軍用AIアリス、当機はこれから悪役令嬢

黒田さん信者

文字の大きさ
31 / 48

30,絶望を知らないAIは理不尽と戦うことを決意する

しおりを挟む





「……全身が痛いぞ。特に右手が」
 目が覚めたアリスを襲ったものは、とてつもない不快感だった。

「代償、というわけか」
 まあ安いものだな、と考えながらアリスはまるで機械のように(もとはそうだったのだが)ぎこちなくベッドから起き上がる。

「むう……」
 本当に動きが重い。不快感もさることながら、継続的に襲ってくる痛みにいちいち動きを止めなければならない。

「筋肉痛が酷いな……!」
 昨日のトレーニングの負荷、それに激しい昨晩の戦闘で筋肉へのダメージは最高潮に達していた。むしろ怪我をしていないのが奇跡に近い。

「今日の修練は休みだな……」
 勉学に励むとしよう……とアリスはクローゼットまでゆっくりと動いて服を取る。

「これでいいだろう」
 ドレスなど着るのに時間がかかるので、適当なワンピースを着る。

「……お、おはようございますお嬢様……」
 コンコンと控えめなノックの後、しばらくしてからこっそり扉を開け、シナの頭がぴょこっと出てきた。頭にはそこそこ大きな絆創膏が貼ってあり、少し間抜けな印象を与えた。

「ああ、おはようシナ。身体の調子はどうだ?」
 着替えを終えたので、ゆっくりベッドに腰掛ける。
 
「概ね問題ないですが、その……」
 顔だけ扉から出し、もじもじとする。

「なんだ? どこか他に怪我があったのか? …………いや違うな、おはようクリスティーナ」
 少し動きを止め、まっすぐシナを見つめる。

「………………どうしてわかったの?」
 しばらく目を見開いたまま固まり、少し掠れた声を出す。

「さあ、どうしてだろうな」
 表情を変えずに、だがどこか楽しむような口ぶりで返答する。

「ひょ、表情? それとも声? わたしが見破られるなんて……」
 狼狽し、オロオロとわかりやすくうろたえる。

「落ち着け。少し予測を立てただけだ。普通にシナのまま来る確率は35%。確率が高い方を優先して声をかけただけだ。まあ、ノックして反応を待たずに入って来た時点で若干確信したがな」

「……詳しいのね」

「毎朝毎朝聞いていれば流石にな。それと、昨日の動揺が抜け切れていないだろう。服のリボンがほどけてるぞ」
 右肩のメイド服のリボンがほどけており、身だしなみに関しては人一倍シナならそのようなことは無いであろうと指摘する。

「気づかなかったわ……流石だね」
 ハンカチを取り出し、額の汗をふきふきする。

「……ふふっ、だから言ったでしょクリスティーナ。お嬢様は鋭いって」
 今度はシナがシナの表情で笑う。

「……確かに鋭いね。これはバカにできないわ」
 ころころと表情が変わる。

「それでわざわざクリスティーナとして来たのには理由があるのだろう?」
 ズバッと本題を切り出す。

「……本当にお見通しなのね、驚いたわ。ええそうよ、わたしはアナタに伝えることがあって来たの」
 肩をすくめ、クリスティーナは観念したように話し出す。

「ただ一言、わたしがアナタを殺す理由が無くなった。もう狙わないわ……それだけ」
 驚きの一言を発する。

「ほう? それはどういうことだ?」

「簡単よ。昨日の失敗によりわたしは『廃棄』されたの。これから『処理』されて、いなくなるから」
 何てこと無いように話すクリスティーナ。

「標的が殺せないアサシンはただのゴミ。昨日報告がなかった時点で、もうわたしを殺すための部隊が送り込まれている。あ、違うか。私たちか」
 ぺちんと掌でおでこを叩く。叩いたところが傷口だったため、顔をしかめる。

「シナとクリスティーナ、それと……アリス、アナタよ」
 ピッとアリスを指さす。

「本気で潰しに来るわ、間違い無い。施設の持てる最大戦力で、この屋敷を地獄へ変える。他の人達を避難させておいた方がいいかもね」

「……私はな」
 唐突にアリスが口を開く。

「逃げるのが嫌いだ。敗走は死を意味する」

「そうね、それには同意する。じゃあなに? アナタはこのまま座して死を待つというの?」

「まさか。迎え撃つに決まっているだろう」
 あっさりととんでもないことを言う。

「……え?」

「むしろなぜ私が座して死なねばならないのか」
 アリスが首をかしげる。

「そ、それはそうだけど。でも、でも! わたしなんて比べ物にならないくらいの手練れの暗殺者が何人も送られてくるのよ⁉」

「暗殺は暗殺対象が気が付いていれば暗殺にならない。つまりただの襲撃だな。少し戦闘技能が高かろうと、畑違い。サシならまず負けることは無い。それにな」
 アリスが目を細める。

「私が一番嫌いなのは、理不尽な事だ。世界の理不尽になぜ屈せなければならない? 反抗できるのなら、その理不尽に全身全霊で反抗する。私の全てをかけて、対抗しよう」
 理不尽クソくらえ、反抗、反逆なんでもござれ。アリスは理不尽への反逆を表明する。

「…………どうして?」
 ぽつりとクリスティーナが呟く。

「どうして絶望せずに抗えるの……? わたしには無理だよ……」
 狼狽し、アリスに問う。

「どうして? なに、その答えは簡単だ。私が絶望を知らないから、その一言に尽きる」
 まだAIとしては未熟なアリスは、感情の造詣が深くない。逆に、だからこそまだまだ無垢なのであり、また、理不尽を許すことができない。

「知らないものを知るのは私にとって価値のあることだ。だが、絶望を知ることはすなわちアリスが危機に陥ることである。だからこそ、知りたくない」

「…………よくわかんないや。でも、少しはわかった気がするよ」
 そう言ってふっ、と笑う。

「アリス、わたしはアナタに協力することにする。死を恐れない暗殺者として創られたわたしだけど、でも、シナが死ぬのは嫌」
 決意のまなざしをアリスに向ける。

「お前の思い、理解したぞ。シナを守りたいのは私も一緒だ」
 アリスが立ち上がる。

「まあ、まずは朝食だ。そして――」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

処理中です...