中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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199,生きたいという意思

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199,生きたいという意思


「さ、準備はできましたか?」
「ええ、一応」
 二時間後、シーナさんは服を着替えて俺のもとへ来た。
「まずは、これに着替えてください」
 そういって緑色の白衣のような服を渡された。
「これは手術着です。本来であれば、手を洗った後につけるなどあるのですが、ありがたいことにご都合主義がまかり通る魔法がありますので、先に着ていただいて結構です」
 俺は言われたとおりに服を着る。うーん、着づらい。
「あと、この帽子とマスクをお願いします。髪は出さないように」
 それも言われたとおりに装着する。
「OKです。では……『クリア』」
 シーナさんが指を振る。すると、俺の周りに白い光の粒が。
「これは光魔法の応用です。いわば、ウイルスや細菌などの手術室に持ち込んではいけないものを消滅させました」
 ……おお、凄い!
「さ、入りますよ」
 

 図書館には似合わぬ金属的な扉が開き、中に入ると――
「……梨沙」
 そこには、横になり、体に布をかけられた梨沙がいた。所々がチューブで繋がれており、痛々しい。顔色も良くない。
「さあ、始めます。クーパーをいただけますか?」
「あ、はい」
 俺はキレイに並べられた器具類の中から一本の鋏、クーパーを丁寧に渡す。
「では――」 
 テープで仮止めされた開腹痕の癒着を慣れた手付きで引き剥がしていく。
「うっ……」
 俺は思わず目を背ける。知っている人に刃物が入っていくのはどうしても直視できない。
「次は鉗子をください」
 しかしシーナさんは止まらない。次々と処置をしていき、ついに傷ついた臓器に到達した。
「さあ、ここからが本題です」
 そのとき、プシュッとどこかから血液が漏れ、吹き出した。数滴が俺の頬を濡らした。
「っ⁉ 出血⁉ どこから……」
 シーナさんは急いで出血箇所を探す。
「ネリアさん! 生理食塩水を! ……ネリアさん?」
「はっ、はっ……!」
 俺は一人パニックに陥っていた。呼吸が苦しい、前がよく見えない。
「はーっ、はーっ……」
 身近な人が、知っている人に死が迫っている。その事実が俺の心を蝕み、体を恐怖させ、こわばらせる。一分一秒を争うときなのに、体が動かない――

「ネリアさん」

 コトリ。シーナさんが一度メスを置き、俺を見る。そして、その後ろで機械がけたたましく鳴り出した。
「す、すいません! 俺っ……! その……ごめんなさい! 頭が真っ白になって、体が動かなくて!」
 慌てて俺は綺麗に並べられた器具をガチャガチャと乱雑に、震える手で探し回る。
「いいえ、貴方はよくやっています。普通なら、できるはずがない! と怒るような無茶振りに真剣になって応えてくれようとしてくれました。私は、梨沙の――彼女の生きたいという意思を、ネリアさんに見せたかったのです」
 叱るわけでもなく、責めるわけでもなく、急かすわけでもなくただシーナさんは俺を見る。
「……梨沙……」
 俺は梨沙を見る。青白い顔。少し前に見たときよりも、やつれた頬。でも、生きたい、生きていたいという意思を確かに感じた。
「……ごめんな、慌てて」
 俺は深呼吸する。

 酸素を吸って、恐れ、恐怖を吐き出す。

 何度か繰り返すと、やがて手の震えは収まった。
「いけそうですか?」
 シーナさんが俺に問う。
「……はい! いけます! やります!」
 俺はもう一度ふぅ、と大きく息を吐き出す。
「さすが、ナナカの選んだ男の子です。さあ、その瓶に入った生理食塩水を」
 俺は言われるままに、それを取り、渡す。
「さあ、巻きで行きますよ!」
 シーナさんはその水を血が出ているところに流し、それを吸引する。
「ありました。出血箇所はここですね」
 やがて、内臓の一部から赤い筋が新たに垂れてきたのを見つけた。
「ここはポーションを使います」
 数滴をスポイトで取り、傷口に垂らす。すると、傷口はあっという間に煙を上げて消えてしまった。
「処置はこれで良いでしょう。では、ここからが本題です」
 シーナさんはガーゼで厳重に覆われた臓器、肝臓を見る。
「まずは、ガーゼを慎重に剥がします」
 ゆっくりと丁寧にガーゼを剥がしていく。ガーゼは、血を吸い、固く、重くなっている
。数カ所、血液が凝固し、付着してしまっていたが焦らずに、丁寧に剥がしていく。
「よし、大丈夫そうです」
 ガーゼを剥がし終えると、ピンク色の臓器が顔を出した。
「あれ、傷がこの前よりも小さいような……」
 気のせいか、傷が多少小さくなっているような気がする。
「ええ、人の生命力はすごいですね。もう治癒を始めています。私達は、そのサポートをするだけにしておきます」
 今度は先程傷口に振りかけたものとは別のポーションの瓶の蓋を開ける。
「これは低速回復ポーションです。回復速度を落とす代わりに、体への負担を極力減らしています。二十四時間すれば回復するでしょう」
 これもスポイトで吸い取り、傷口全体に垂らしていく。
「あとはこれで」
 アトマイザーに入った低速回復ポーションを臓器全体に振りまき、お腹を縫合した。
「ふう、これで手術は終了です。お疲れさまでした、よく頑張りましたねネリアさん」
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