軍用AIアリス、当機はこれから悪役令嬢

黒田さん信者

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42,いただきますとアリス

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「お待たせいたしました、本日のメニューはビーフシチューとフレッシュサラダ、堅焼き白パン、ヨーグルトでございます」
 手を洗い、席についたアリスの前にウェンティが料理を運んできた。

「今回もボリュームたっぷりだな」
 品数は少し少ないものの、やはり量が多い。

「はい! そしてこちらのビーフシチューですが、途中でこちらを入れるとより美味しくなりますので頃合いを見て入れさせていただきます」
 クロイツがテーブルの上に置いてあった蓋をしてある銀の小皿を示す。

「わかった。では」
 いただきます、と発する。

 アリスは、いつしか食事を始める前に『いただきます』と言うようになった。誰かに言われたからではない。というより、この世界にいただきますと言う文化は無い。手を合わせる、女神ステイネアに祈るなど信仰故の習慣、文化は見かけはしたが、誰しもがやっているわけでは無かった。信心深いネルンは食事の前に一分ほど祈ってから食べ始めるが、これはキリスト教などの既存の宗教などでは『神』に対して、日々の糧を感謝する。だが、日本では食材に対していただきますと祈りを捧げる。一説によれば、日本の八百万(やおよろず)の神々に対しての祈りであるとも言われているが、幅広く浸透しているのはやはり日本の宗教への関心の薄さが起因しているとも考えられる。

 アリスはそんな事を0.5秒ほど考えていた。いただきますと言うことは無駄かもしれない。だが、これもなんだか人間に近づいたような気がしていて、これはこれで悪くないと考えていた。

「今日のパンは堅めなのだな」
 手に取った今日の白パンは黒パンのように硬く、元居た世界のフランスパンに似ている。

「はい。このパンが柔らかくなるくらい浸して食べるのがおススメです」

「なるほど、こうだな」
 堅焼き白パンをむしり、と三分の一ほどにちぎってビーフシチューに浸した。パンはすぐにビーフシチューを吸い、持ち上げるとずっしりと重くなっていた。

「んむっ……」
 ビーフシチューが服に垂れないように注意しつつ口に運ぶ。

「……いい味だ。コクと深み、その両方が同時に押し寄せてくる」
 このビーフシチューは、長い時間丁寧に煮込まれており、まず尋常ならざる手間を感じた。他にも、時間をかけて煮込まれたことによりたまねぎは存在がわからないほどトロトロに溶け、主役の厚切りの牛肉から溶けだした旨味を引き出している。

「今年の赤ワインは出来が良かったらしく、予想よりも芳醇な仕上がりになりました。それと、市場で珍しくセロリが出ていたのでそれも入れています」
 ワインはコクを大幅に増幅させる。それに加えて香りも付与するため、ビーフシチューには無くてはならない存在だ。セロリは、好き嫌いが別れる食べ物として有名だが、ビーフシチューに入れるとあの独特の薬のような香りが抜け、代わりにビーフシチューに複雑な味と香味をもたらす。

「お肉の方もじっくり加熱したため、美味しく仕上がりました」
 どうぞ、と言われ、匙で大ぶりな肉をすくう。深い茶色の牛肉は、これまた深い茶色のシチューを被り、一種の背徳感さえ与えるほどに輝いていた。脂身もツヤツヤと輝き、アリスを誘惑しているようだ。

「はむっ」
 大ぶりの肉を思い切って一口で口の中に入れきる。そして歯をたて――

「!」
 歯を立てる前に、口の中で肉が『ほどけた』。ホロホロと肉の繊維という繊維が口の中で、舌の上でほどける。 その触感を楽しんだ後、優しく噛むと旨味の強い肉汁とシチューがじゅわっ! と口の中で爆発した。どこにそんな水分が含まれていたのかわからないほどの水分量に思わずアリスは肉汁のみを飲み込んでしまった。だが、噛むとまた出てくる。旨味の強い肉汁は噛めば噛むほど溢れる。そのためアリスはしばらく無言で咀嚼を続けた。

「お肉は先に表面に焼きを入れ、その後じっくり焼き上げたので肉汁を閉じ込めてあります。その様子だと……大丈夫そうですね」
 笑顔でクロイツが語る。

「素晴らしい調和だな」
 ゴクンと肉を飲み込み、水を一口飲む。

「ありがとうございます」
 褒められてクロイツは嬉しそうだ。

「手が止まらないぞ」
 パンをちぎり、シチューに浸し、口に入れ、咀嚼し、またパンをちぎる。ループが始まっていた。

「そろそろこれをいれましょうか」
 そう言い、クロイツは先程示した銀の小皿を取り、ふたを開けた。

「これはクリームチーズです。入れるだけでも表情が一気に変わります。いかがですか?」

「いただこう」

「かしこまりました。では、どれくらいお入れいたしますか?」

「……たくさんだ」
 その返答を聞き、かしこまりました……とごっそりクリームチーズをすくい、ビーフシチューの皿の端に落とす。

「パンにつけても美味しいですよ」
 そう言われたのでアリスは素直にパンにクリームチーズをつける。そしてそのまま口に運ぶ。

「……なるほど」
 クリームチーズが入ったことにより、こってりとした旨味が追加された。爽やかな香りも相まって、別の食べ物のようだ。酸味もうまく作用し、クセになる後味を醸し出している。

「サラダもいただくか」
 パンを一切れ食べ終えたので、サラダにフォークを伸ばす。レタスとトマトのシンプルなものではあるが、逆にそれが魅力的だ。

「いい箸休めになるな」
 レモンを振りかけてあるのか、鼻に柑橘系の香りが抜ける。

「レモンピール……レモンの皮を薄く切って混ぜています。強い香りが特徴なのですが、少量ならいいアクセントになります」
 
「味の濃いものの合間に食べるとリセットされるな」
 口の中がさっぱりし、箸休めとしては最適であった。



「……満足した」
 その後は黙々と食事を進め、出された皿を全て空っぽにした。

「ありがとうございます」
 恭しくクロイツが礼をする。

「あ、お嬢様!」
 アリスが食べ終わったのを確認したシナが駆け寄ってきた。

「どうしたシナ」
 シナはアリスのもとに駆け寄り、声を潜めて耳打ちした。

「……クリスティーナが二時間ほど寝ておけと。昨日の戦闘などで消耗しているだろうとのことです」

「……承知した。体が少し軋んでいるのを感じていたところだ。それに、疲労の蓄積もな」
 頭が少し痛む。昨日の寝不足によるものだろう。

「お嬢様、今日のおやつはいかがなさいますか?」
 クロイツが皿を下げながらアリスに問う。

「……一時間遅らせて私の部屋に持って来てくれ」

「かしこまりました」
 クロイツが皿を下げ終わったのを確認してアリスは席を立った。



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