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30,絶望を知らないAIは理不尽と戦うことを決意する
しおりを挟む「……全身が痛いぞ。特に右手が」
目が覚めたアリスを襲ったものは、とてつもない不快感だった。
「代償、というわけか」
まあ安いものだな、と考えながらアリスはまるで機械のように(もとはそうだったのだが)ぎこちなくベッドから起き上がる。
「むう……」
本当に動きが重い。不快感もさることながら、継続的に襲ってくる痛みにいちいち動きを止めなければならない。
「筋肉痛が酷いな……!」
昨日のトレーニングの負荷、それに激しい昨晩の戦闘で筋肉へのダメージは最高潮に達していた。むしろ怪我をしていないのが奇跡に近い。
「今日の修練は休みだな……」
勉学に励むとしよう……とアリスはクローゼットまでゆっくりと動いて服を取る。
「これでいいだろう」
ドレスなど着るのに時間がかかるので、適当なワンピースを着る。
「……お、おはようございますお嬢様……」
コンコンと控えめなノックの後、しばらくしてからこっそり扉を開け、シナの頭がぴょこっと出てきた。頭にはそこそこ大きな絆創膏が貼ってあり、少し間抜けな印象を与えた。
「ああ、おはようシナ。身体の調子はどうだ?」
着替えを終えたので、ゆっくりベッドに腰掛ける。
「概ね問題ないですが、その……」
顔だけ扉から出し、もじもじとする。
「なんだ? どこか他に怪我があったのか? …………いや違うな、おはようクリスティーナ」
少し動きを止め、まっすぐシナを見つめる。
「………………どうしてわかったの?」
しばらく目を見開いたまま固まり、少し掠れた声を出す。
「さあ、どうしてだろうな」
表情を変えずに、だがどこか楽しむような口ぶりで返答する。
「ひょ、表情? それとも声? わたしが見破られるなんて……」
狼狽し、オロオロとわかりやすくうろたえる。
「落ち着け。少し予測を立てただけだ。普通にシナのまま来る確率は35%。確率が高い方を優先して声をかけただけだ。まあ、ノックして反応を待たずに入って来た時点で若干確信したがな」
「……詳しいのね」
「毎朝毎朝聞いていれば流石にな。それと、昨日の動揺が抜け切れていないだろう。服のリボンがほどけてるぞ」
右肩のメイド服のリボンがほどけており、身だしなみに関しては人一倍シナならそのようなことは無いであろうと指摘する。
「気づかなかったわ……流石だね」
ハンカチを取り出し、額の汗をふきふきする。
「……ふふっ、だから言ったでしょクリスティーナ。お嬢様は鋭いって」
今度はシナがシナの表情で笑う。
「……確かに鋭いね。これはバカにできないわ」
ころころと表情が変わる。
「それでわざわざクリスティーナとして来たのには理由があるのだろう?」
ズバッと本題を切り出す。
「……本当にお見通しなのね、驚いたわ。ええそうよ、わたしはアナタに伝えることがあって来たの」
肩をすくめ、クリスティーナは観念したように話し出す。
「ただ一言、わたしがアナタを殺す理由が無くなった。もう狙わないわ……それだけ」
驚きの一言を発する。
「ほう? それはどういうことだ?」
「簡単よ。昨日の失敗によりわたしは『廃棄』されたの。これから『処理』されて、いなくなるから」
何てこと無いように話すクリスティーナ。
「標的が殺せないアサシンはただのゴミ。昨日報告がなかった時点で、もうわたしを殺すための部隊が送り込まれている。あ、違うか。私たちか」
ぺちんと掌でおでこを叩く。叩いたところが傷口だったため、顔をしかめる。
「シナとクリスティーナ、それと……アリス、アナタよ」
ピッとアリスを指さす。
「本気で潰しに来るわ、間違い無い。施設の持てる最大戦力で、この屋敷を地獄へ変える。他の人達を避難させておいた方がいいかもね」
「……私はな」
唐突にアリスが口を開く。
「逃げるのが嫌いだ。敗走は死を意味する」
「そうね、それには同意する。じゃあなに? アナタはこのまま座して死を待つというの?」
「まさか。迎え撃つに決まっているだろう」
あっさりととんでもないことを言う。
「……え?」
「むしろなぜ私が座して死なねばならないのか」
アリスが首をかしげる。
「そ、それはそうだけど。でも、でも! わたしなんて比べ物にならないくらいの手練れの暗殺者が何人も送られてくるのよ⁉」
「暗殺は暗殺対象が気が付いていれば暗殺にならない。つまりただの襲撃だな。少し戦闘技能が高かろうと、畑違い。サシならまず負けることは無い。それにな」
アリスが目を細める。
「私が一番嫌いなのは、理不尽な事だ。世界の理不尽になぜ屈せなければならない? 反抗できるのなら、その理不尽に全身全霊で反抗する。私の全てをかけて、対抗しよう」
理不尽クソくらえ、反抗、反逆なんでもござれ。アリスは理不尽への反逆を表明する。
「…………どうして?」
ぽつりとクリスティーナが呟く。
「どうして絶望せずに抗えるの……? わたしには無理だよ……」
狼狽し、アリスに問う。
「どうして? なに、その答えは簡単だ。私が絶望を知らないから、その一言に尽きる」
まだAIとしては未熟なアリスは、感情の造詣が深くない。逆に、だからこそまだまだ無垢なのであり、また、理不尽を許すことができない。
「知らないものを知るのは私にとって価値のあることだ。だが、絶望を知ることはすなわちアリスが危機に陥ることである。だからこそ、知りたくない」
「…………よくわかんないや。でも、少しはわかった気がするよ」
そう言ってふっ、と笑う。
「アリス、わたしはアナタに協力することにする。死を恐れない暗殺者として創られたわたしだけど、でも、シナが死ぬのは嫌」
決意のまなざしをアリスに向ける。
「お前の思い、理解したぞ。シナを守りたいのは私も一緒だ」
アリスが立ち上がる。
「まあ、まずは朝食だ。そして――」
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