廃愛の塔

春血暫

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三つ葉のクローバー

003

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 俺には妻も子どももいる。
 妻の名前は、弘美。幼稚園からの幼馴染みである。
 子どもの名前は、靖弘。俺らの一人息子。

 俺も弘美も会社員。
 靖弘は、まだ中学生だ。
 先日中学二年生になったばかり。

「やっくん、忘れ物ない?」

「お父ちゃん、なんで俺のことをやっくんて言うの。ちなみに、忘れ物はない」

「靖弘だからやっくんだろ。桜塚の方が良い?」

「スケバン恐子じゃねえよ! お父ちゃん!! てか、いってきます!!」

「おう、今日もちゃんと学べよ」

 と、靖弘を見送り、俺は出勤する準備をする。

 五分くらいで、準備を終えて、少し休む。

 弘美の働いている会社のこととか、靖弘の学校のこととかを考える。
 やはり、今のままだと生活が難しいな。

 男として、経済的に家を支えなければならない。
 だけど、それじゃあ難しい。

 弘美の会社が、ブラックで、日に日に給料は減らされ、今は、バイトの方が高かったりするらしい。
 そう思うと、早めにやめて、家でゆっくりしてもらいたい。

 けど。

「それができたら、やってるよなあ」

 と、呟き、時計を見る。

「あ、やっべ」

 俺は戸締まりを確認し、火の元も確認し、家を出た。

 俺の会社は、普通の会社だ。
 そこでは、普通に事務をしている。

 自慢ではないが、かなりモテる。

「井村さん、パソコントラブっちゃった」

「どうしたの? 美琴ちゃん」

 美琴ちゃんは、俺の後輩。
 真面目に働き、キチッとしている。
 だが、たまにミスをする。
 美琴ちゃんは、困ったような顔をして、俺に言う。

「あの、画面がおかしくて」

「ああ、ここはね」

 と、俺は教えながら直す。

「はい、大丈夫」

「ありがとう。助かりましたあ」

「ううん、また何かあったら言いなよ」

「はい! てか、こんなに優しい井村さんが旦那様なんて、奥様羨ましいです」

「あはは、褒めても何も出ないぞ~」

 と、笑っていると、携帯が鳴る。

「あ、ごめん」

 と、美琴ちゃんに言い、電話をとる。

「どうした? ラムちゃん」

「ごめんなさい。今、会社よね」

「ああ、そうだけど。良いよ、大丈夫」

「うん。あ、あのね。やっくんが、学校で大ケガしちゃったらしくて、病院に行かないとなんだけど、私、行けなくてさ。代わりに行ってもらって良い?」

「もちろん。それより、お前、電話バレたらまずいだろ?」

「大丈夫。今、課長いないから」

「そうか。まあ、やっくんのことは、任せろ。んで、お前は無理をするな。具合が悪くなったら、すぐに帰宅するように」

「うん。ありがと」

 じゃ、と弘美は電話を切った。
 俺も電話を切り、課長に事情を話し、靖弘の学校に向かった。
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