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157,魔眼

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157,魔眼

「ここが結界の中心地?」
 俺達は山道に入り、とある石碑の前で立ち止まった。
「いや、第二の結界。ここで状況確認をしておこうと思って」
 と、見えない境界を確かめるように触った。
「結界が見えてるのか?」
 俺には全然見えないんだけど。
「あー、ネリア君はまだ『直視』を覚えていないんだね」
「直視?」
 じーっと見つめることのこと?
「直視っていうのはね、目に帯びた魔力を利用して、物事の本質を捉える力のこと。極稀に、先天的に持っている例外もいるみたいだけどね。ま、一種の魔眼だよ」
「魔眼か……」
 魔眼。目に術や魔法をかけて、力を込めた目のことを指す。神話のゴルゴンとかいい例だな。石化の魔眼。まあ、あれほど強力な魔眼は、未だかつて出てきた例がないとか、ソアさんが言ってたっけ。
「これは誰にでもできる魔眼だからね。試しに、目の周りの魔力の流れを、一方向に集めてみて」
 俺は梨沙に言われたとおりに目の魔力の流れを一方向に向ける。
「で、ここの境界のあたりを見てみて」
「んー……なんかぼんやり見えるかな?」
 境界の合間に薄ぼんやりと壁が見える。
「おー、つかみが早いね」
 梨沙は話を再開した。
「今、野良神が複数体うろついているのがわかる?」
 梨沙が指差した方向を見る。
「これも『直視』してね」
「わかった」
 多少苦労したが、ぼんやりとした姿を捉えた。
「あの、ボロ雑巾みたいなのか?」
「そう。神になれず、外道の道を踏む悪落ち野良神」
 野良神は複数体いるらしく、いくつもの影が揺らぐ。
「私たちに気づいていないみたいだけど、気づかれると厄介だから移動しましょうか」





「で、作戦なんだけど」
 山を降り、近くにあった喫茶店に入った俺たち。
「まず、ネリアくんはクロスユニゾンを習得する。で、私はすぐに作業を完了させられるように、修復術式の簡略化の作業。リーちゃんは、ネリアくんと共にクロスユニゾン習得の修行ね」
 梨沙は備え付けの紙ナプキンを取って、何かを書いていく。
「これがこれからの活動スケジュールね」
 俺は梨沙から紙ナプキンを受け取る。ナプキンには、一週間の行動予定が書いてあった。
「えーっと…………クロスユニゾン習得のための、特別メニュー、ダンス!?」
「ダンス、ですか?」
 戸惑いの声をあげる俺たち。
「そう! 折角りーちゃんは人型なんだし、ダンスで息を合わせようってこと!」
「俺、ダンスやったこと無いんだが」
 一回フェイウと踊ったことはあるものの、あれはフェイウのアシスト有りきだったからなぁ。
「私もダンスは体験したことがなく……」
 初心者二人でダンスって無理くない?
「大丈夫大丈夫! そもそもクロスユニゾンってのはね、二人の息を合わせてやるから、ダンスがぴったりなの! そこまで難しくない曲と振りでやるから大丈夫だって!」
「本当かなぁ?」
 習得に対してとてつもない不安を覚えた俺たちであった。

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