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第六十話 最終回 プロローグ
しおりを挟む吉川はもともと決まっていた異動で警察庁に出向になり、1年間タイ国バンコクに海外赴任することになった。
「空港まで見送りに来てくれてありがとう。
1年たったら必ず」
「事件は終わったけれど」
恥ずかしそうに三島美都留は俯いた。
ツインテールの美少女として出会ってから、今の美都留は淑やかな美人になっている。
「私はきっと成長する。新しいスマホを購入したけれど緊急連絡先に名前を書いてラベルにはっていい?」
「いいよ。女流棋士として益々の成長を祈っているよ」
「赤龍戦で優勝したら」
「事件は解決したので優勝してもしなくても、1年後何でもほしいものプレゼントするよ」
「本当に」
「うん。本当だ」
「言いそびれたことがあるのだけれど」
「何だ」
吉川も美都留に言いそびれていることがある。
「例の大内の古文書よ。
『天正12年12月1日
市川経好の妻 鶴、
ここに大内義長が残した埋蔵品の場所を記す。
高嶺城天守から見渡す2九桂へ』
と書いてあったものよ」
「そうだな」
「あれから一人で山口の高嶺城に行ったのよ」
「危ないぞ。もう一人で突っ走るのは止めてくれ」
「タクシーを借りきって高嶺城跡の付近をドローンで写真を撮ったの。
今回の事件でドローンは勉強になったわ。
ある林の一角にクスノキいわゆるニクケイが狭く密集していたわ。
多分あそこにお宝があると思うの。
2九桂って明晰夢で見たのよ。2九桂ってニクケイよ。
だから古文書のお宝はその辺りなんじゃないかなあ。
落ち着いたら探しにいくかも。
本当に金銀ザクザクだったら多分城主の市川家で使っているはず。埋めたということはお金ではない宝だと思う。
ここからは直観よ。
宝は、大内家が日本で最初にフランシスザビエルからもらったという時計なんじゃないかなと想像しているわ。
金銀ザクザクなら市川家が掘り起こしているはずだから。
ドローンは8万円したから請求書を兵庫県警吉川様宛に送ったのでよろしくお願いします」
吉川は苦笑した。また自腹か。美都留は続けた。
「ところで、いつから金海五段が犯人だと思ったのか」
「淡路島の別荘で、タブレットにある棋譜を見たときよ。
かまいたち戦法を指す人は珍しいわ。十九手定跡は特徴的なのよ。
今の女流プロだと金海さんくらいよ。あれを指すのは。
金海さんは大内との対局を早く終わらせたかったのでしょうね」
バンコク行きのファイナルコールのアナウンスが聞こえる。
「行かなくちゃ」
「バイバイ。1年後必ず戻ってきて。
私の欲しいものは、プロポーズ」
大きく手を振って、大きな瞳を更に大きく開いて声をふり絞って美都留は目に涙をためて叫んでいた。
確かに聞こえた。
地上係員にせかされて吉川はゲートをくぐった。
11か月後、バンコクスワンナプーム空港近くの喫茶店で朝食を食べながらタブレット端末を立ち上げて吉川は日本のネットニュース記事を読んだ。
「二十歳の三島美都留女流棋士が赤龍戦準決勝を勝ち抜いて決勝へ。決勝の相手は北山四段」
今度こそ日本に帰ったら必ず美都留に伝えたい。結婚してくれと。
完
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