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来季に備えて

幻惑投球

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酒井は唐澤にソロホームランを打たれたが、後続を打ち取り一回の表は1点に抑えた。


一回の裏レボリューションズの攻撃は1番の結城。

スカイウォーカーズの真咲は3年振りの先発だ。


結城が右打席に入る。


真咲はどんなピッチングを披露するのか。


テイクバックを小さめにボールの握りを見えなくするフォームから第一球を投げた。


アウトコース真ん中へストレート。


「ストライク!」

スピードガンは121kmを計測。


(あれで120kmそこそこなのか?)

結城には速く感じた。


ストレートのキレが良い証拠だ。


続いて二球目を投げた。


今度は緩い球をド真ん中に放る。


「ストライクツー!」


打ち気が無いのを読んだのか、ド真ん中にスローボールを投げるとは随分大胆な投球だ。




「アイツ、中々やるな」

ベンチで榊は真咲の投球を食い入るように見ていた。


三球目はスローカーブをインコースに外す。


「ボール!」


カウントはワンボール、ツーストライク。


結城はまだ一度もバットを振っていない。

四球目、またもスローカーブ。


タイミングを外された結城は辛うじてバットに当てた。

打球はファール。


(次はストレートだろう)

結城は狙い球をしぼった。


五球目、またもスローカーブ。


「あっ…しまった…」

ストレートを待っていた結城は、フワッとしたカーブに当てる事が出来ずに空振りの三振。



「ストライクアウト!」


先頭の結城を三振に抑え、幸先良いスタートだ。


「あんな球で抑えるんだから、アイツはスゲーよな」


榊は感心している。



続くは2番の高橋。

ここ最近は打率5割と絶好調だ。


真咲が第一球を投げた。


またもスローカーブ。


高橋は辛うじてバットを止めた。


「ストライク!」


ストレートが来ると思ったのだろうか、タイミングを外された。


二球目、今度はストレートしかもインコース高目。


「ボール!」


ワンボール、ワンストライク。

三球目、これもストレート。


「ストライク!」

アウトコースギリギリに入りツーストライク。


三球目は低めに外れるストレート。


ツーナッシングからの四球目、またもストレート。


「ヤバっ…」

 
先程より速めの球がド真ん中に。


「ストライクアウト!」

高橋は見送りの三振。


ストレートの緩急で翻弄した。



遅いストレートからの速いストレートに高橋は戸惑った。


しかもド真ん中という、一歩間違えれば長打になるようなコースを投げるとは大胆不敵。


これでツーアウト、打席には3番の三浦。


すると、真咲はキャッチャーの毒島に立つようジェスチャーした。


戸惑いながらも立ち上がる毒島。


「何だぁ、敬遠か?」

首を傾げる榊。

すると真咲はストレートをまたもド真ん中に。


「あぁっ」

毒島が立ったままド真ん中の球をキャッチ。


「ストライク!」


「タイム!」

毒島がタイムを要求した。


慌ててマウンドに向かった。


「真咲さん!何ですか今の球は!」

毒島には理解出来ない。

立てと指示され、立ったらド真ん中に放る。


敬遠かと思った毒島は咄嗟にキャッチしたが、真咲のピッチングは理解不能だ。


「心配すんな、お前は立ったままオレの球を受けろ」


「えっ…じゃあ敬遠ですか?」


「いや、勝負だ。あんなバッターを敬遠するなんて勿体無い」


「はぁ…」


毒島にはワケが解らない。


守備位置に戻り、立ち上がったままミットを構える。


毒島は真咲が投げる時はサインを出さない。


ノーサインで投げてるので、ストレートなのかカーブなのかも解らない。


毒島のキャッチングが良いせいもあるが、他のキャッチャーなら後逸してるだろう。


二球目は大きく外してボール。


(敬遠しないって言ったけど、どうやって打ち取るんだろ?)


毒島には理解できない。


三球目も大きく外した。

ツーボール、ワンストライク。


四球目、スローカーブが真ん中低めギリギリに。

毒島は素早くしゃがみ、ボールをキャッチ。


「ストライク!」


カウントはツーナッシング。


再び立ち上がるようにジェスチャーする。


(何なんだ、一体?)


毒島は立ち上がった。


「おい!何がしたいんだ、アイツは」


三浦は打席で戸惑うばかりだ。


「知らないっすよ!こっちだって言われた通りにしてるから…」


キャッチャーの毒島でさえも、この意図が読めない。



五球目、今度は回転の効いたノビのあるストレートを高目ギリギリに投げた。


「しまった…」


三浦はバットが出ず、見逃しの三振。



「はぁ~…こりゃまた、面白いピッチングだなぁ」


榊は驚くばかりだ。


一回の裏が終了、スコアは1-0と変わらず。



二回の表、スカイウォーカーズの打順は5番の吉岡からだ。
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