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第十三話

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洲本署に戻った吉川は課長とともに、別荘の鑑識状況を聞いた。
別荘の捜査の結果、鑑識によると死体の胃の内容物からのオレアンドリン分析と血中からのジゴキシン濃度の結果により、二人の死因は夾竹桃の毒による死亡と推定された。
現場の別荘は平屋建てで簡単な調理ができる台所、ベッドルームが2つ、台所の先には暖炉があるリビングがあった。ベッドルームの横にはユニットのバストイレがある。
室内のベッドルームとリビングには窓があるが窓は空かないタイプのガラス窓になっている。

正面玄関のドアも内側から施錠されている。
台所からは勝手口から外へ出入り口がある。

そう言えば病院で聞いたときに、三島美都留を救助した救急車によると、勝手口の出入り口から数歩出た付近で三島美都留が倒れていたらしい。

勝手口の施錠付近のガラスが割れている。
勝手口の上のほうには換気孔がある。
別荘の外を見回すと暖炉があった辺りの屋根の先には煙突が見える。
林田と大内の死体は暖炉の付近に横たわっていた。

暖炉には薪がくべられており、鑑識の結果、暖炉にはナラやクヌギに混じって夾竹桃の枝が見つかった。
外の薪置き場からも夾竹桃が見つかった。
暖炉を使ってバーベキューしていた形跡がある。
リビングのテーブルにはバーベキューの串も見つかった。
鑑識が調べると夾竹桃の枝の串もあった。

遺留品の痕跡も徹底的に調べられた。
リビングには大きなスーツケースが目立って部屋の中におかれていて中には何もはいっていなかった。
スーツケースの近くには林田と思われる女性の衣類と旅行携帯用の化粧道具があった。

遺体のそばには将棋盤があり駒が盤上に駒が散らばっていたが、桂馬だけが大内の右手の中に握られていた。
暖炉があるリビングのテーブルには食べかけの食材やタブレット型のPCが置かれていた。
PCの中身は鑑識が詳細を調査中だが、将棋の棋譜が残されていた。
大内の死体の左腕付近には別荘の鍵が残されていた。

指紋は林田と大内のものしか見つからなかったがスーツ姿の大内のズボンのポケットには史料のコピーらしき紙が入っていた。
またズボンのチャック付近に若干の汚れのあとがあったとの事。
汚れの成分は調査中。
また別荘の外には白のアウトランダーの車が駐車していた。
吉川は、自殺や事故の可能性も否定できないと思ったが遺書が無いことと将棋の駒が気になった。

オーハシポートホテルとの関連で、ホテルの焼死体の横には将棋の駒の桂馬があり、今回別荘の死体でも大内の右手から同じ駒の桂馬が見つかったことから、この二つの死について事件として関連あるのではないかと課長に進言した。
もっと踏み込むと、これは連続殺人事件ではないかとの推論を課長に述べた。
課長は誰も出入りした形跡が今のところ発見できていないので、夾竹桃の中毒死の可能性もあると言い、事件と事故の両面で捜査を続けることとした。

別荘の遺留品や林田と大内以外の痕跡について更に詳しく調べることとした。情報を整理し、明日県警本部で事件、事故の両面で捜査会議が開かれることになった。

課長が笑顔で吉川に言った。
「そうだ。本部長から先ほど電話があった。
『君の許嫁の女流棋士に、今回の別荘の死体で、大内が握っていた桂馬の駒やタブレットPCの棋譜で何かわからないか意見を聞いておいてくれ』
と言っていたよ。
それ以外にオーハシポートホテルの焼死体についても鑑識から最新情報が上がってきたようだ」
課長は吉川に鑑識からの情報を伝えた。

吉川は、課長に断りを入れて、美都留のいる病院に戻ることにした。
またあのツインテールの女流棋士が調子に乗りそうだが、元気な姿を見せてくれた方がいいか。
事件だとしたら、将棋に詳しい人の意見も重要かもしれない。

洲本署の外に出て、吉川はレクサスNXプラグインハイブリッドのEVモードで静かに車を病院まで走らせた。
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