廃愛の塔

春血暫

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三つ葉のクローバー

014

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 そして、現在。
 俺は、双子の娘と、きれいな妻がいる。

「ねえ、その本って、かなり昔とかじゃない? あなた」

「ん? ああ、そうだね。けど、これは親の形見だったりするんだよ。貧乏だけど、貧乏なりにさ。お母ちゃんとお父ちゃんがくれた大切な小説と栞なんだ」

 もう内容なんて、見ないでも言えるくらい読んだけど。
 定期的に見たくなるのだ。

「お父ちゃんさ、器用な人なんだよ。だから、この栞きれいだろ?」

「たしかに。とてもきれいね。けど、どうして三つ葉なの?」

「俺とお父ちゃんとお母ちゃん、てことなのさ」

「へえ、素敵ね」

「ありがと」

「ん。あ、そうだ。ねえ、あなた。哉恵と靖愁が脱走したの。捕まえるの手伝ってくれる?」

「わかった」

 俺は、本のページの間に栞を挟み、娘たちを捕まえる。

「おーし、捕まえたぞお、しぃちゃん」

「ぶう!!」

「ぶうじゃありません。しぃちゃん」

「ぶう!!」

「もう、女の子なんだから。まあ、可愛いから良いけどさ。恵実、なえ坊は?」

「捕まんない! ちょっと、哉恵!!」

「まんま!!!」

「まんまは、後でだし。さっき食べたでしょうが!! 今さっき!!」

「まんま!!!!」

 哉恵は、恵実ちゃんを睨む。

「まんま!!!!」

「母さんは、ご飯じゃないよ!」

 こら、と恵実ちゃんは哉恵をホールドした。
 哉恵は、不満があるらしく「まんま!!!」と叫ぶ。

「まーんーまー!!!!」

「はいはい。お外に行きたいんだね」

「まんま!!」

「まんま以外も言おうね、なえ坊」

 俺は哉恵に笑いかけ、ベビーカーの準備をする。

 さすがに片手は無理だ。

 そう思い、恵実ちゃんに靖愁を頼む。
 そして、すぐに、準備を終わらせ、双子をそれぞれ乗せる。

「じゃ、散歩しようか」

「てか、あなた、よくわかったわね」

「まあな。てか、恵実。お前、大丈夫か? 身体の具合」

「平気よ。ね、どこ行く? 公園?」

「そうだね。公園に行こうか」

 と、俺たち家族は公園に向かった。

 向かいながら、自分も昔、家族と公園に行ったな、とか。
 公園で、遊び疲れて、家で母と一緒に布団にダイブして、父に怒られたな、とか。

 そんなことを思いながら、歩くと。
 公園にすぐに到着。

 双子の様子を見ながら、恵実ちゃんは言う。

「なんか、さ。これから、どうなるのか、心配だな」

「そうだな。見た目のことで、いじめられるかもしれん。でも、大丈夫。いざっていうときは、助けるから」

「うん。でもさ、犯罪だけは駄目だよ?」

「わかってるって」

 けど、まあ、言うのは遅い、かな。

「そうだ、恵実」

「ん? 何?」

「今日さ、お前の誕生日だろ。二月の八日」

「え? 覚えていてくれたの?」

「当たり前だろ? んで、ほら、これ」

 俺は、恵実ちゃんに栞を渡す。

「金がないから、あんま、高価なものは渡せないが」

「良いの。あなたにもらった、ていうことが大事なんだから」

「可愛いこと言うじゃねえか」

 馬鹿、と俺は恵実ちゃんから目をそらす。
 恵実ちゃんは嬉しそうに笑いながら「照れてんの?」と言う。

「照れてる先生、珍しい」

「うるさいぞ」

「あっはっはっ」

「わ、笑うべからず!」

 ったく、この子は。
 すぐに笑うんだから。

 けど、そんな子に惚れたのは、俺だったりする。

「なあ、恵実ちゃん」

「ん?」

「俺さ、意外と暗い青春時代だったりしたの」

「そうなの?」

「うん。高校一年のときくらいに、両親殺されたし。そのあとも、散々だった」

「うん」

「でもさ、今、すげえ幸せだよ。あのとき、普通だったら、得られていたであろう青春を、取り戻している気分」

 周りが、色恋沙汰で騒ぐ中。
 俺は、生きるのに必死だったから。

 両親が死んだのは、俺のせいだ。

 なんて、言われたりした。

――あまり、幸せとは言えなかった。

 小さく呟いて、恵実ちゃんを見る。

「だからさ、恵実ちゃん。俺、今、すげえ幸せだよ」

「……何、いきなり」

「言いたくなったんだよ。俺さ、君と出逢って――出逢えて、良かった。ありがとう」

「こちらこそ、私もあなたに出逢えて良かった。ありがとう」

「そう言ってくれたのは、家族と君だけだ」

 お父ちゃん、お母ちゃん。
 俺は、今。
 きっと、よくあることで、幸せを感じている。

 別に、二人のせいで不幸だったなんて、思わない。

 だって、俺は。
 俺はさ、二人の子で良かった、て思うから。

「さて、哉恵と靖愁と遊ぶか!!」

「あまり、はしゃぎすぎないでよね?」

「わかっとるわ!!」

 俺は、子どもを抱えて走り出した。
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みんなの感想(1件)

琴里 美海
2016.10.16 琴里 美海

井村先生、恵実ちゃん、どうか末永く爆発してください(お幸せに。)

春血暫
2016.10.16 春血暫

感想ありがと

次回もね、おんなじような青春もの上げるから、楽しみにしておいて

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