中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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13.5,let's to ダンス!

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「二日後に異世界ってもなぁ」
 一体何から始めればいいんだよ。
 俺は森を歩きながらあたりを見渡す。仄暗き森の中は、静寂で溢れていた。不思議な雰囲気のこの時間、俺は好きだな。
「なあ、ナナカさん」
 俺は妖精と名乗る少女に視線を向ける。
 今のうちに色々聞いておこう。
「ぶぶーです。私にさんづけは不要なのですよ。親しみと、愛と、尊敬と、敬いをこめて、普通にナナカとお呼びください!」
「いやどんだけこめんの!?」
「冗談ですよ冗談」
 楽しそうだなコイツ……。
 なんだかナナカの性格がつかめてきた気がするわ。
「で? なんでしょうご主人」
 ひらりとナナカが俺の顔の前に踊り出て来る。
「なんで俺を選んだんだ? 他にもいい人はいっぱいいただろ」
 こんな才能無しよりも、もっといい人は世界にはたくさんいるはずだ。間違いない。
「んー、それはですねぇ、ご主人の……やっぱり秘密です! また今度言います!」
 意味ありげにふふふと笑うナナカ。
「なんだよー、気になるなぁ」
 そうこうしているうちに、未だに賑わいの消えない村まで戻ってきた。しかし、そこには――
「ねーりーあー?」
 お怒りのフェイウさんがいた。怒! 髪! 天!






「ねえねえ! なんで私を置いていったの!? おこだよ! 激おこプンプン丸だよ!」
 お怒りのフェイウさんから、説教が始まった。つらつらとお小言が、流れるように飛んでくる。
「私とのお出かけだったのに! そりゃ逃げた私も悪いけどさ!」
「あ、そこ自覚あるんだ」
「何か言った?」
「いえ、何も」
「大体ね……」
 くどくどとお説教は止まらない。誰か助けてー!
「ど、どうしたら許してくれる……くれますか?」
 流石に楽しい収穫祭中に、お説教ばかり聞いてられない。つーかもう、二十分は経った。
「じゃー、そうだねぇー……んー、あれかな」
「え?」
 フェイウが突如村の中央にある広場を指差した。そこでは今、ダンスパーティが開かれており、貴族階級の人々が優雅に踊っている。一般市民も参加は可能なのだが、みんなダンスなどやったことがないので、敬遠している。まあ、下手くそでも気にせず踊る勇者もいるけど。
「私と踊ってくれたら許してあげてもいいよ」
「俺が?」
「ネリア以外に誰がいるの?」
 ……どうやら勇者とは、俺のことだったみたいだぜ……。
「ご主人! ダンスですよダンス! 踊ってきてくださいよ!」
 ひらりとナナカが俺の背後から再び飛び出して言った。
「ネ、ネリア! 後ろに妖精みたいのがいるよ!?」
 フェイウが驚いて後ずさる。警戒しているのか、妙なファイティングポーズを取る。
「あ、そうか。そーいやナナカのことを話して無かった」
「どーも初めまして! ナナカっていいまーす!」
 キラッ! ナナカが自己紹介がてらポーズを決めた。
「うわぁ! 可愛い~! ねねね、この娘、どうしたの? どこで誘拐してきたの?」
「えーっと、近くの樹海から……って、誘拐なんてしてないわ! 俺と契約したの!」
 ということで、フェイウに経緯を説明した。
「ほー、なるほど。だいたいわかった」
 フェイウは納得したのか、興味はナナカに移ったようだ。
「ナナカちゃん、ネリアに変なことされてない? 服を全部脱ぐように強要されたとか、変な服を着るように言われたとか」
「いえ、今のところはまだ何も言われていません」
 ねえ、今のところはっての止めてくんない? 俺、そんなこと言わないし。……多分。
「あ、本題からズレた!」
 こほんと軽い咳払いを一つし、フェイウが改めて俺を見る。
「私と一緒に踊ってもらえますか?」
 彼女は期待に溢れた目をしてをしている。
 無論、俺はフェイウの期待に答えるさ。でもね、
「別にいいけど、俺、下手くそだぞ?」
 ダンスの経験はゼロだ。生まれてこの方、一度もやったことがない。だから恥をかくのは俺だけじゃなくて、フェイウもだからな?
「じゃ、私がリードしてあげる。任せて!」
 ふふっと笑い、胸を張るフェイウ。
「よし、わかった。踊ろうぜ」
 ケセラセラ。為せば成るのさ!
 挑戦と失敗によって人生は彩られていくのさ! ……失敗は今は勘弁な。






「ねぇねぇ、どうどう?」
 着替えの終わったフェイウが、純白のドレス姿で俺の前に出てきた。
「おー! 似合ってんなぁ。美少女は、何着ても可愛いってわけだな」
「えへへー」
 フェイウは近くの貸衣装屋でドレスに着替え、俺は執事の格好に着替えさられた。
 俺の髪の毛はオールバックにさせられ、白い手袋までつけさせられた。
「それよりもこれ、首元がキツいんだが」
 蝶ネクタイなんてしたことがないので、とても苦しい。
「いーじゃん、似合ってるよ?」
 ひらひらとドレスの裾を持ち上げるフェイウ。その姿はとても様になっていて、まるでどこぞのご令嬢のようだ。
「さ、行きましょ?」
 ぐいぐいと俺の手を引いてくる。もう待ちきれないようだ。
「はいよ。かしこまりました、お嬢様」
 俺は首もとの襟と、靴紐を確認し、いざ広場へ――
「さあ、楽しいダンスの始まりよ!」
 






