中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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160,才能への羨望

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「この曲自体には振り付けあるし、そのままでいいか」
 梨沙はスマホで振りを調べ、再現していく。
「えーっと、ここでこうで、こう。で、あーして……」
 ぶつぶつとつぶやきながら、少しずつ振りを覚えていく梨沙。
「……なあ、リーヴァ」
「はい、なんでございましょうか?」
 もともと思っていた事なんだがその――
「やっぱり梨沙って、天才だよな」
 短時間ながら、着々とダンスの振りを覚えていく梨沙を見て、ますます確信を強めた。
「……はい、そうですね」
 リーヴァも少し悩んだ末、肯定する。
「あの年であんなに高度な魔法式を組み立てられるのですからね。しかも、独自のアレンジも入れて。ソア様や、サイフォス様、フェイウ様といった天才の方々とは違うベクトルの天才です」
 確かに。フェイウの、なんかやったら出来た! みたいなノリではなく、無意識に、最適解への最短ルートを見つけ出し、実行できる。これが梨沙を天才足らしめている所以なのだろう。
「でも、梨沙は、間違いなく後天的な天才です。恐らく、ソア様と関わったたことにより、開花したのでしょう」
「開花ねぇ」
 俺の才能とかも開花しないかねぇ。
「……その、ご主人様は、あの」
「わかってるよ。開花するような蕾は俺に無いんだろ? 知ってる知ってる」
 リーヴァが口ごもったのを見て、先に俺が軽く、笑いながら答えを言う。
「っ、で、でも」
「いいからいいから、もう慣れたし。俺は才能なしだからさ」
 別にいまさら傷つくことではない。俺の周りは才能に溢れた、天才ばかり。フェイウ、サイフォスさん、師匠、ソアさん、そしてリーヴァ。まあ、リーヴァは天才だとかは置いておいて、ハイダーフィという種族なわけで、もとから受け持った素質、ポテンシャルがあるからな。
「ご主人様……その、今からすごく失礼なことを言ってもいいですか?」
 リーヴァは俺の様子を見て、何かを決心したようだ。
「ん? ぜんぜんいいぜ」
 才能ネタには耐性のあるからな。
「では失礼をして――」
 スッ、とリーヴァの目が細められた。
「ご主人様、いえ、ネリア様。貴方様は才能がないと言われることに慣れすぎて――自分を失いかけていらっしゃいませんか? いえ、才能がないというのを、言い訳に使ってしまってはいませんか?」
「っ!?」
 突然のリーヴァからの言葉。それは、深く、俺の心に刺さる。
「才能は確かに大事かもしれません。でも、そんなものは幻想です。潜在能力に期待するより、今持つものを鍛え抜く。その覚悟が、今のネリア様にはございますか? 私からするに、もう失いかけているようにも思えますが」
 リーヴァは言葉を重ねる。
「確かにネリア様の周りには、傑出した天才の方々がいらっしゃいます。才能に恵まれた方々を見て、貴方様は、こう思っているのでしょう? 『ああ、羨ましい』と。……その気持ちがある限り、上へ登る、才能という壁を超えることは出来ません。羨ましい? それは、甘えです。心の弱さです」
「…………」
 ……俺は何も言えない。その通り、紛うことなき正論だからだ。確かに、俺は羨ましいと感じることは多々あった。でも――
「甘えてなどいない? いいえ、私からしたら甘えです。憧れを抱くことは大いに結構。ですが、羨望は別です。羨望は、剣の切っ先を鈍らせます。ハッキリと言わせていただきます。ネリア様には、才能の片鱗もございません。皆無です」
 ……唇を噛む。強く、強く。血が滲んできているかもしれない。でも、もっと強く噛む。
 自傷行為に勤しんでいるのではない。口から溢れ出そうな、言い訳の数々を、必死に抑えているからだ。
 正論、真実、現実。全て突きつけられ俺は、正直泣き出しそうだ。でも泣かない。いや、泣けない。泣くことすら、許されない。
 才能なしでも戦士になるために俺は、自分に課していたのだった。自らを修羅の道に置くことを。
「……俺は才能がない。だから、修羅の道を進むことを決めたんだ」
 いくら罵詈雑言を浴びようと諦めない、鋼の意思。何百発殴られようと屈しない不屈の体。それを手にするために。
「……覚悟は伝わりました。しかし、貴方様は独りで修羅道を歩もうとしているのですか? いいえ、それは違いますよ」
 強張った俺の頬を、リーヴァの白手袋に包まれた指が優しくなぞる。
「フェイウ様が、ナナカ様が、梨沙が、ソア様が、サイフォス様が、ガヤエア様が、そして、私もいます。独りで修羅にならぬともよいのです。才能に勝つには、独りで修羅に成る? それは大馬鹿者の考えです。故に私は」


 ――――ぎゅっと抱きしめられた。

「みんなで、最強を目指すことを提案します。羨望なぞ、抱くことがなくなるくらい、強くなればよいのです。忘れないでください、ネリア・ハラベストという男に、私たちは動かされたのです。強くなりたい、そのたった一つの願いを叶えるために」
 ……忘れていた。その、強くなりたいという感情を。
「自分に自信を持って? 貴方様は私のご主人様です。Sランク魔獣を従える、とても凄いお方なのですよ? キワカ村の危機を救い、はるか格上の教官にも勝った。いずれかは、私をも必ず凌駕します。この前、私に言ってくださいましたよね? 自分を卑下するなと。ご主人様も同じですよ。自分を卑下しないでください。私のご主人様には、いつも、屈託なく笑っていて欲しいのです。自分を蔑んだ笑いなど、見たくありません」
「…………結局は自分の願望かよ……?」
「はい! 私は、楽しそうに笑うご主人様が大好きなんです!」
「結論がそれか……ふふっ……はははっ! はははははっ!」
 俺は大声を出して笑った。涙を流しながら。
「ありがとうリーヴァ。俺は知らずの間に、大切なものを失っていたのか」
 強くリーヴァを抱きしめ返す。
「お前は本当に、最高の女だよ」
「…………ふえっ!?」
 急に耳まで赤くしだすリーヴァ。
「ふ、ふ、ふ、不意打ち過ぎますぅ! こういうとこ、ご主人様の悪いところです!」
「ん? なんか変なこと言ったか?」
「いえ、その、あの」
 口元をもにょもにょさせながらどもる。


「………………あのー、これっていったいどういう状況なんですかね?」
 梨沙があっけにとられたように俺たちを見ていた。
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