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76,撃退

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「はんっ! たかが武器二つでなにが変わるのか! そんなもので、私のベッガーに勝てるとでも?」
「勝てるさ。十分にな」
 そう言ってソアは剣を抜いた。
「さて、これからが本番じゃ」
「グラァァァ!」
 ドドドドドと勢い良く突撃してくる魔獣。
「ちょうどよい機会じゃ。リサ、盾で防いでみせい」
「え、えぇぇぇぇぇ!? 無理無理!」
「いーからやってみろ。そうしないと、わしらこのままふっとばされるだけじゃぞ」
 そ、そんなぁ!
「あーもー! どうなっても知らないよ!」
 そう言い、私はソアの前に出て盾を構えた。
「グラァ!」
「っ〜!」
 ズガァン! 鈍い音が辺り一帯に響いた。
「……と、止まった?」
 私が構えた盾の前で魔獣はもがいている。
「グゥゥゥ!」
「よくやった!」
 ソアは私の後ろから飛び出した。
「そいっ!」
 そして、魔獣の前に着地し――
「ば、馬鹿なぁ!?」
 そのままソアが無造作に振った剣が、魔獣の足を切り落とした!
「うっそぉ……」
 私の体ぐらいある足だよ!?
「ふん。見掛け倒しとはこういうやつのことを言うんじゃ。攻撃に特化しすぎたゆえの脆さよ」
「グ、グゥゥ……」
 魔獣の足からは今も絶え間なく血が吹き出ている。
「さあ、この次はどうするのじゃ? 新しいのを召喚するか? ま、無理じゃろうがな」
「くっ……もういい。使ってやる、後悔するなよぉぉぉぉ!」
 そう言って男は自分の腕にナイフを突き刺した。ぼたっ、ぼたっと血が滴り落ちる。
「我ここに願い賜るシンの名に置いて――」
「この者どもを審判せよ、じゃろ?」
 ソアがニヤリと笑った。
「なっ、何故それを!?」
 もう男は顔面蒼白だ。
「ふ、自分で今さっきシンと言いおったな? それはセフィロトの樹における二十番目のパス。大アルカナで言うところの審判じゃ。それぐらいは把握しておる」
 せ、セフィロトの樹は一応知ってはいるけど、流石に大アルカナまでは知らない……ソアすごすぎ!
「貴様の負けじゃ小僧。さっさと国に帰れ」
「ぐ、ぐぅぅ……」
 男は苦悶の表情を浮かべ、この場から消えた。
「終わったの?」
「ああ。今のところはな。しかし、わしらには仕事が残っておる。この魔獣の始末じゃ」
 片足を失い、もはや虫の息となった魔獣。
「どうする? わしが殺してもよいが」
 ソアが剣を構える。
「こ、殺さなくたっていいじゃないですか!」
「いや、もしこのまま生きながらえていたら、他の人間を襲うじゃろう。そうならないように此処で始末しなければ」
 あくまで殺すつもりのソア。しかし私は――
「いいえ、見てください、この首の痕を。これは支配術式です。強制的に従わされていただけなんです!」
 ライオンのようなたてがみの中に隠れていて見えづらいが、確かにここに支配術式の痕跡がある。
「ふむ、確かに。こんなに小さな術式を見つけるとは、流石ミサの娘じゃ。しかし、だからと言ってこのままにはしておけんぞ」
「それは……」
 強制的に従わされていたといえ、魔獣は魔獣。ならば――
「じゃあ私、この魔獣と契約します」

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