86 / 96
深雪の空
31
しおりを挟む
左坤くんと健介、そして英忠と利一を連れて店を回ってすぐ。
左坤くんが突然「愁哉が危ない!」と言って、社長のいるところへ走っていってしまった。
心配だから、俺たちも一緒に向かった。
――何事もなければ良いのだが。
と、思っていると。英忠が「引馬さん!」と俺を呼ぶ。
「あの、今、男の人が三人くらい泣きながら走っていったよ!」
「え? その人たち、怪我とかはしてなかった?」
「うん。一人が、傷だらけだった!!」
「えー」
遅かったか。
まったく、騒ぎを起こしてはいけないだろう?
俺はため息を吐いて、社長のところにいくと。
社長が慌てていた。左坤くんは、なんだか疲れていた。
「社長?」
「あ、引馬さん!! あのさ、その~」
「何があったんですか? 喧嘩?」
「そう。簡単に言うとね、喧嘩。いや、でも、そのね。違うな。うん。喧嘩とは違う」
「? えっと、とりあえず。左坤くん、ちょっと足の方、怪我をしているね。おいで、手当てするから」
「……引馬さん、怒ってる?」
「怒ってないよ。心配しているの」
「……ごめんなさい」
「良いよ。でも、次からは説明してね。『愁哉が危ない!』だけで走っていかないで」
「…………うん」
「はい、これで安静にしていてね」
「ありがと」
申し訳なさそうに左坤くんはお礼を言った。
俺は「うん」と頷いて、左坤くんの頭を撫でる。
「どういたしまして」
「えっと、みんな、本当にごめん。俺が立ち上がって、ふらついたところに青年がたまたまいて、それを見て、優馬が勘違いして…」
社長は何があったのかを説明する。
「その青年に飛び蹴りをしたんだよ。そしたら、青年が吹っ飛んで、そこの大木が少し傷ついて、優馬は足を怪我しました」
「なるほどね。まあ、死人が出なくて良かったよ」
「うん。出そうだったけどね」
「殺ろうと思ったけど」
「社長も左坤くんもね、以後気をつけるようにね」
「「はい」」
二人はしゅん、とする。
「「ごめんなさい」」
「本当だよ。もう」
てか、たぶんだけど。
ふらついたりしたのわざとだよな。
俺の予想だと、社長は暇になってしまい。
そこに、偶然、ナンパしようとした青年たちがいて。
少しからかおう、と思ってからかっていたのだろう。
そこに、左坤くんが来て――という感じのような気がする。
「社長、ちょっと良い?」
その予想が当たっているか、いないかがなんとなく気になった。
だから、社長に聞いてみようと思って、声をかけると。
社長は「な、何かな」と言ったから、当たっていると思った。
「いや、なんとなくだけど。社長、暇潰しでやったような気がして」
「え、え? そんなことはないよぉお?」
「あるよね。声、裏返ってるし」
「そりゃ、その、少しからかおっかなあ、て気持ちはあったよ」
「やっぱり……。社長、ふらつくってときは大体そのあとぐったりしてたりするしね。それなのに、そんなにぐったりしていないから、怪しいな、と思ったんだよ。もう、これに懲りてやめてね」
「うん。やめる……」
社長は深く反省をしているのだろうか。
いつもよりも、申し訳なさそうにしている。
――次、同じことが起きたら、本気で叱ろう。
俺は呟いて、腕時計を見る。
「ああ、そろそろだね。音魂鎭心」
「え? もう、そんな時間なの?」
「そうだよ」
「じゃあ、急がないと! 良い席をゲットしないと!!」
「いや、そんな急がなくても。ちゃんと席は確保されてあるみたいだよ? 大丈夫だって」
「そうなんだ。なんだあ、びっくりした」
「うん。てか、本当に好きなんだね」
俺も好きだけど、社長ほどじゃないな。
社長、本当に大好きなんだな。
解散、て言ったとき。絶対泣いただろうな。
「さ、怪我しないようにね。まあ、もうすでに一人怪我してるけど」
「ごめんなさい」
「うん」
俺は頷いて、ライブ会場の小ホールへ向かった。
左坤くんが突然「愁哉が危ない!」と言って、社長のいるところへ走っていってしまった。
心配だから、俺たちも一緒に向かった。
――何事もなければ良いのだが。
と、思っていると。英忠が「引馬さん!」と俺を呼ぶ。
「あの、今、男の人が三人くらい泣きながら走っていったよ!」
「え? その人たち、怪我とかはしてなかった?」
「うん。一人が、傷だらけだった!!」
「えー」
遅かったか。
まったく、騒ぎを起こしてはいけないだろう?
