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第二十六話
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令和と違って、武士以外が殺されても事件にはならないのか。
石山安兵衛と宗古と俺以外は帰り支度をしている。
淀君が大野はどこかと大声で話している。
堀尾吉晴が淀君に探してまいりますと答えている。
石山安兵衛が宗古のもとに来て涙を浮かべながら
「貞は今回の仕事が終わったら平穏に私と暮らそうといっていたのに、私はどうしたらいいのか」
宗古は石山安兵衛を慰めながら聞いた。
「本当にかわいそうなこと。安兵衛さんこんなときに尋ねて申し訳ないのですが、この女の方が貞だと何故分かったのですか」
「貞は右の乳房に、痣があるのです」
石山安兵衛は死体の女の胸元を少し開けて右乳房の痣を宗古に見せた。
「さっき気絶して逃げた女は右胸に何もなかった」
「貞さんが刺された車いすのようなものがありましたが自動的に動いていたような気がしたのです。また囲碁盤の中を空洞にして何か品物をいれられるようなからくり囲碁盤もありました。ああいうからくり物を作ることができる職人を知っていますか」
「あの囲碁盤は私がつくったものだ。例のからくり木箱を頼まれたときに、あの囲碁盤も同じ者に頼まれた」
「あの車いすはどうですか」
石山安兵衛の顔から涙が消え、憤怒の表情になった。
「許さない。浜松城に戻る」
吉川は会話がかみ合っていないので改めて石山安兵衛の顔を見た。
思いつめた表情だった。
勝吉から先に城に帰るが一緒に帰るかと聞かれた宗古は、もう少し稲荷神社にいると答えていた。
「現場検証よ。黄金の狐と本堂の横に行くわ」
宗古は俺の手を引っ張り、遠江分器稲荷神社の黄金の狐の像の前に来た。
血が点々としているが、その血を宗古はじっと見つめている。
「貞さんが刺された現場の血と、車いすがスタートする前の血が違うような気がするわ。スマホのカメラで拡大するわね」
吉川もスマホを見たが、確かに血はどれも赤いが、刺された現場の血とそれ以外の血の色が微妙に違っている。
「次は本堂の横に行くわ」
本堂の横に行くと、囲碁盤が割れたまま放置されていた。
放置された囲碁盤の横には紙が落ちていた。
紙には『月は、椅子に座りゼンマイを巻き黄金の狐を目指せば現れる』と書かれている。
何だ、これは。
宗古は頷いて、文書と囲碁盤をスマホのカメラで撮っている。
「例の文書とは筆跡が違うわね」
宗古が本堂の周りを歩くと吉川を呼んだ。
「カラスの死骸よ。カラスも小刀で刺されているわ。
この先には何があるのかな。
月が逃げた林だわ。行ってみましょう」
あたりは薄暗くなってきた。宗古がスマホのライトをつける。
鬱蒼とした林が続く。その先は山になっている。
「月が山を越したら行方はわからないわ。
戻りましょうか。あれっ」
ふと見ると、山のふもとの林の終わり付近に何かが落ちている、いや倒れている。
宗古と吉川が駆け寄ると人がうつ伏せに倒れていて血を流している。
「また死体なの。月にしては大柄な感じね」
宗古は平気そうだが、刑事の俺は身震いがしてきた。
周りを見渡したが他に人影は居ない。
吉川は死体の顔をスマホのライトで照らすとそこには能楽師の来電の顔があった。
「切り殺されているみたいだな。月に逆襲されたのかな」
死体の来電は黒装束の着物を着ている。
「黒の着物がズタズタよ」
宗古はバシャバシャとスマホカメラで写真を撮っている。
浜松城に来て二人目の死体だ。
「そろそろ戻ろう」
あたりはすっかり暗くなっている。
宗古と俺は急いで林の中を走ろうとしたそのとき、唸り声が聞こえた。
野犬だ。それも数十頭いる。
いや、野犬と思ったら大きい。オオカミか?目が燃えるように赤い。
「これは犬やオオカミではないわ。魔犬ヘルハウンドよ!」
何故戦国時代の日本にヨーロッパの魔犬が現れたのか?
