廃愛の塔

春血暫

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鳥のうた

001

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 結婚して、五年経った。
 そんなある日。

 不思議なことが起きた。

「ねえ、井村先生!」

「恵実ちゃんのそれは、癖なんだね」

「あ、えっと、靖弘さん!」

「いや、言い直さなくても良いよ。で、どうした?」

「その、なんか体調がここ最近良くないから、平沢先生のところに行ったの」

「ん? うん」

「そ、そうしたらね……」

 私の胸はドキドキと騒ぐ。
 それもそのはずだ。

 だって、ないと思っていたことだもの。

「に、妊娠だって言われた……」

「え!?」

「わ、私も言ったよ? 平沢先生に『それ、何かの間違いでしょ?』って! でも、先生は『まあ、神様のイタズラみたいなものだよ』って笑って……」

「え、あ、いや、嬉しいけど……!」

「うん。私も、嬉しいけど。なんだろう、不安だよ……」

「大丈夫。俺だって医者だ。だから、全力でサポートするよ」

「ありがとう。大好き、あなた」

 でも、本当、不思議すぎる。
 何かの間違いだって思う。

 だけど、神様、ありがとう。
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