愛縁奇祈

春血暫

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愛縁奇祈

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 優馬は、物識りだ。
 たくさんのことを教えてくれる。

 そして、ますます私は人を好きになった。

「優馬、君は本当に物識りだね」

「そんなことないよ。愁ちゃんが知らなさすぎるの」

「まあ、たしかに。私はまだまだ生まれたばかりのようなものだからね」

「そうなの?」

「うむ。桜の季節は、これで何十回目かな」

「待って、それは生まれたばかりじゃない」

「はっはっはっ。そうかそうか、これは人にとっては、長生きなのかな」

「うーん。数によるけど、少なくとも生まれたばかりではない」

 優馬は苦笑する。

「ったく、もう。愁ちゃんって、バカだよね。ひぃちゃんもさ、こんな兄は嫌でしょ」

「うん。正直ついていけない」

「待て、英忠。お前は、私についてこいよ」

「いや、兄ちゃんさ。正直、意味わからないからね」

「何が?」

「なんで、右と左を間違えるの? この前、優馬姉ちゃんから教わったじゃん」

「ん? そうか?」

「そうだよ。なんで、忘れちゃうの」

「あはは、悪い悪い」

 私は忘れやすいのだ。
 これは、本当。

 どうも、記憶力がな……。

「ん、それより。優馬、最近、この町に旅人は来たかな?」

「え?」

「いや、最近、町の雰囲気がおかしいんだよ。誰も私を信仰しない。あんなに、信仰していたのに。信仰しなくても、平気になったのなら良いが。そうではないだろ?」

「んー」

 優馬は腕を組み、考える。

「そうね。そういえば、祢宜と名乗る男が、この前来て、近くに住んでいるよ」

「祢宜?」

「うん。たしか、名前が『刀祢とね』て言うのよ。刀に祢宜で」

「本当に、祢宜と言ったのかい?」

「うん。どうして、そんなに気になるの?」

「いや、祢宜とは神職の一つ。神に仕える者なんだよ。そういう人間は、大体他の人間とは違う雰囲気がする」

 そういうのは、たとえ神でなくても怪異であれば感じるのだ。

 怪異にとって、神職は敵だからね。
 住職も同様。

 だけど。

「別に、感じない。逆に、怪異の雰囲気がするんだ」

「え? でも、そんな感じしないよ?」

「うん。まあ、人間でも、怪異の雰囲気を出すことができたりするんだよ。たとえば、罪人つみびととかね。そういう感じ」

「じゃあ、あの人は……罪人なの?」

「そうだね。まあ、まだわからないから。調べてみるよ。優馬は、何もしないで。英忠、優馬のそばにいて」

「……愁ちゃん、調べるってどうするの?」

「実際に会うんだよ。神聖な祢宜を名乗るなんて、私は許せないな」

 私はニコッと笑い、優馬と英忠を撫でる。

「大丈夫、すぐに戻るから」
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