愛縁奇祈

春血暫

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深雪の空

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 左坤くんと健介、そして英忠と利一を連れて店を回ってすぐ。
 左坤くんが突然「愁哉が危ない!」と言って、社長のいるところへ走っていってしまった。
 心配だから、俺たちも一緒に向かった。

――何事もなければ良いのだが。

 と、思っていると。英忠が「引馬さん!」と俺を呼ぶ。

「あの、今、男の人が三人くらい泣きながら走っていったよ!」

「え? その人たち、怪我とかはしてなかった?」

「うん。一人が、傷だらけだった!!」

「えー」

 遅かったか。
 まったく、騒ぎを起こしてはいけないだろう?

 俺はため息を吐いて、社長のところにいくと。
 社長が慌てていた。左坤くんは、なんだか疲れていた。

「社長?」

「あ、引馬さん!! あのさ、その~」

「何があったんですか? 喧嘩?」

「そう。簡単に言うとね、喧嘩。いや、でも、そのね。違うな。うん。喧嘩とは違う」

「? えっと、とりあえず。左坤くん、ちょっと足の方、怪我をしているね。おいで、手当てするから」

「……引馬さん、怒ってる?」

「怒ってないよ。心配しているの」

「……ごめんなさい」

「良いよ。でも、次からは説明してね。『愁哉が危ない!』だけで走っていかないで」

「…………うん」

「はい、これで安静にしていてね」

「ありがと」

 申し訳なさそうに左坤くんはお礼を言った。
 俺は「うん」と頷いて、左坤くんの頭を撫でる。

「どういたしまして」

「えっと、みんな、本当にごめん。俺が立ち上がって、ふらついたところに青年がたまたまいて、それを見て、優馬が勘違いして…」

 社長は何があったのかを説明する。

「その青年に飛び蹴りをしたんだよ。そしたら、青年が吹っ飛んで、そこの大木が少し傷ついて、優馬は足を怪我しました」

「なるほどね。まあ、死人が出なくて良かったよ」

「うん。出そうだったけどね」

「殺ろうと思ったけど」

「社長も左坤くんもね、以後気をつけるようにね」

「「はい」」

 二人はしゅん、とする。

「「ごめんなさい」」

「本当だよ。もう」

 てか、たぶんだけど。
 ふらついたりしたのわざとだよな。

 俺の予想だと、社長は暇になってしまい。
 そこに、偶然、ナンパしようとした青年たちがいて。
 少しからかおう、と思ってからかっていたのだろう。
 そこに、左坤くんが来て――という感じのような気がする。

「社長、ちょっと良い?」

 その予想が当たっているか、いないかがなんとなく気になった。
 だから、社長に聞いてみようと思って、声をかけると。
 社長は「な、何かな」と言ったから、当たっていると思った。

「いや、なんとなくだけど。社長、暇潰しでやったような気がして」

「え、え? そんなことはないよぉお?」

「あるよね。声、裏返ってるし」

「そりゃ、その、少しからかおっかなあ、て気持ちはあったよ」

「やっぱり……。社長、ふらつくってときは大体そのあとぐったりしてたりするしね。それなのに、そんなにぐったりしていないから、怪しいな、と思ったんだよ。もう、これに懲りてやめてね」

「うん。やめる……」

 社長は深く反省をしているのだろうか。
 いつもよりも、申し訳なさそうにしている。

――次、同じことが起きたら、本気で叱ろう。

 俺は呟いて、腕時計を見る。

「ああ、そろそろだね。音魂鎭心」

「え? もう、そんな時間なの?」

「そうだよ」

「じゃあ、急がないと! 良い席をゲットしないと!!」

「いや、そんな急がなくても。ちゃんと席は確保されてあるみたいだよ? 大丈夫だって」

「そうなんだ。なんだあ、びっくりした」

「うん。てか、本当に好きなんだね」

 俺も好きだけど、社長ほどじゃないな。

 社長、本当に大好きなんだな。
 解散、て言ったとき。絶対泣いただろうな。

「さ、怪我しないようにね。まあ、もうすでに一人怪我してるけど」

「ごめんなさい」

「うん」

 俺は頷いて、ライブ会場の小ホールへ向かった。
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