俺はため息を吐いて、社長のところにいくと。
社長が慌てていた。左坤くんは、なんだか疲れていた。
「社長?」
「あ、引馬さん!! あのさ、その~」
「何があったんですか? 喧嘩?」
「そう。簡単に言うとね、喧嘩。いや、でも、そのね。違うな。うん。喧嘩とは違う」
「? えっと、とりあえず。左坤くん、ちょっと足の方、怪我をしているね。おいで、手当てするから」
「……引馬さん、怒ってる?」
「怒ってないよ。心配しているの」
「……ごめんなさい」
「良いよ。でも、次からは説明してね。『愁哉が危ない!』だけで走っていかないで」
「…………うん」
「はい、これで安静にしていてね」
「ありがと」
申し訳なさそうに左坤くんはお礼を言った。
俺は「うん」と頷いて、左坤くんの頭を撫でる。
「どういたしまして」
「えっと、みんな、本当にごめん。俺が立ち上がって、ふらついたところに青年がたまたまいて、それを見て、優馬が勘違いして…」
社長は何があったのかを説明する。
「その青年に飛び蹴りをしたんだよ。そしたら、青年が吹っ飛んで、そこの大木が少し傷ついて、優馬は足を怪我しました」
「なるほどね。まあ、死人が出なくて良かったよ」
「うん。出そうだったけどね」
「殺ろうと思ったけど」
「社長も左坤くんもね、以後気をつけるようにね」
「「はい」」
二人はしゅん、とする。
「「ごめんなさい」」
「本当だよ。もう」
てか、たぶんだけど。
ふらついたりしたのわざとだよな。
俺の予想だと、社長は暇になってしまい。
そこに、偶然、ナンパしようとした青年たちがいて。
少しからかおう、と思ってからかっていたのだろう。
そこに、左坤くんが来て――という感じのような気がする。
「社長、ちょっと良い?」
その予想が当たっているか、いないかがなんとなく気になった。
だから、社長に聞いてみようと思って、声をかけると。
社長は「な、何かな」と言ったから、当たっていると思った。
「いや、なんとなくだけど。社長、暇潰しでやったような気がして」
「え、え? そんなことはないよぉお?」
「あるよね。声、裏返ってるし」
「そりゃ、その、少しからかおっかなあ、て気持ちはあったよ」
「やっぱり……。社長、ふらつくってときは大体そのあとぐったりしてたりするしね。それなのに、そんなにぐったりしていないから、怪しいな、と思ったんだよ。もう、これに懲りてやめてね」
「うん。やめる……」
社長は深く反省をしているのだろうか。
いつもよりも、申し訳なさそうにしている。
――次、同じことが起きたら、本気で叱ろう。
俺は呟いて、腕時計を見る。
「ああ、そろそろだね。音魂鎭心」
「え? もう、そんな時間なの?」
「そうだよ」
「じゃあ、急がないと! 良い席をゲットしないと!!」
「いや、そんな急がなくても。ちゃんと席は確保されてあるみたいだよ? 大丈夫だって」
「そうなんだ。なんだあ、びっくりした」
「うん。てか、本当に好きなんだね」
俺も好きだけど、社長ほどじゃないな。
社長、本当に大好きなんだな。
解散、て言ったとき。絶対泣いただろうな。
「さ、怪我しないようにね。まあ、もうすでに一人怪我してるけど」
「ごめんなさい」
「うん」
俺は頷いて、ライブ会場の小ホールへ向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる