軍用AIアリス、当機はこれから悪役令嬢

黒田さん信者

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27,まどろみ、そして覚醒

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  夜中の12時。何者かが廊下を歩いている。しかし、音はなく、まるで音を置き去りにしているかのようだ。服はメイド服。だが、ところどころ音が立たないように布が巻き付けてあったり、腰には……ナイフが括りつけてある。

「……」
 息を殺し、歩いていく。しかし、時折ふらふらと幽鬼のように揺れ、歩く。そして、立ち止まり頭を抱える。だが、決して音は出さない。それは不気味で、近寄りがたかった。だが同時に、不安定で儚く、指を触れただけで壊れてしまいそうな飴細工のような脆さ、矛盾性も感じさせた。

「……はっ、はっ……」
 初めて音が聞こえた。苦しいのか、胸を押さえ、荒い息を小さく漏らす。それでも、ゆらゆらとおぼつかない足取りで着実に進んでいく。目的地は――――アリスの眠る、アリスの部屋。

「……」
 ほぼ音を立てず、ついにアリスの部屋に到着した。そして、静かに扉を開け、中に侵入する。そこには、アリスがまるで人形のように寝ていた。

「……お嬢様」
 本当に小さく呟く。そして、ナイフを抜く。





 アリスの意識は覚醒とまどろみの中間地点を揺蕩っていた。いわゆる、一番幸せな時だ。感覚、時間、思考がどろどろに溶け合い、境界を消し一つに混じる。我というものが、己というものが曖昧になる。夢を見るわけでもなく、何かを考えるわけでもない。ただ、そこに『在る』のだ。寝ていること、起きていることが曖昧で、この時のことを言葉にするのが難しい。夢の始まり、夢の終わり、それとも覚醒の前兆か。そんな時間を存分に楽しむ。

だが




アリスはこの時、外部から懐かしい感覚を感じた。そう、戦場で幾度となく感じた、あの懐かしい感覚。焦げ付くような、ヒリつくようなそれでいて、不安感を煽る。それは俗にいう―――――殺気。

「……ッ⁉」
 アリスは急激に覚醒し、毛布を蹴る。そして、ベッドから転げ落ちる。すると、先ほどまでアリスが寝ていた場所の首元があった所にナイフが突き刺さった。

「なんだ……⁉」
 まだ意識が覚醒しきっていない。だが、明らかな殺意を持ち、アリスを亡き者にしようとしたことはわかる。

 アリスは立ち上がり、警戒を強める。

「……」
 部屋は薄暗く、月も雲に隠れてしまっていたのでその襲撃者の顔は見えない。かろうじて、女性で、メイド服を着ていることだけはわかった。

「暗殺者、というわけか。となると、数ヶ月まえに私を襲ったのもお前だな」
 脳の再稼働が終わりきるまで、アリスは対話による時間稼ぎを試みる。

「……!」
 だが、返事もせずにナイフをベッドから引き抜き、再びアリスを襲う。

「敵対行動を確認、迎撃を行う」
 時間稼ぎを諦め、構える。そして、ナイフを持つ女の腕を蹴り飛ばす。

「っぅ……!」
 カランカラン! と甲高い耳障りな音を立ててナイフが女の手を離れて地面を転がった。

「……凄いね、わたしのナイフを二度ならず三度防ぐなんて」
 初めて暗殺者が言葉を発す。

「……その声、まさか……!」
 この時初めて、アリスは動揺したような声を出した。それと同時に、雲が切れ、部屋の窓から柔らかい月明かりが暗殺者の顔を照らした。

「そう! 大正解!」
 その狂気と喜びに染まった顔は……アリスのよく知る使用人、シナであった。

「シナ、なのか?」
 
「ええ。そうですわよお嬢様?」
 ニッコリと笑いかける。シナそのものの声と顔で。だが、話し方がシナと違う。あのシナの歌うような、軽やかな話し方ではなく、まるで地の底から響いてくる重苦しい音のような話し方だった。

「この前殺し損ねてしまいましたの。まさか生きてお戻りになるんて。心臓飛び出そうでしたわよ、キャハハハ! でも、でもぉ……? まさかのわたしの事覚えていないんですもの! 思わず笑っちゃった! ……さて、四度目は流石に無いよ、覚悟してね」
 腰からナイフをもう一本抜く。そして、構える。しかし――

「あ、が……!」
 急に頭を抱え、もがき苦しみだした。

「痛い……! 痛い! ああもう! 邪魔しないでよ『シナ』!!」
 悲鳴に近い声で訴える。

「お、お嬢様ぁ……逃げて……逃げてっ、くだ、くださいぃ……! 私がっ、わたしを抑えるのでぇ……! ああああ!!」
 絶叫し、頭を搔きむしる。ふーっ、ふーっと獣のように荒い息を繰り返す。だが、話し方はアリスの知る『シナ』そのものの話し方だ。

「嫌だ、ヤダヤダヤダっ! 殺したく、ない、殺したく、ないよぉ……! 逃げて……逃げてよぉ……殺したい殺したい殺さないと!」
 不安定になりながらも、ナイフをアリスに向け続ける。

「……シナ」
 アリスはそんなシナを見つめ、静かに言い放った。

「私は逃げない。そして、ここで死ぬつもりもない」
 アリスは、枕元に立てかけてあった木刀を取り、おもむろに構えた。

「へえ、わたしとやるんだ、いいね……ダメです……っ! やろうよ、逃げて、くだ、さい……! わたしのナイフはあなたの心臓を貫くヤダヤダ……! 殺さないで、お願いだから! いやっ、いやぁっ……殺す殺す!」
 右手はナイフを振りかぶろうとし、左手はまるでうっ血するのではないかと思うほど右手を握り潰すぐらいの力で抑える。

「ああもう! うるさいよシナ!」
 そう言い、ガンガンと頭を壁に叩きつける。眉間が割れ、血が流れるが気にせずガンガン打ち付ける。

「……あー、スッキリした。それじゃ、やろうね」
 壁に頭を打ち付けるのをやめ、血だらけになりつつも、笑顔でアリスに話しかける。左手はだらりと垂れ下がり、右手には掴んだ際の手形が残っていた。

「ああ」
 アリスは動じない。剣先をあくまでシナに向け、いつでも動けるよう全身に力を溜める。

「あはぁ!」
 シナが低い姿勢で突撃してくる。

「ふっ!」
 それをアリスはバックステップし、広い視野を確保し躱す。

「いいねいいね! 殺しがいがあるよ!」
 こうして、シナとアリスとの深夜の死闘が始まった。
 
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