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165,隠し玉

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「わかった。出よう」
 俺は緊張する体をほぐし、深呼吸する。そして、さっきからしてきた準備の確認をして立ち上がる。
「じゃあタイマンだ―――!?」
 立ち上がった瞬間、視界が真っ暗になる。その後、パァンという音が耳に飛び込み、体中に強烈な衝撃が駆け巡る。
 ッ!? 撃たれた!? 何故!?
 体は衝撃で浮き、後ろに吹っ飛ぶ。
「ははっ! バーカ! 誰がテメェとタイマンなんざ張るかよ!」
 男たちの下卑た笑い声が聞こえる。だが――
 血は出ていない。鉄鋼符が発動したのだろう。た、助かった。 
 俺は後ろの観葉植物の植木鉢に激突し、割れた植木鉢から出た土を被った。
「ネリアくん!?」
 梨沙の悲鳴が聞こえた。まだ視界は回復していない。真っ暗だ。
「ざーんねーん! お前のお仲間は即死! 脳天に三発打ち込んで、生きてるやつなんていないだろ!」
 三発? まさか、まだ銃を隠し持っていたのか!
 俺の脳裏に、さっきのシーンが浮かび上がる。

「……その手にある銃を捨てろ」
 リーダーはそう言っていた。その手にあるってところがミソか! つまり、隠し持っている武器は捨てるなという合図だったのか!
 俺は自分の迂闊さを呪った。まだまだ甘いぜ俺よ。

 しかし、策は用意してある!

「……ウォーターショット」
 血は出なかったが、衝撃による痛みに悲鳴を上げている体から、必死に声を絞り出す。
 そして、俺の起動ワードにより、さっき隠れていたところから、俺の隠し玉が発動する!
 三つの設置式魔法陣に、予め仕込んでおいた術式が駆け巡り、3つの水の球体を生成。そして、超高速で男たちの顔めがけ発射される!
「なんっ!?」
「グボォ!」
「チィッ!」
 まだ目が見えないからどうなったかはよくわからないが、発動したのはわかった。
 やったか――――!?
「…………ぐっ……やってくれたな、ガキが」
 ダメか!?
 リーダー格のうめき声が聞こえる。ほか二人はどうなったかはわからない。
 徐々に回復する視力にまどろっこしさを感じつつ、死んだふりをして、視力の回復を待つ。
 がさがさと時折音がするため、少なくとも、全滅は出来ていないことはわかる。
 今、どうなってんだ?
 やっと見え始めたので、まぶたを開き、少し顔を上げる。
 ぼんやりとしてよくわからないが、二人が倒れてピクリとも動かないのはわかった。で、肝心のもう一人は、手に何も持たず、荒い息を繰り返している。
「……イチチ」
 俺はよろめく体を、抜けた観葉植物を杖代わりにして支え、立つ。
「な、な、な……なんで生きてるんだよ!?」
 悲鳴にも似た声。多分リーダーだな。
「世界には、魔法も奇跡もあるのさ」
 そして俺は近くに倒れていた男の胸元から、やや大ぶりのサバイバルナイフを抜き出す。
「さあ、こんどこそタイマンだ」

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