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210,闇が渦巻く不快な邂逅
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210,闇が渦巻く不快な邂逅
「うーし、寝るぞー」
俺は一番端の布団に潜り込み、目を閉じる。
「ふいー、おやすみなさいご主人……」
さっきからもう目が半分ほどしか開いていなかったナナカが眠そうに返事をし、即寝息を立て始める。
「おやすみなさいませ、ご主人様」
リーヴァも目を閉じ、やがて寝息をくぅくぅと可愛らしく立て始める。
「……眠れん」
かれこれ三十分は経っただろうか。どうも眠れない。
「……ん」
俺はゆっくりと体を起こし、こっそり部屋を出た。
「散歩にでも行くか」
眠れない夜は散歩をするというのは古来からの習わし。俺も同意なのでこのあたりを散策することにした。
「やっぱり綺麗だ……」
今は夜の帳が完全に落ちきり、完全なる夜だ。本来であれば、月明かりを頼りに歩くはずの夜が、ここでは燦然と輝く電気の光により闇は薄れ、電気の光が道を照らす。
「世界が違うだけで、こんなに違うなんてな」
俺の世界も好きだけど、この世界も好きだ。でも、変わらないものももちろんある。
「……さて、明日も早いしそろそろ寝るか」
俺は宿に戻ろうと、さっき来た道を戻ろうと――
「……やぁ」
「ッ⁉」
いきなり声をかけられ、俺は慌ててその方向を向く。
「はじめまして、来訪者。僕は君を知っているよ。もちろん、お仲間もね」
俺に声をかけてきたのは、男性……だろうか、こんなに明るいはずなのに、どうしてかヤツの周りだけ闇が渦巻いているように、薄暗い。顔もよく見ることが出来ない。ただ一言言えるのはソイツが『不快』であるということだけ。
「……なんだお前は」
俺は戦闘態勢に入る。いつ戦いになっても大丈夫なように。
「大丈夫大丈夫。こんな人の多いところで戦うなんてことしないよ。それに」
スッ、と消えたかと思うといきなり背後から声がした。
「今の君は僕にかなわないよ。……それじゃあまた」
と言い残し本当に消えてしまった。
「…………なんなんだ今のは……」
残ったのは、不快なアイツの言葉と、冷や汗だけ。あとは全て跡形もなく消えてしまった。
「まだ、何かあるってんのか……?」
とりあえず俺はもう今は来ないだろうと考え、宿に戻った。
「おはよーございます! ご主人、寝込みを襲わなかったですね! 私はいつでもウェルカーム……ってなんだか眠そうですね」
「ああ、まあな……」
結局昨日のことが気になってあんまり眠れなかった。
「どーします? 出発を遅らせますか?」
「いや、大丈夫だ。このまま行くぞ」
「まあ、ご主人様。よろしければ私、膝枕をさせていただきますが……」
「あ、いいですね、私もします」
「結構だ。ありがたいし嬉しいけど。それより荷物をまとめといてくれ」
「はーい」
まあ、そこまで荷物は多いわけではないけどね。
「まとめ終わりましたよー」
「同じく私も終わりました」
そして、ものの数分で支度が終わった。
「じゃあ、チェックアウトするか」
荷物を持ち、部屋を出る。
「あら、皆様もう出ていかれるのですか?」
荷物を抱えて受付に行く途中、女将さんに出会った。
「ええ、とてもいい旅館でした。堪能させていただきました」
これほどいい旅館、巡り会える機会なんてそうそうない。
「あらあら、ありがとうございます。お客様の気持ちの良い食べっぷりに私共々もよろこばせていただきました」
と、丁寧に頭を下げられた。
「またのお越しをお待ちしております」
「では、お忘れ物などはございませんか?」
俺たちは宿から数分歩いて人気のない山に再び戻ってきた。車はあれだ……梨沙がいなくて動かせないから、一旦置いていく。
「ああ、多分大丈夫だ。ヴィーオも忘れてないぞ」
「存在自体は忘れかけられてたけどな!」
ガーッと布に包まれているヴィーオが吠える。
「あの戦い、もっと俺を頼ってくれてよかったのによぉ、全然使ってくれねぇし、挙句の果てに放置されるしよー」
「いやー、悪い悪い。クロスユニゾンのことで頭がいっぱいだったからさ」
「はぁ。しゃーないから、どこかでしっかり手入れをしてくれよ」
「はいよ。任せておけ」
しっかり丁寧にやってやるからな。
「ではではー、今度こそ大丈夫でしょうかー?」
「ああ、土産物も買ったし、大丈夫だ。飛んでくれ」
「ええ、私も大丈夫です」
「よーし、ではナナカちゃんの超絶ワープ!」
パチン! とナナカが高らかに指を鳴らすと、景色がギュンと歪みだす。
「シートベルトをお締めくださーい……なーんて、冗談です。そんなことを言っているうちに着きましたね」
歪んできた景色がまたもとに戻りだしたと思ったら、もうそこは見知った場所。駐屯地の裏側だった。
「ここに座標……転移魔法陣を書き込んでおきました。人通りもほぼないし、大人数が利用しても大丈夫なので!」
「なるほどな……」