宗古を守らないといけない。一応短筒の火縄銃は持っているがこんなに野犬が多いと役に立たない。
吉川は先ほど手に入れた村正の妖刀を構え身構えた。
魔犬は唸り声を立て、今にも跳びかかってきそうだ。
宗古を見るとスマホをいじっている。
「宗古、逃げろ。俺が摩犬は何とかする」
吉川は野犬に村正の妖刀を握りしめた。宗古がスマホのアイコンをクリックする。
村正の妖刀が赤く輝き始めた。
刃先からレーザビームが発射される。
魔犬のうち一匹が吉川の喉元目掛けて襲ってきた。
吉川は次々と摩犬に村正の妖刀の先端を翳した。赤いレーザビームが魔犬の目を貫いた。
吉川を襲ってきたヘルハウンドが爆発して粉々になった。
別の魔犬が跳びかかり宗古を襲おうとしている。
宗古は間一髪で魔犬を避けたが、転んでその場からでスマホが転がった。
吉川が再び村正の妖刀を魔犬に翳したがレーザビームが出ない。
「刀があれば十分だ」
宗古に駆け寄り、宗古を後ろに寄せて、魔犬に対して村正の妖刀を構えた。
魔犬が二匹同時に、二人に跳びかかってきた。
吉川は十分魔犬を惹きつけると、妖刀を水平に走らせて、二匹の魔犬の首を切り捨てた。
残りの魔犬が怯んでいる。
「今だ。後ずさりして逃げよう」
宗古は転がっていたスマホを手にする。
吉川は妖刀を魔犬に向けつつ宗古の手を握り、後ろに向って走り出した。
魔犬は動かない。
二人は林を抜けて本堂が見えてきた。
そのまま遠江分器稲荷神社の入口まで来た。
俺たちの馬が止まっている。
「さあ、浜松城に戻りましょう。嫌な予感がするの」
馬に乗った宗古が俺の背中に柔らかな双丘を密着させて言った。
「村正のレーザ妖刀の破壊力はすごいね。
あれは狙った物体に当たると衝撃波で破壊するのね。
敵は西洋の魔物を召喚できる魔術を使えるとしたら早くレベルアップしないと対抗できないわ。私を早く成長させるためにも努力してね」
背中の感触の気持ちよさに吉川は顔を赤らめた。
浜松城に戻ると、騒がしい声がする。
勝吉が宗古を見つけると。
「大変です。石山安兵衛が暴れて人を刺し殺しました」
浜松城にきて三人目だ。
石山安兵衛と宗古と俺以外は帰り支度をしている。
淀君が大野はどこかと大声で話している。
堀尾吉晴が淀君に探してまいりますと答えている。
石山安兵衛が宗古のもとに来て涙を浮かべながら
「貞は今回の仕事が終わったら平穏に私と暮らそうといっていたのに、私はどうしたらいいのか」
宗古は石山安兵衛を慰めながら聞いた。
「本当にかわいそうなこと。安兵衛さんこんなときに尋ねて申し訳ないのですが、この女の方が貞だと何故分かったのですか」
「貞は右の乳房に、痣があるのです」
石山安兵衛は死体の女の胸元を少し開けて右乳房の痣を宗古に見せた。
「さっき気絶して逃げた女は右胸に何もなかった」
「貞さんが刺された車いすのようなものがありましたが自動的に動いていたような気がしたのです。また囲碁盤の中を空洞にして何か品物をいれられるようなからくり囲碁盤もありました。ああいうからくり物を作ることができる職人を知っていますか」
「あの囲碁盤は私がつくったものだ。例のからくり木箱を頼まれたときに、あの囲碁盤も同じ者に頼まれた」
「あの車いすはどうですか」
石山安兵衛の顔から涙が消え、憤怒の表情になった。
「許さない。浜松城に戻る」
吉川は会話がかみ合っていないので改めて石山安兵衛の顔を見た。
思いつめた表情だった。
勝吉から先に城に帰るが一緒に帰るかと聞かれた宗古は、もう少し稲荷神社にいると答えていた。
「現場検証よ。黄金の狐と本堂の横に行くわ」
宗古は俺の手を引っ張り、遠江分器稲荷神社の黄金の狐の像の前に来た。
血が点々としているが、その血を宗古はじっと見つめている。
「貞さんが刺された現場の血と、車いすがスタートする前の血が違うような気がするわ。スマホのカメラで拡大するわね」
吉川もスマホを見たが、確かに血はどれも赤いが、刺された現場の血とそれ以外の血の色が微妙に違っている。
「次は本堂の横に行くわ」
