥ずかしいので、さっさと話題を変えることにした。


「チェーロ、挨拶に行ってこい。」
「きゅっ!」


 肩に乗ったままのチェーロに言うと、チェーロは軽々と跳躍してテーブルに着地。
 その後、トコトコとフィオリアの前に歩いていく。


「今、お前がテーブルに置いてる手の十センチ先くらいにチェーロがいる。」
「えっ?」


 突然のことに戸惑っていたフィオリアは、シュルクの言葉を聞いておろおろとし始めた。


「ええっと……触っても大丈夫…?」
「きゅっ!」


 フィオリアの問いかけに〝いいよ〟と答えるように、チェーロがひと鳴き。


 フィオリアがおそるおそる手を伸ばすと、チェーロは微妙に位置を調整しながら、彼女の手のひらにそっとすり寄った。


 よしよし。
 ちゃんとフィオリアを気遣って、彼女を驚かせない距離の詰め方をしている。
 少し不安だったけど、内面性の定義も上手くできてるじゃないの。


 内心で満足するシュルクが見守る中、フィオリアがチェーロの体を両手で触る。


「うわぁ、ふわふわ…。どんな動物の姿をしてるの?」


「特徴としては、白キツネだな。」


「白キツネ? 結構珍しい動物になったね。どこで手に入れたのかって、食い下がる人は食い下がらない?」


「たまたま縁があったで押し通す。ってか、それしかない。チェーロ、上手いこと合わせてくれ。」


「きゅきゅ!」


「まあ…。ふふふ、チェーロはシュルクに似て賢いのね。」


「きゅー♪」


 もっとフィオリアに構ってもらいたいのか、チェーロは甘えた声をあげながらフィオリアの手にじゃれつく。


 まあ、実際は生まれて一時間経ったかどうかの赤ん坊みたいなものだし、ああなるのも自然なことか。


 フィオリアも癒されているみたいだし、良好な関係を築けそうでよかった。


「可愛い。あなたの顔を見られる日が楽しみね。」


 何気ないフィオリアの言葉。
 油断していただけに、一瞬呼吸が止まってしまった。


(そうだよな…。やっぱり、直接見たいよな。)


 残るという選択になびいていた、心の中にある天秤てんびん
 それが、進むという選択に少し傾く。


(フィオリアは、どうしたいんだろう…?)


 一度、彼女とちゃんと話をしなければ。
 そして、その時は下手に強がりや言い訳をせずに、自分も等身大でいなければ。


 表情には出さず、密かに腹を決めるシュルク。
 そんなシュルクを見つめながら―――


「………」


 一人、シュルクとは違う表情で無言になる人物がいた。

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