愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 なんだか、真っ暗で。
 ここがどこなのか、わからなくて。

 でも、はっきりわかるのは、俺は、大切な人がいるということ。

「いってえ……」

 頭がひどく痛む。
 そして、吐き気もする。

「ったく、どこだよ……」

 と、言ってはみたものの、心当たりはあった。
 ここは、俺にとってかなり懐かしい場所だった。

 今みたいに男として、人間として生活する前。
 何百年も、過ごした場所。

 名前は、わからないし。
 興味がないから、良いけど。

「よいしょ」

 と、俺は起き上がり(自分でも驚きだが、寝ていたみたいだ)、少し歩く。

「たしか、ここで出逢ったんだよな……」

 彼の名前は、なんだっただろう。
 俺は、ずっと人とのつながりを避けてきたから。
 名前なんて聞かなかった。

 それでも、彼は俺を「蛇のお兄さん」と呼んでいた。

 間違ってはいないけど、と思っていたけど。
 指摘するのも面倒で、やめた。

「……たしか、佑佳ゆかって、言ってたっけ」

 女の子みたいな名前だ、と思った。
 たしか、彼には双子の兄がいた。
 兄は、悠稀ゆきという名前だった。

「て、俺、覚えてるじゃんか……」

 関わりたくなんか、なかったのに。

 こんな、障ることしかできない俺なんかと、関わってほしくなかった。

 でも、本当は――

「嬉しかったな……」

 と、俺は苦笑する。

――必ず、救ってみせるから――

 と、笑ってくれたのが。

 もう、人間にも神様にも、何にもなれない俺を人間扱いしてくれたことが。

 とても、嬉しくて。

「大切だったんだ」

 殆ど、覚えていないけど。
 でも、覚えている。

――ああ、そうだ。

「俺は、そろそろ帰らないと。でも、帰り道がわからないな」

 と、思っていると、俺を呼ぶ声がする。
 その声の方に、走ると「こっち」と逆方向に引かれた。

「ちょ、誰――え?」

 見ると、そこには、優馬がいた。
 優馬は、俺の腕を引く。

「そっちは、ダメだから」

「ちょ、どういうこと――」

 と、訊こうとしたとき、一瞬意識を失った。

 けど、それは一瞬で。
 次の瞬間には、目の前には、神呪さんと、引馬さん。
 そして、大好きな優馬がいた。
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