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杜和泉児童殺害予告事件
004
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「――ということで。その、千歳が犯罪者になってしまうかもしれないのです」
「……そうか」
「千歳は本気だと思います。あの子は冗談を知らないから」
「佐伯くんが冗談を知らないというのは、俺も知っている。だから、今、考えているんだ」
優は考えながら、メモ帳に文字を書く。
「佐伯くんを止めるしかないけど。なぜ、いけないのかを説明しないといけない……」
「…………」
「というか、なぜ突然そんなことを思ったのか、だな」
「わかりません。けど、千歳が先日、変わった話をしていました」
「変わった話?」
「はい」
奈穂は頷き、優に話す。
「何か『S教』っていう宗教みたいなものの話もしていて……」
「ん? 『S教』?」
「今、ネットとかで話題の新興宗教みたいなものらしくて。僕、気になって少し調べたんですけど、全然出てこなくて……。都市伝説の類いだとは思うんですけど」
「ふむ。そうか……」
「その後とかに、急に『人も同じ動物なのに、どうして人を殺してはいけないの?』とか『死にたくても死ねない人がいる。そういう人を天国に連れていってあげないと』とか言い出して……」
「それで、明日から一人ずつ天国に、ていうことか」
奈穂から聞いた話を、優はメモ帳に書く。
そして、少しため息を吐いて「厄介だな……」と呟く。
「というか、困ったことになっている」
「先生?」
「ああ、いや。教え子がそんな怪しい宗教にハマってしまったとは……と思っているだけ」
「?」
「信仰心というのは厄介で、俺らが『それはいけない』と言っても、意味がないんだよ。思い込み、というか。そういうものって、とても強い力を持っているから」
「…………」
「心配するな」
優は優しく笑い、奈穂の頭を撫でる。
「俺が何とかしてみせるよ」
「先生……」
奈穂は涙目になりながら、優を見る。
優は小さく頷き、左腕に巻いた腕時計を確認する。
「まあまあな時間だな。送っていくよ」
「え、良いですよ。僕、もう中学二年生ですよ?」
「でも、心配なんだよ。お前も大切な俺の教え子なんだから」
「先生……」
「それに、俺はこれから、佐伯くんの家に向かうから。ついで、と思って。そうしたら、少しは気が楽かな?」
「はい」
奈穂は袖で涙を拭い、席を立つ。
「千歳、きっと先生なら顔を合わせてくれると思います! それで、その……」
「大丈夫。説得とかしてみるよ。慣れてないけど」
「先生ったら」
あはは、と奈穂は笑う。
その笑顔を見て、優も笑う。
「新沢くんは、笑った方が良いよ。やっぱり」
「へ?」
「新沢くん、緊張か警戒かからか、よくムスッとしていたからね。笑顔の方が可愛らしくて、俺は良いと思う」
「ちょ、あ、あの、恥ずかしいな……」
「ははは。子供らしくて可愛いよ」
優は荷物をまとめ、奈穂の頭を優しく撫でる。
「佐伯くんのこと、教えてくれてありがとうな」
「い、いや、その。僕が頼れる大人は、先生しかいないから……」
「嬉しいよ」
「……えっと、その」
「うん?」
「話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「礼は要らないよ。当たり前のことだから」
「当たり前?」
「そうだよ。教え子の話を聞くのは、先生として当たり前のこと。だから、気にすんな」
「……やっぱり、先生は優しいな」
「そうかな」
「そうです」
奈穂は頷き、優の後ろを歩いて、職員室を出た。
ピシャリと丁寧に扉を閉め、優と一緒に昇降口に向かった。
「……そうか」
「千歳は本気だと思います。あの子は冗談を知らないから」
「佐伯くんが冗談を知らないというのは、俺も知っている。だから、今、考えているんだ」
優は考えながら、メモ帳に文字を書く。
「佐伯くんを止めるしかないけど。なぜ、いけないのかを説明しないといけない……」
「…………」
「というか、なぜ突然そんなことを思ったのか、だな」
「わかりません。けど、千歳が先日、変わった話をしていました」
「変わった話?」
「はい」
奈穂は頷き、優に話す。
「何か『S教』っていう宗教みたいなものの話もしていて……」
「ん? 『S教』?」
「今、ネットとかで話題の新興宗教みたいなものらしくて。僕、気になって少し調べたんですけど、全然出てこなくて……。都市伝説の類いだとは思うんですけど」
「ふむ。そうか……」
「その後とかに、急に『人も同じ動物なのに、どうして人を殺してはいけないの?』とか『死にたくても死ねない人がいる。そういう人を天国に連れていってあげないと』とか言い出して……」
「それで、明日から一人ずつ天国に、ていうことか」
奈穂から聞いた話を、優はメモ帳に書く。
そして、少しため息を吐いて「厄介だな……」と呟く。
「というか、困ったことになっている」
「先生?」
「ああ、いや。教え子がそんな怪しい宗教にハマってしまったとは……と思っているだけ」
「?」
「信仰心というのは厄介で、俺らが『それはいけない』と言っても、意味がないんだよ。思い込み、というか。そういうものって、とても強い力を持っているから」
「…………」
「心配するな」
優は優しく笑い、奈穂の頭を撫でる。
「俺が何とかしてみせるよ」
「先生……」
奈穂は涙目になりながら、優を見る。
優は小さく頷き、左腕に巻いた腕時計を確認する。
「まあまあな時間だな。送っていくよ」
「え、良いですよ。僕、もう中学二年生ですよ?」
「でも、心配なんだよ。お前も大切な俺の教え子なんだから」
「先生……」
「それに、俺はこれから、佐伯くんの家に向かうから。ついで、と思って。そうしたら、少しは気が楽かな?」
「はい」
奈穂は袖で涙を拭い、席を立つ。
「千歳、きっと先生なら顔を合わせてくれると思います! それで、その……」
「大丈夫。説得とかしてみるよ。慣れてないけど」
「先生ったら」
あはは、と奈穂は笑う。
その笑顔を見て、優も笑う。
「新沢くんは、笑った方が良いよ。やっぱり」
「へ?」
「新沢くん、緊張か警戒かからか、よくムスッとしていたからね。笑顔の方が可愛らしくて、俺は良いと思う」
「ちょ、あ、あの、恥ずかしいな……」
「ははは。子供らしくて可愛いよ」
優は荷物をまとめ、奈穂の頭を優しく撫でる。
「佐伯くんのこと、教えてくれてありがとうな」
「い、いや、その。僕が頼れる大人は、先生しかいないから……」
「嬉しいよ」
「……えっと、その」
「うん?」
「話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「礼は要らないよ。当たり前のことだから」
「当たり前?」
「そうだよ。教え子の話を聞くのは、先生として当たり前のこと。だから、気にすんな」
「……やっぱり、先生は優しいな」
「そうかな」
「そうです」
奈穂は頷き、優の後ろを歩いて、職員室を出た。
ピシャリと丁寧に扉を閉め、優と一緒に昇降口に向かった。
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