狂気醜行

春血暫

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杜和泉切り裂きジャック事件

006

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 五分後。
 理緒と恵実は、文弘と一のいるところに来た。
 恵実は文弘を見て「うわ」と言う。
「なぜ、ここにいるんですか」
「たまたまだよ。新人刑事さん」
「それ、やめてくれませんか? 腹立ちます」
「ははは。やめない」
 文弘はポケット灰皿に煙草を捨てる。
「さ、犯人に話でも聞きますか」
 文弘はそう言い、扉をノックする。
 中から、男の声で「何でしょう」と聞こえた。
 文弘は「警察です」と嘘を吐く。
「この近辺で、最近、殺人事件が起きています。何か、不審者とかの目撃証言があればなあ、と」
「不審者?」
「ええ、例えば一人の娼婦に思いを寄せていて、思いが強すぎてその人を殺してしまった、とか」
 文弘の言葉に、中にいる人物は扉を開ける。
「なぜ……!?」
「おや、その反応は図星かな?」
「っ!」
 男はビクッとし、一歩下がる。
「お、俺は何も知らねえ!」
「そんなことないはずだよ」
 理緒は男に言う。
久住くずみ辰雄たつおさん。早乙女嵐さんのことで、少し署でお話を聞かせてもらっても良いですか?」
「早乙女嵐?」
 久住は少し汗を流し、理緒を見る。
「嵐がどうかしたんですか……?」
「『どうかしたんですか?』か……」
 理緒が呟くと、恵実が久住に近寄り、胸ぐらを掴む。
「あんたが殺ったっていう証拠はあんのよ! 久住!!」
「ちょ、何だよ! 暴行罪で訴えるぞ!」
「っ」
「雪城、落ち着け」
 理緒は恵実と久住の間に入り、恵実を宥める。
「こんな奴のせいで、お前というパートナーを失いたくない」
「先輩……」
「な?」
「……感情的になってしまいました」
 恵実は頭を下げる。
 理緒は優しく頭を撫でて、久住を見る。
「さ、うちの後輩がまたぶちギレてしまう前に――ね?」
「……俺は何も知らねえ。あ、嵐は俺の客というだけだ。それに、昨日の夜九時は、俺は家にいたんだ!」
 久住の言葉に、一が「あれ?」と言う。
「俺たち、まだ何も言ってないんですけど……」
「え」
 久住は驚き、固まる。
 文弘は「おや?」と言って、久住の脇を通り部屋に入る。
「この布にくるまれているものは、何ですか? 久住さん」
「え……? てか、勝手に入るなよ!」
「勝手に入ったのは失礼~」
 文弘は布にくるまれているものを持ち、理緒を呼ぶ。
「こういうの見るのって、お前の仕事だろ?」
「ええ」
 理緒は頷き、文弘の持つものを確認しようと部屋に入る。
 が、それを久住が止める。
「勝手に入るな」
「先生が勝手に入ったのは、後で注意しておきます。が、僕が入るのは別に問題ないので」
 ね? と、理緒が言うと、恵実は頷き、久住に令状を見せる。
「これ、何だか知ってますよね?」
「っ」
「これ以上妨害するなら、公務執行妨害で現行犯逮捕するわよ」
「クソ……」
 久住は何かを諦めたように呟き、俯いた。
 理緒は、布にくるまれたものの中身を見る。
「おっと、これは……肉切り包丁? しかも、血がついている」
「被害者の血と思って良いし、これが凶器だろうな」
 文弘は呟き、久住を見る。
「どうでしょう? 久住さん」
「……ああ、もう良い。わかった。俺の負けだ」
 久住はそう呟くと、懐から鋏を出し、恵実を襲う。
 が、恵実は冷静に、久住を背負い投げする。
「刑事、なめんなよ? あと、公務執行妨害で現行犯逮捕よ」
 ね? と、恵実は理緒を見る。
「先輩」
「ああ、そうだな。んで、久住さん。詳しい話は署で聞かせてもらいますね」
 理緒が言うと、久住は突然「ははは」と笑い出す。
「あはは! はははははははっ!」
「な、何が可笑しい?」
「お前らは俺を裁くことなんてできない!」
「は? 何、言ってるの? あんた……」
「嵐を殺ったときから、もう決まってた。俺は教祖様のものになるんだ!!」
「ちょっと、黙りなさい!」
 恵実は久住を黙らせ、理緒と共に書に向かった。
 理緒は文弘と一に「お疲れさまでした」と頭を下げる。
「何かあったら、また連絡します」
「え、あ、はい」
 一は返事をしたが、文弘は考え込んでいて、返事をしなかった。
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