こいつは便利だな。
「じゃあ、とりあえず報告なども兼ねて、隊長のもとへ行きますか」
「うーし、寝るぞー」
俺は一番端の布団に潜り込み、目を閉じる。
「ふいー、おやすみなさいご主人……」
さっきからもう目が半分ほどしか開いていなかったナナカが眠そうに返事をし、即寝息を立て始める。
「おやすみなさいませ、ご主人様」
リーヴァも目を閉じ、やがて寝息をくぅくぅと可愛らしく立て始める。
「……眠れん」
かれこれ三十分は経っただろうか。どうも眠れない。
「……ん」
俺はゆっくりと体を起こし、こっそり部屋を出た。
「散歩にでも行くか」
眠れない夜は散歩をするというのは古来からの習わし。俺も同意なのでこのあたりを散策することにした。
「やっぱり綺麗だ……」
今は夜の帳が完全に落ちきり、完全なる夜だ。本来であれば、月明かりを頼りに歩くはずの夜が、ここでは燦然と輝く電気の光により闇は薄れ、電気の光が道を照らす。
「世界が違うだけで、こんなに違うなんてな」
俺の世界も好きだけど、この世界も好きだ。でも、変わらないものももちろんある。
「……さて、明日も早いしそろそろ寝るか」
俺は宿に戻ろうと、さっき来た道を戻ろうと――
「……やぁ」
「ッ⁉」
いきなり声をかけられ、俺は慌ててその方向を向く。
「はじめまして、来訪者。僕は君を知っているよ。もちろん、お仲間もね」
俺に声をかけてきたのは、男性……だろうか、こんなに明るいはずなのに、どうしてかヤツの周りだけ闇が渦巻いているように、薄暗い。顔もよく見ることが出来ない。ただ一言言えるのはソイツが『不快』であるということだけ。
「……なんだお前は」
俺は戦闘態勢に入る。いつ戦いになっても大丈夫なように。
「大丈夫大丈夫。こんな人の多いところで戦うなんてことしないよ。それに」
スッ、と消えたかと思うといきなり背後から声がした。
「今の君は僕にかなわないよ。……それじゃあまた」
と言い残し本当に消えてしまった。
「…………なんなんだ今のは……」
残ったのは、不快なアイツの言葉と、冷や汗だけ。あとは全て跡形もなく消えてしまった。
「まだ、何かあるってんのか……?」
とりあえず俺はもう今は来ないだろうと考え、宿に戻った。
「おはよーございます! ご主人、寝込みを襲わなかったですね! 私はいつでもウェルカーム……ってなんだか眠そうですね」
「ああ、まあな……」
結局昨日のことが気になってあんまり眠れなかった。
「どーします? 出発を遅らせますか?」
「いや、大丈夫だ。このまま行くぞ」
「まあ、ご主人様。よろしければ私、膝枕をさせていただきますが……」
「あ、いいですね、私もします」
「結構だ。ありがたいし嬉しいけど。それより荷物をまとめといてくれ」
「はーい」
まあ、そこまで荷物は多いわけではないけどね。
「まとめ終わりましたよー」
「同じく私も終わりました」
そして、ものの数分で支度が終わった。
「じゃあ、チェックアウトするか」
荷物を持ち、部屋を出る。
「あら、皆様もう出ていかれるのですか?」
荷物を抱えて受付に行く途中、女将さんに出会った。
「ええ、とてもいい旅館でした。堪能させていただきました」
これほどいい旅館、巡り会える機会なんてそうそうない。
「あらあら、ありがとうございます。お客様の気持ちの良い食べっぷりに私共々もよろこばせていただきました」
と、丁寧に頭を下げられた。
「またのお越しをお待ちしております」
「では、お忘れ物などはございませんか?」
俺たちは宿から数分歩いて人気のない山に再び戻ってきた。車はあれだ……梨沙がいなくて動かせないから、一旦置いていく。
「ああ、多分大丈夫だ。ヴィーオも忘れてないぞ」
「存在自体は忘れかけられてたけどな!」
ガーッと布に包まれているヴィーオが吠える。
「あの戦い、もっと俺を頼ってくれてよかったのによぉ、全然使ってくれねぇし、挙句の果てに放置されるしよー」
「いやー、悪い悪い。クロスユニゾンのことで頭がいっぱいだったからさ」
「はぁ。しゃーないから、どこかでしっかり手入れをしてくれよ」
「はいよ。任せておけ」
しっかり丁寧にやってやるからな。
「ではではー、今度こそ大丈夫でしょうかー?」
「ああ、土産物も買ったし、大丈夫だ。飛んでくれ」
「ええ、私も大丈夫です」
「よーし、ではナナカちゃんの超絶ワープ!」
パチン! とナナカが高らかに指を鳴らすと、景色がギュンと歪みだす。
「シートベルトをお締めくださーい……なーんて、冗談です。そんなことを言っているうちに着きましたね」
歪んできた景色がまたもとに戻りだしたと思ったら、もうそこは見知った場所。駐屯地の裏側だった。
「ここに座標……転移魔法陣を書き込んでおきました。人通りもほぼないし、大人数が利用しても大丈夫なので!」
「なるほどな……」
こいつは便利だな。
「じゃあ、とりあえず報告なども兼ねて、隊長のもとへ行きますか」
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