赤龍戦で対局した女流棋士が消失したら連続殺人事件が始まった

lavie800

文字の大きさ
15 / 60

第十五話

しおりを挟む
「資料を渡すことはできないが、口頭で独り言を今から言うよ。独り言」
そういって吉川は体勢を整えて美都留の手を解き、ベッドから少し離れて立った。
顔が赤い気がする。悟られないか。
先ほどの胸元の白く眩しい肌が見えたが、更に胸元の奥にも桃茶色の突起のようなものが一瞬見えたような、見えないような気が。

吉川は深呼吸をしてタブレット端末に視線を集中させた。
美都留とは視線を合わさないように事件の捜査状況について始めた。
「1件目のオーハシポートホテルの件については、浴室の焼死体からDNAが検出できた。
ホテルで失踪した林田初段の自宅から見つかった名刺の川田直久の自宅から採取されたDNAと完全に一致している。
歯形の一致に加えDNA分析から焼死体の身元は七色不動産に勤務していた川田直久で完全に間違いない」
「もし、川田と林田と大内で関係があれば、事件の可能性は高まるわね」
「ホテルの浴室は窓際に大理石の浴槽とシャワーがあって、窓と反対側の浴室入口付近に洗面所がある縦に長いタイプだ。
遺留品は燃えてしまって焼死体以外はほとんど残っていない。
浴室のある洗面所のコンセントには差込プラグと思われる基板やリード線が焼け残っていた。
髭でも剃る準備をしていたかもしれない」
美都留は黙って聞いていた。
吉川は冷静さを戻し、説明を続けた。
「焼死体の死因だが、頭部に打撲のような傷跡はあるものの、窒息死とショックから心臓が停止したことが原因と想定されるとの事」
「肺にススのようなものがあったということなの?」
「そうだ。
後頭部の打撲は致命傷では無さそうらしい」
「浴槽が火の海になっていた時に、川田はまだ息をしていたということ?」
「意識があったかどうかまではわからないが、そういうことになる」
「ホテルの焼死体の死亡推定時刻は午後4時~5時の間よね。
女流将棋のタイトル戦である赤龍戦の対局が午後4時10分頃に終わり、イベント表彰式が終わり焼死体を見つけたのは午後4時50分だったわ。
だから死亡推定時刻は午後4時から4時50分の間になる」
「そうだ」
「疑問を整理するわ。
ホテルで焼死体として見つかった川田直久は誰かに殺されたのか。
七色不動産に勤務していた川田が殺されたなら誰が何故殺したのか。
部屋にあった将棋の駒の桂馬と将棋の棋譜の意味は。
ホテルで対局後火災があったときに赤龍戦の優勝者の林田は何故失踪したのか。
林田の出入りがホテルの監視カメラやスタッフの記憶にないが、どうやってホテルから失踪したのか。
淡路島の別荘で死体として見つかった林田と大内と関係があるのか。
これくらいかな。
まあ、5番目は前から仮説を考えていたけれどね」
「前に君が言っていたオーハシポートホテルの駐車場から大きなスーツケースを車に積んでホテルから出て行った人物の画像記録はホテルの監視カメラに残っていたよ」
「淡路島の別荘に林田と大内の死体が有ったということは、大内が林田をホテルでスーツケースに詰め込んでホテルから脱出したのよ」
「大内は火災後駆け付けた捜査員に、自宅の連絡先を聞かれて簡単な事情聴取を受けているから火災後しばらくはホテルに居たことになる。
その後駐車場に戻りホテルから堂々と出て行って淡路島に行ったのか。
まだ焼死体が事件か事故かもわからないから、当日参考人としていた人たちは連絡先がわかり、翌日県警に事情聴取に来ると言われたらそれ以上拘束することはできなかった」
「大内は翌日の事情聴取には来なかったのよね」
「そうだ」
美都留はベッドで考え込んでいた。
「2件目の淡路島津名の別荘の事件でわかったことを先に聞くわ」
美都留はベッドの上で両手を上げて胸を張り、思いっきり伸びをすると、吉川のほうに顔を向けた。
「ほら、結構大きいでしょう。
さっきこの大きな胸の中を覗き込んでいたでしょう」
ツインテールの髪が靡かせて笑顔で吉川を上目遣いに見ている。

図星だったので吉川は顔が赤くなるのを自覚した。
「疲れないか。少し休もう。外でコーヒーを飲んでくるよ」
「減るものじゃないし、見てもいいよ。ほら」
美都留は上げた両手をパジャマのウエスト側の左右を持って、聴診器を当てられる時のように下胸近くまでたくし上げた。
慌てて、吉川は外にコーヒーを買いに走った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...