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11,ソアさん
しおりを挟むこのまま俺たちは歩いてサイフォスさんの家まで行くことになった。
そして、歩いて五分後。やはり廃屋と見間違うサイフォスさんの家についた。
「ただいまでーす」
ガチャ。サイフォスさんが扉を開けて中に入ると――
「遅いぞい」
ソファーに銀髪で、ここらではあまり見ない着物を着た、可愛らしい女の子が座っていた。まるで人形のようだ。
よく見ると頭には小さな耳が、お尻には尻尾が付いている。獣人族だろうか? 推定十歳ぐらい。
「まあまあ、お土産を買ってきたんで許してください、ソア様」
そう言って、家に戻る前に買っていたまんじゅうとバーガーなるものを渡す。
「うむ、許すぞ。師匠にお土産を買ってくるのも、弟子の仕事じゃ」
ニコッと嬉しそうに笑う女の子。なんだろう、こういうの、可憐って表現すればいいのかな? とにかく、俺が知らない可愛さだ……。
ってあれっ? 今、師匠とか言ってなかったか?
「ネリアくん、この方が、天幻の称号を持つ魔道士であり、私のお師匠様! ソア・クラナド・レイズ様よ!」
ばばーんとさっきの幼女を指す。
「…………うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
こ、この幼女が天幻の称号を持つサイフォスさんの師匠!?
「あ、そうだソア様。紹介します、彼が私の弟子、ネリアくんよ!」
サイフォスさんがじゃじゃーんと俺を紹介してくれる。
「ほう、これがお主がお熱のネリアかの?」
ニヤニヤしながらサイフォスさんを見るソアさん。
「お、お熱ってなんですか!? 私にはさっぱりわかりません!」
サイフォスさんは真っ赤になって、そっぽを向いてしまった。
「くふっ、照れよって」
可笑しそうにクスリと笑うソアさん。
「あー、えー、初めまして、ネ、ネリア・ハラベストです。一応、サイフィスさんの弟子です」
天幻の称号を持つ魔道士、なんだか急に緊張してきた……。自己紹介ですらも、上手にこなせない。
「一応じゃなくて、正式な弟子でしょ」
とサイフォスさんにつつかれた。
「よろしくの、ネリア。それに、そんなに固く並んでもええ。気軽に、ソアと呼んでくりゃ」
そして、ぴょこんとソファーから飛び降り、俺の前に立つ。そうすると自然に、ソアさんを見下ろす感じになってしまう。
「ほう、面白い小僧じゃな」
するとソアさんはまじまじと俺の顔を見てきた。……照れるぜ。しかも、年下に小僧って言われたの初めて。なんか新鮮。
「あ、ネリアくん、ちなみにだけどソア様は物凄く若く見えるけど御年八十――」
「なにか言ったか?」
ブワァ。
いきなりソアさんの背中からものすごい殺気が放出された。こ、こえぇぇぇぇぇ!
ちなみに俺は動くことも、声をだすこともままならなかった。正直、死も覚悟した。
「ひぃぃ、ごめんなさい師匠!」
めっちゃサイフォスさんがビクビクしてる! こんなサイフォスさん見たことない! もう、それはまるで小動物かのよう! そんなサイフォスさんも可愛い!
「わしは十歳じゃぞ」
そして唐突に俺に向かって話しかけてくる。
「へ?」
「わしは十歳じゃ。わかったな?」
その一言にはどれだけの思い(殺意)が込められているのか。俺は縦にしか首を触れない。
「……はい、わかりました!」
怖いから十歳ってことで。いやー、十歳にしか見えないナー。
そしてソアさんはおもむろにぺたぺたと俺の手を触り始めた。
「あ、あの」
なんでしょうか? と俺が口を開こうとしたとき――
「ふむ、魔術だけではなく剣術、それに最近弓を覚えたな?」
と、にやっと笑いながらソアさんは衝撃の言葉を放つ。
「え!? な、なんでそれを!?」
あれ? この下りなんか昨日もやったような……
「マメじゃ」
やっぱり! 怖い! 何なの!? 昨日の聖剣士様も、みんなマメで判断しすぎ!
「しかし、おぬしはまっことに面白きやつじゃのう」
手を放し、ころころとソアさんが笑った。
「面白いって、何がですか?」
さっきから、面白い面白いと言われているが、一体なにが面白いのだろうか。やっぱり顔か? 顔なのか?
