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第二話
しおりを挟む鎧をまとった武装兵が重い金属音を響かせながら駆け寄り、ローレンツ王の前で膝を折った。
その眼差しは焦りに満ちており、息を切らしながら報告を始める。
「陛下、大変でございます!ベクターの船団がアーカート城の砂浜を越えた先の海から迫り来ております!」
老齢で体力の衰えたローレンツ王は、眉間に深い皺を寄せ、険しい表情を浮かべた。
背中の丸みを無理に正しながら、しゃがれた声を武装兵に向けた。
「アーム。すぐさま我が軍も応戦の準備に取り掛かれ!」
「承知いたしました。城内の兵を召集し、全力で備えを整えます」
王は立ち上がり、窓の外に目をやりながら問いかけた。
「今日は天候が悪いのか?」
武装兵は真剣な表情で答える。
「はい、陛下。雨と霧で視界が悪く、砂浜に設置された砲台の大砲の精度が著しく低下しております」
「アーム、我が軍の兵力は如何か?」
アームと呼ばれた屈強な体つきの男は、困惑の色を浮かべつつ、王の眼差しに答える。
「ベクター船団に乗船している敵兵の数から判断するに、我が軍は兵力で劣勢にございます。
敵が海上にいる間にいかに大砲で彼らを撃退できるかが勝敗を左右する鍵でございます」
ローレンツ王は鋭い目をリチャードに向けると、低く重みのある声で命令を下した。
「邪悪なる侵略者の脅威を断ち切るべく、まずベクターの軍勢を叩き潰せ。リチャード、お前が指揮を執るのだ。この従卒長アームを伴い、城内の兵を率いて砂浜に向かえ!」
突然の命令に、私は顔から血の気が失せていくのを感じた。緊張のあまり足が震え、身動きが取れない。
(戦など一度も経験したことがない。どうすればよいのか…)
ルシアが素早く動き、侍従を呼び寄せる。
「侍従トマス、リチャード様をお守りしなさい。私も同行いたします」
現れた男は童顔ながら鋭い目つきで、機敏な動きを見せていた。ルシアは彼の耳元に口を寄せ、何かささやいている。
その後、ルシアは私のすぐ前に進み出て、静かに囁いた。
「リチャード様、このトマスは私の従弟でございます。顔立ちは私とよく似ております。リチャード様は少し記憶を失われているご様子ですので、何かわからないことがあれば、このトマスにお尋ねくださいませ」
トマスは朗らかな笑みを浮かべながら私に挨拶をした。
「戦のことでも、それ以外のことでも、お気軽にお聞きくださいませ。侍従ではございますが、陛下のご指示により従騎士としての修行も重ねております」
ローレンツ王の指示に従い、城の外に出ることとなった。
(まずはトマスに何をすべきか聞いてみるしかなさそうだ)
私は鎧を身につけさせられ、馬に乗せられた。トマスに付き従卒や兵を率いて砂浜へ向かう。
「トマス。私は少し記憶が曖昧なのだが、ベクターとは一体何者だ?」
「リチャード様、ベクター様はこの海の向こう側にある広大な島を領土とする貴族でございます。その領土をさらに拡張しようと、度々このアーカート城の領土を狙い侵攻して来るのでございます。島には豊かな金鉱があり、それにより大量の船団を建造する資金を持っていると聞きます。
これまでは、陛下のご子息であるメイ・ローレンツ王子様が卓越した才能を活かし、飛距離に優れた大砲を開発しておりました。その長距離大砲の威力で、ベクターの船団を退けてきたのです」
「兄はそんなに優れた知恵を持っているのか?」
「はい。メイ王子様はこの地には見られないような革新的な発明や、お考えをお持ちでございます。また、この地にないような東方の島の知識も豊富でございます。まるで時空を自在に行き来するような才覚を持たれているのです」
「私は、何の取柄もない上に知識も乏しい愚か者だ…」
「いえ、リチャード様は類稀な剣術士でいらっしゃいます。この城内の騎士たちの中でも、リチャード様に匹敵する者はおりません」
(そうか、私は生まれ変わって剣術の腕を得たのだな)
砂浜の砲台には、海に向けて大砲の準備が着々と進められていた。
砂浜の奥にある高台から海を見渡すが、雨と霧がかかり、遠くの様子をはっきりと視認することができない。トマスが差し出したオペラグラスに似た道具を使い、水平線を凝視すると、ぼんやりとだが船団の影が見えてくる。それは相当数の帆船である。 (これらすべてが砂浜に押し寄せてきたら、私の率いる兵力で食い止めることは困難だろう)
(これは絶体絶命の危機ではないか)
(マリナがここにいたら、この窮地にどう立ち向かうのだろうか)
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