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第三十二話 高嶺城殺人事件
しおりを挟む高嶺城で塚本桂子の死体を発見した後、本部長と鈴木刑事に断り、美都留をレクサスNXで、リゾートホテルに送ることにした。
鈴木刑事からは身元がはっきりしているので問題ないとの見解だった。
吉川は不満げな美都留をリゾートホテルの部屋に送りつけたあと
駐車場に向うロビー前で、南場社長によく似た人物がリゾートホテルのロビーの入口から入ってきてエレベータで上がるところが見えた。
零時も回って日付が変わったこんな夜遅くに南場社長はどこに行っていたのだろう。
吉川はレクサスNXで、山口県警に戻り朝まで鈴木刑事ら捜査員と意見を交わした。
結局19歳の女性とホテルで同衾することはなかった。
良かったような、残念な気持ちも少しある。
吉川は早朝、山口県警からリゾートホテルに戻った。
丁度一階のロビーで美都留が朝早い朝食を取っているところだった。
いっしょに吉川も朝食を取ろうとして、美都留に近づいた。
美都留は少し怒ったような顔をして吉川に言った。
「五つ星乗りオートホテルのダブルスイートのベッドに戻ってくると思って楽しみに待っていたのよ。
勝負服と赤い勝負下着のままベッドで待っていたのに」
吉川は仕事だったからと美都留に言い訳をして昨日の状況を話し始めた。
美都留は、美味しそうに右手でトースト、左手でコーヒーカップを持って額に汗を浮かべて食べている。
「話が分かる兵庫県警本部長が登場でよかったわね」
「赤龍戦のホテルから始まった一連の事件は連続殺人事件で、その動機や犯人は被害者の過去に関係しており、赤龍戦の関係者がその過去と何らかの接点を持ったことが今回の事件の発端だということになったよ」
「桂馬と被害者の過去が解決の糸口よね。
昨日の夜、帰ってこないから、勝負服に勝負下着のまま一人でするしかなかったわ」
一人でする!?
顔を赤くして吉川は美都留の顔を凝視した。
「何か顔についている?
二人で犯行の方法を推理しようと思ったのに、帰ってこないから一人で推理をしていたの」
そういうことか。
この子を前にすると余計なことを考えてしまうな。
「そちらの捜査は?」
「兵庫県警と山口県警でそれぞれ分担して被害者の過去を洗うとともに、赤龍戦の関係者と被害者の過去に接点はないかも洗うことになった。
私は山口での被害者の過去と接点を更に洗う予定だ」
「被害者だけではなく関係者のプロファイルも知りたいわ」
「わかった。できる限り集めてみる」
「塚本社長の死因は何だったの」
「後頭部に石のような物が当たった打撲痕がある。
高嶺城の山頂の崖を覗いていたところ、頭に石があたり、崖底に転落して、結果全身打撲のショック死と見られている。
ただ崖底でしばらくは生きていたらしい。
山頂の転落する前のフェンスは崖下にあった。
山頂の崖の上、塚本社長が落ちる前のフェンスがあった付近に血がついた石が見つかり、塚本社長の後頭部の打撲痕や塚本社長の血液と一致した」
「塚本社長は殺された。殺人事件で決まりね。
何か塚本社長の近くに残されていなかった?
桂馬のダイイングメッセージとか」
「今回、将棋の駒は無かった。代わりに淡路島の別荘で大内のズボンから見つかった古文書のコピーが塚本社長の着衣に付いていたポシェットにあったよ」
「山頂から下の斜面にあった白い物はただの紙切れだった。何も書かれていない」
「ただの紙切れを餌に、欲にまみれていた塚本さんに埋蔵品かと思わせて危ない姿勢で身を乗り出させたのね」
「山頂の端のフェンスは下の土台の一部切られていた。体重を乗せたらひとたまりも無い。ただそこはフェンスの一番端の曲がった所で羨望が真正面に見えない所なので観光客は来なかったかもしれない。
それとポシェットにはスマホと塚本社長の日記のような手帳があった」
「手帳の中身が見たいわ。
また塚本社長はどうやって真夜中に高嶺城山頂まで来たのかしら?」
「塚本社長の手帳は鑑識が調査中だ。
塚本社長を山頂まで送ったタクシーはあの後で見つかった。
一人で山水園亭近くの道路からタクシーに乗ってきたそうだ。
それで山頂付近に着いたら、2時間後に降ろした辺りに迎えに来てほしいと言われたらしい。
二時間後に高嶺城の塚本社長を下ろした所に迎えに行ったら警察に事情聴取をされたので、塚本社長の乗せたタクシーが判明した」
「私たち以外に目撃者は居たの?」
「今のところ発見できていない」
「犯人は私たちと入れ違いで山頂から去ったのかもしれない」
山頂に至る道路の監視カメラを今解析しているところだ」
「死亡推定時刻は?」
「午後11時から午前零時の間くらいだそうだ」
「丁度私たちが山頂に行った時間と被っているわ」
「山頂に私たち以外の目撃情報がないとヤバいわね。疑われるかしら」
「付近の目撃情報も聞き込みをしているし、道路に設置した監視カメラも解析しているからもうすぐ見つかるよ」
ふと吉川は南場社長が夜の11時に高嶺城山頂に来て、犯行に及んだあとホテルに戻れば丁度あのロビーで見かけた時間に会うという考えが浮かんで美都留に話をした。
「私、そろそろ日本女流名人戦のお手伝いに行かないといけないわ。
今は、朝7時。
対局は10時から始まる。関係者は8時集合なの。
日本女流名人戦は今日と明日の二日制よ」
ツインテールの女流棋士は朝食も終わり立ち上がった。
「こっちは山口県警に戻って、捜査に戻るよ。関係者の過去の接点を洗う。
また夜に、山水園亭に行くよ。そこで落ち合おう」
「山口に今回の事件の過去が埋もれているはずよ。
それと今から行く山水園亭には、川田、大内、林田、塚本と赤龍戦の関係者4人を連続で殺した犯人が潜んでいるかもしれないわ」
「わかった。将棋連盟に要請して捜査員を張りこませる」
「それだけじゃないでしょう。レクサスNXで私を山水園亭まで送って頂戴」
朝食を食べ終わっていない吉川の背中のワイシャツを美都留は掴んだ。
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