昨日の君に未来の僕を

春血暫

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第12話

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 ねえ、こんな都市伝説知ってる?

 聞いただけで、本当かどうかは知らないんだけど。

 昔、ていっても10年くらい前かな?

 この町が1回滅んだんだってさ。

 しかも、たった1人の男の子に、だよ?

 その男の子、出会う人をみんな殺していったんだよ。

 そして、最後。

 その男の子は、自分の首を切って死んだの。

「6歳くらいの男の子らしい。生きてたら、その子は私たちと同い年だよねぇ」

「そうだね、くちなしさん」

「やっぱ、怖いよね。左河さかわくん」

「うん。とっても、怖いよ」

 左河くんは、そう言いながらもなぜか笑っている。

 左河くんは同じ部活の同期で、クラスは違うけど。
 なんだか、浮いているみたい。
 不気味、とか。
 気味悪、とか。
 そんな感じで、若干だけどいじめられている。

 私は、少し変わっているなあ、程度。

――やっぱり、左河くんは変わっているだなあ、

 と思いながらいると。

 柳沢やなさわ先輩が、鷹野たかの先輩と一緒に来る。

 柳沢先輩は、部長。
 天然パーマで、剽軽な人。
 私は少しバカにしている。
 実際に先輩は、バカだ。

 鷹野先輩は、副部長。
 少し巻いてあるセミロングの明るめの茶髪。
 柳沢先輩とは、幼馴染みらしく。
 いつも、一緒にいる。
 学校では、2人は付き合っているらしいけど。
 実際は、そうではないらしい。

「お前ら、オカ研だからって、あんま変な話するなよ?」

「良いじゃないですか。オカ研なんだから」

「梔、お前生意気だな」

「柳沢先輩には言われたくないですっ」

 と、笑うと鷹野先輩がクスクスと笑う。

「まあ、二人とも落ち着いてよ」

 でもさ、と鷹野先輩は言う。

「その都市伝説の続きを知ってる?」

「はい?」

 続きも何も、男の子が死んで終わりなんじゃないの?

 不思議に思っていると、顧問の火野ひの先生が入ってくる。

 火野先生は、背が高くて(聞いた話だと、180は超えているらしい)ガタイが良い。
 それで、優しくて頼りになる先生。
 担当は、現代文だけど。
 基本的な、5科目はできるらしいから。
 困ったときは、先生に聞いている。
 そういえば、先生は生まれつき左目が見えないらしい。

「部活してるか?」

「してまーす」

 と、私が返事をすると。
 火野先生は「ん」と頷く。

「で、鷹野。その続き、ていうのは。その男の子が、生きているってやつかな?」

 火野先生に、話を振られて鷹野先輩は少し吃驚した感じで頷く。

「ええ、先生はご存知だったのですか?」

「まあね。その噂は、あまり広まっていないけど。見た、ていう人がいるんだよ」

「え、その男の子を!?」

 私は吃驚して、勢いよく席から立つ。

「ねえ、その男の子生きてるの!?」

「生きてる、らしいな。俺は知らんが」

 それより、と先生は私に言う。

「お前、女なんだから。スカートくらい気にしろ」

「へ?」

 あ。

 なんでか、わかんないけどめくれている。

「ご、ごめんあそばせ?」

「慣れない言葉は、使うべからず」

 ニコッと、先生は笑って。
 私たちのいる席の方に来た。

 それで、色々と話をしている間。

 ふと、私は思い出したことがある。

 左河くんのことだ。

 彼は、いつも制服をきちんと着ていて。
 夏場で、暑いっていうのに。
 ちょっとした事情で、詰め襟を着ている。

 その事情を私は、うっかり知ってしまったんだけど。

 きっと、いじめられて、だと思うけど。

 左河くん。
 首に、ナイフで切ったような痕があるんだよね。
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