「……はい、ここでターン、ステップステップ、またターン」
 クラシカルな音楽が流れる広場で俺達はステップを刻み始めた。
 周りには貴族と思しき姿が沢山ある。彼らは、華美な服を身につけ、手慣れたように踊る。顔立ちも整っており、町のご婦人方からの熱い眼差しを受けている。
 しかし、フェイウだって負けちゃいない。すれ違いざま振り返られること十五回。そのままフェイウを見つめ続けてパートナーに蹴られた男十人。パートナーと踊りを止め、フェイウに声をかけるも、軽くあしらわれた男十五人。パートナーである俺を見て驚愕の顔を浮かべた人、ほぼ全員……。悲しい。
 そんな男どもには目もくれず、フェイウはひたすら踊る。一緒に踊っている俺も見惚れてしまうほどの、華麗なステップ。少しは運動神経には自信はあったが、ついていくのがやっとだ。
 しかし凄えな。フェイウが一応運動万能なのはわかっていたものの、まさかここまでとは。しかもダンスまで出来たとは。明らかに一朝一夕で身につくレベルじゃないぞ。
「なあ、ダンスなんていつ覚えたんだ?」
 なんとか動きについていけるようになり、余裕が出てきたので、フェイウに質問してみる。
「んー、最近かな? いつかネリアと踊りたいなーって思って……って、な、何でもない! ただ、友達に誘われただけだしっ!」
 フェイウが急に頬を紅潮させる。
 うおっ! フェイウのステップが乱れた! 
「そ、そっか。じゃ、フェイウを誘ってくれた友達に感謝しないとな」
 なんとか持ち直した俺は、笑顔でフェイウに話しかける。
「ん? なんで?」
「なんでって、まあ、あれだ。その……思いがけずだけど、楽しい時間を一緒に過ごすことが出来ているわけだし」
 イレギュラーでも、楽しいことは楽しい。本当に、心の底から収穫祭を楽しんでいる、そんな気がする。
「……ネリアがデレた?」
「デレてねーし! 素直な感想だし!」
 俺がすっかりダンスに慣れた頃、音楽が止み、あたりは静寂に包まれた。喧騒もすっかり消え、広場は次の曲を待つ。
「次の曲に行くみたいだぞ?」
「そうだね。できれば、もう少し速い曲だと、踊りやすいかなー」
 フェイウは、今のクラッシックの曲はあまり得意ではないと話す。
「アップテンポなほうが、多少動きが雑でも誤魔化せるし」
「ほうほう、なるほど」
 演奏を指揮していた白髪の老人は、こちらをちらりと一瞥したかと思うと、少し口の端をあげ、おもむろに指揮棒を振りだした。
 指揮棒を鋭く振り、楽隊に指示を出していく。
 トランペットが静寂を切り裂き、音を紡ぎ出す。
「……この曲……」
「ああー! これ、お前の好きなやつだろ」
 今、楽隊が演奏し始めた曲は、最近流行りの歌だ。少しテンポが速く、クラシカルなダンスに向いていないと思うのだが……
 そう思い、老人の方を見る。すると、老人は口を開き、何かを言った。そして俺らにウインク。口の動きから察するに「サービスじゃぞ」と言ったはずだ。
「ったく、なんで今時の女の子の流行りを知ってんだか」
 苦笑してステップを刻む。知っている歌だからか、踊りやすい。まあ、慣れもあるだろうけど。
「ありがと、おじいちゃん」
 フェイウは老人を見ながら嬉しそうに笑った。
「え? あれフェイウのじーさん!?」
 いつもはもっとぼけぼけなはずなのに? それに、音楽なんて興味なしみたいな感じなのに?
「うん。指揮棒を握ると一気に人が変わるの」
「まじか……サンキュー、じーさん!」
 周りの人々は少し戸惑ったかんじでざわついている。そりゃ知らないだろ、最近の流行りの歌なんて。ましてや、貴族様は、こんな庶民の歌には興味無いだろ?
「さ、私達のダンスを見せつけてやろうよ」
 フェイウは楽しそうに踊る。
 ほんっと、コイツ、楽しそうに踊るよなぁ……。
「おうよ! 全力で楽しませてもらうぜ!」
 ここで一気に曲がテンポアップ。ちょうどイントロが終わったところだ。
「情熱的に行くよ! ついてきてね!」
「望むところだっ! と、速っ!」
 ぎゅん! フェイウの動きが加速した。フェイウの足は軽やかなステップを刻み、俺に挑戦してきているようだ。
「くっ、難し!」
 ダンス初心者の俺はフェイウの足さばきを真似しつつ、リードされながら踊っていく。
「ねえ、あの二人凄くない?」
「うわぁ……凄く綺麗……」
 周りの感嘆の声が聞こえる。まさに俺達の独壇場。
「ふふん、これで私達の凄さを見せつけられたね」
「だな。ダンスって楽しいな」
「うん!」
 そして俺達は、夜が更けるまで踊り続けた。





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