愛縁奇祈

春血暫

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愛縁奇祈

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 文音と今後の話をしている途中。

「ところで、名切どの。外が騒がしいですね」

「たしかに。何かあったのだろうか」

「あっし、ちょっと見てみますね」

「いや、私が見てみるよ」

「あ、そうですか。なら、少し解きますね」

「うん、よろしくね」

「はーい」

 文音は、小さく何かを言い終えると、私を見る。

「はい、ほんの少しなら」

「ありがと」

 私はお礼を言い、外に出ると。
 町の人が、私の社を睨み、叫んでいる。

「ここが、鬼のいるところだ!!」

「鬼を、殺せ!!」

「美亞さまのために!!」

 その中に、一人、私をよく頼っていた男がいた。
 男は、私を見ると「あそこだ!!」と叫ぶ。

「あそこに鬼がいるぞ!!」

「……そうか、もう、あなたにとって、私は鬼なのか」

 人は、勝手だな。
 勝手すぎるよ。

「あんなに、私を頼ってきたのに。神様と崇めていたのに……」

 私は、その場にいられなくなり、中に戻る。
 すると、英忠が心配そうに私を見る。

「兄ちゃん?」

「ああ、英忠……」

「どうしたの? 何か、言われた?」

「ん? ああ、私を鬼だと言っていたよ」

「え?」

「なあに、私だけだよ。おまえのことは、きっと神様だと思っているよ。安心しなさい。悪者は、私だ」

「そ、そんな……! 兄ちゃんは、悪者じゃないよ!! みんなのこと、思って、頑張っているじゃんか!!」

「ははは、私もそうだと思っているのだけどね」

 だけどさ。

「みんなにとって、もう、私は必要ではないのだ。まあ、元々縁切りなんて、嫌われ役になると思っていたのだが」

 私がにこっと、笑って言うと。
 優馬が、怒ったような顔をして、呟く。

「……そんなの、おかしいって」

「おかしくないよ、優馬」

「いや、おかしいよ! 愁ちゃんが、何をしたって言うの!? たしかに、縁を切ったりしたよ!? でも、それはさ、みんなが……、みんなが願ったからじゃん!!」

「優馬、良いんだ。覚悟はしていたからさ」

「じゃあ、なんで、そんなに悲しそうな顔をするの!? 絶対平気じゃないじゃん!! ていうか、平気なわけないよ!!」

「……優馬」

「そりゃ、あたしは人間だから、愁ちゃんやひぃちゃんの気持ちはわからないよ!? でも、好きな――大切な人に嫌われたりするのが、悲しいっていうのはわかるよ!!」

 優馬は、泣きながら叫ぶ。

「愁ちゃんが……、ひぃちゃんが……、何か悪いことしたのかよ!!」

「優馬、落ち着けって」

 文音は、優馬の袖を引く。

「一旦、落ち着いて」

「これが、落ち着いてられっか!! 文音ちゃんは、悔しくないの!? 友だちが悪く言われて、悔しくも何もないの!?」

「悔しいし、正直、腹は立っている」

「だったら――!!」

「じゃあ、お前はさ、今、何かできるの?」

「……そ、それは」

「できねえだろ? あっしにもできん。殴り飛ばすくらいしかさ」

 文音は悔しそうに、優馬を見る。

「それにな、みんな、お前のことも、殺そうとしているんだよ」

「え?」

「鬼の子、と言ってさ」

「……何、それ」

「一旦、落ち着いて。あっしの考えを聞いてくれないか? あっしはさ、もう、失いたくないんだよ。あっしの大好きな人を。失うのは一回で充分だ」

 文音の言葉を聞き、優馬は「うん」と頷く。

「ごめん」

「良いんだ」

 文音は、小さく言うと私を見る。

「あっしが、少し説得してみる。あっしが、戻るまで、おとなしくしておいてください」

「うん」

「了解」

「わかった」

 私と英忠と優馬は頷いた。
 それを見て、文音は小さく頷く。

「では、行ってきます」
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