本堂の横に行くと、囲碁盤が割れたまま放置されていた。
放置された囲碁盤の横には紙が落ちていた。
紙には『月は、椅子に座りゼンマイを巻き黄金の狐を目指せば現れる』と書かれている。
何だ、これは。
宗古は頷いて、文書と囲碁盤をスマホのカメラで撮っている。
「例の文書とは筆跡が違うわね」
宗古が本堂の周りを歩くと吉川を呼んだ。
「カラスの死骸よ。カラスも小刀で刺されているわ。
この先には何があるのかな。
月が逃げた林だわ。行ってみましょう」
あたりは薄暗くなってきた。宗古がスマホのライトをつける。
鬱蒼とした林が続く。その先は山になっている。
「月が山を越したら行方はわからないわ。
戻りましょうか。あれっ」
ふと見ると、山のふもとの林の終わり付近に何かが落ちている、いや倒れている。
宗古と吉川が駆け寄ると人がうつ伏せに倒れていて血を流している。
「また死体なの。月にしては大柄な感じね」
宗古は平気そうだが、刑事の俺は身震いがしてきた。
周りを見渡したが他に人影は居ない。
吉川は死体の顔をスマホのライトで照らすとそこには能楽師の来電の顔があった。
「切り殺されているみたいだな。月に逆襲されたのかな」
死体の来電は黒装束の着物を着ている。
「黒の着物がズタズタよ」
宗古はバシャバシャとスマホカメラで写真を撮っている。
浜松城に来て二人目の死体だ。
「そろそろ戻ろう」
あたりはすっかり暗くなっている。
宗古と俺は急いで林の中を走ろうとしたそのとき、唸り声が聞こえた。
野犬だ。それも数十頭いる。
いや、野犬と思ったら大きい。オオカミか?目が燃えるように赤い。
「これは犬やオオカミではないわ。魔犬ヘルハウンドよ!」
何故戦国時代の日本にヨーロッパの魔犬が現れたのか?
宗古を守らないといけない。一応短筒の火縄銃は持っているがこんなに野犬が多いと役に立たない。
吉川は先ほど手に入れた村正の妖刀を構え身構えた。
魔犬は唸り声を立て、今にも跳びかかってきそうだ。
宗古を見るとスマホをいじっている。
「宗古、逃げろ。俺が摩犬は何とかする」
吉川は野犬に村正の妖刀を握りしめた。宗古がスマホのアイコンをクリックする。
村正の妖刀が赤く輝き始めた。
刃先からレーザビームが発射される。
魔犬のうち一匹が吉川の喉元目掛けて襲ってきた。
吉川は次々と摩犬に村正の妖刀の先端を翳した。赤いレーザビームが魔犬の目を貫いた。
吉川を襲ってきたヘルハウンドが爆発して粉々になった。
別の魔犬が跳びかかり宗古を襲おうとしている。
宗古は間一髪で魔犬を避けたが、転んでその場からでスマホが転がった。
吉川が再び村正の妖刀を魔犬に翳したがレーザビームが出ない。
「刀があれば十分だ」
宗古に駆け寄り、宗古を後ろに寄せて、魔犬に対して村正の妖刀を構えた。
魔犬が二匹同時に、二人に跳びかかってきた。
吉川は十分魔犬を惹きつけると、妖刀を水平に走らせて、二匹の魔犬の首を切り捨てた。
残りの魔犬が怯んでいる。
「今だ。後ずさりして逃げよう」
宗古は転がっていたスマホを手にする。
吉川は妖刀を魔犬に向けつつ宗古の手を握り、後ろに向って走り出した。
魔犬は動かない。
二人は林を抜けて本堂が見えてきた。
そのまま遠江分器稲荷神社の入口まで来た。
俺たちの馬が止まっている。
「さあ、浜松城に戻りましょう。嫌な予感がするの」
馬に乗った宗古が俺の背中に柔らかな双丘を密着させて言った。
「村正のレーザ妖刀の破壊力はすごいね。
あれは狙った物体に当たると衝撃波で破壊するのね。
敵は西洋の魔物を召喚できる魔術を使えるとしたら早くレベルアップしないと対抗できないわ。私を早く成長させるためにも努力してね」
背中の感触の気持ちよさに吉川は顔を赤らめた。
浜松城に戻ると、騒がしい声がする。
勝吉が宗古を見つけると。
「大変です。石山安兵衛が暴れて人を刺し殺しました」
浜松城にきて三人目だ。
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