愛縁奇祈

春血暫

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深雪の空

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「……あ?」

 いつの間にか寝てしまったらしい。
 たしか、昨日は紀治が次のライブで最後だ、と話して。
 なんだか、嫌だなあ、と思っていたのだ。
 そこまでは覚えている。

 そのあと、どうしたのだろう。

 食卓の方には、缶チューハイが五本空いている。
 缶ビールは一本とか二本。

――俺、あんなに飲んだっけ。

 覚えているなかでは、一本空くかな、とかそんな感じだったような。

 てか、また紀治の上で寝てしまった。

「…………」

 なんだろ、まだ寝てたいし。寝てようかな。
 今日は何も予定がないと思う。

 くそナルシストが、これで曲できたよ、とか言い出したら殴ろう。
 俺は寝たい。

 あと、久しぶりに酒をたくさん飲んだと思うから、少しだけだるい。

 と、思っていると、案の定三沢から連絡が来た。
 当然、俺は無視をするが、紀治が起きてしまった。

「お前、なんで起きるんだよ」

 と、俺が文句を言うと、紀治は「あ?」と言う。

「お前の携帯がうるさいんだよ。なんとかしろよ」

「なんとかって、何? 切れば良いかな」

「良いんじゃないかな、もう」

「わかったわ、切るわ」

 俺は電話を取ってすぐに切る。

「俺は寝る。人間だもの」

「みつをかよ」

「あ? あ、うん。おやすみ」

 俺は紀治の上に倒れるように寝た。

 昔からの癖だと思うけど、俺は人の上で寝る。
 なかなか理解されないが、安心感があるのだ。
 ちょうど良い温度だからね、人って。

――まだもう少しだけ。

 俺はゆっくり目を閉じた。
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