まるで少女のような純粋な目で、俺を見つめるソアさん。
「それはな……くふっ……お主の才能じゃ」
吸い込まれそうな瞳。
俺はその言葉の真意を読み取ってしまった。そして、ビクリと体が勝手に震えた。
「のう、サイフォス、薄々勘付いているのじゃろう? こやつの才能の無さに」
あくまでも、世間話かのような体で話すソアさん。いや、彼女にとっては、こんなことも世間話の一部なのかもしれない。
「そ、それは――」
サイフォスさんは何か言いかけたが、口をつぐみ、下を向いてしまった。
「特異なことにこやつ、ネリアからはなんの才能も感じられん。魔法も剣術も弓も体術も」
「ソ、ソア様その――」
「黙っとれ、サイフォス」
ソアさんが、語気を強めてサイフォスさんに黙るように言った。物凄い圧がサイフォスさんにかかった。
「自分でも解っているのじゃろう?」
「……やめてください」
「人より成長が遅い、物覚えが悪い、覇気がない、他にも――」
「もうやめてください!」
俺は叫んだ。もうたくさんだ! わかってる! そんなこと、俺が一番わかってるんだ!
叫ばないと心が壊れてしまう。涙が、涙が止まらない。
「おぬしには才能がない。壊滅的にな」
淡々と繰り返す。リピート、リピート。
ああ、痛い。心が痛い。悲しみと苦しさに心が押しつぶされそうだ。先天的なもの、才能。これはどんな努力も一瞬で無に帰す魔法の言葉。いや、呪いの言葉だ。悪魔の呪詛。
でも俺の叫びなど気にも止めず、ソアさんは淡々と話す。
「色々な苦労をしたじゃろう。でも、お主は究極の一にはなれん」
現実。現実現実。無情な言葉が投げかけられる。でも、そんなこと知ってた。目をそむけていただけ。
……やめてくれよ、もうたくさんだよ……。
俺はもう、反論することさえ諦めた。一縷の望み? 希望? 奇跡? そんなものにはとうに愛想を尽かしている。いや、尽かされている。
やっぱり、俺は――――
「だが、だからこそ何者にでもなれるのじゃ。良く言えば、何にも縛られないということじゃ」
「…………え?」
今、ソアさんが口にしたのは、銷魂の言葉ではなく希望の一言だった。縛られない?
「才能がないということは何にも縛られないということじゃ。いいか、勘違いするでない。才能がないということも、ある意味才能じゃ。しかも天賦のな。何も染まっていない、純白の白。故に、好きな色に染めることができるのじゃ。才能による究極の一がだめなら、凡才の最強のの万で対抗するのじゃ。中途半端でも良いのじゃ。積み重なれば一つの才能にも勝てる」
「……そ、そんな見方もあったのか…………」
俺の中の常識、決めつけを壊したソアさんの言葉で、俺の目からはさっきの涙とは別の熱い涙が流れ落ちてきた。
「ほれ、そんな顔をするでない。男ならしゃんと構えておれ」
なんだか懐かしい言葉だ。これは俺のじーちゃんの口癖だった。
ソアさんは、俺に満面の笑みで言ってくれた。
「おぬしの可能性は無限大じゃ。常識に縛られるな、常に新しい道を模索し続けるのじゃ。諦めるな、あがくのじゃ。その先にお主の覇道が待っておる」
そしてソアさんは、俺の目尻についた涙を払ってくれた。
「話は最後まで聞くもんじゃぞ?」
と、可愛らしく小首をかしげる。
「師匠……ッ! やっぱり最高ですっ! 私の師匠ー!」
サイフォスさんは、嬉しそうにソアさんに駆け寄り、抱きしめた。
「こ、これっ! 抱きしめるでない! 持ち上げるでない! わしはおぬしの師匠じゃぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ソアさんを抱いて、ぐるぐる回るサイフォスさん。回る回る。
「ソアさん、ありがとうございます!」
俺は限界まで頭を下げた。サイフォスさんが師匠と崇めた意味がわかった。この人は凄い。俺が勝手に決めていた限界を壊してくれた。それだけじゃない。俺の進むべき道も示してくれた。
「自分の成すべきことがわかったようじゃな」
サイフォスさんに回されながらもソアさんは満足気にくふっ、と笑った。
「はい。俺はなにがあろうとも、どんなに辛くても、どんな困難があろうとも……最強のハンターになります」
俺の答えを聞いたソアさんは、満足気に頷いた。
「そうじゃ。それでこそ男じゃ」
そしてソアさんはサイフォスさんの腕から逃れようとするのを一旦諦め、ため息をつく。
「で、一体いつになったらわしは開放されるんじゃぁぁぁぁぁ!?」
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