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交流戦

一触即発

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「おい、唐澤!畑中がホームラン打ったんだ。お前も出迎えろ!」


「…」


コーチに促され、憮然とした表情で出迎えた。

端正な顔立ちの眉間にはシワが。



(冗談じゃない!練習もしないで、毎晩飲み歩いて才能だけで野球をやってるような人なんかと同じチームだなんて!)


唐澤は人一倍、野球には真摯に取り組んでる。


   練習しない者は野球選手にあらず


これが唐澤の身上だ。


同じ天才でも、畑中とはタイプが違う。


畑中が練習をしている姿を見たことが無い。


いつも酒場に繰り出し、朝方まで酒を呑み二日酔いでプレイする。


唐澤は才能だけではなく、練習も真面目にこなし試合に挑む。


畑中のように、練習もしないで才能だけで野球をやるような選手を嫌う。



才能に溺れること無く、練習をすれば誰も追い付けない程の成績を上げられるのに…と。



これが原因でチームがガタガタにならなければいいんだが。





試合は畑中の一発でスカイウォーカーズに流れが傾き、真喜志は下位打線に連打を食らい更に3点を献上。


真喜志はここでマウンドを降りる。


変わった二番手の照屋がその流れを断ち切ろうとするが、スカイウォーカーズのペースに飲まれ滅多打ちに。


結局、試合は8-0でスカイウォーカーズの快勝。


先発の北乃は4安打無失点、11奪三振で完封勝利を上げた。



試合後、記者団が榊監督に

「マシンガンズの土方コーチは来年スカイウォーカーズに入るという事で、忖度をしてるんじゃないか?」

という質問を受け



「何だと?忖度だろうが何だろうが、勝ちは勝ちだ!
文句あるヤツは、オレがパワーボム食らわしてやる!

そんな事より、財布忘れて何も買えないんだが、誰か金貸してくれないかな?」

と、記者から3万円を借りて球場近くのパチンコ屋で沖スロを打ったが、またも全額突っ込んでゼロになった。




翌日試合前に突如降ってきた雨により、球場の屋根が作動しドームとなって試合はスタート。


スカイウォーカーズの先発は真咲。

マシンガンズは若手の島袋。


榊監督の意向で真咲は先発に転向した。


「この前はノックアウトされたけど、コイツのピッチングは中継ぎなんかじゃ勿体無い」


榊監督が絶賛するピッチングで、今日も勝利となるか。



その試合は、初回にスカイウォーカーズが1番梁屋がセーフティバントで出塁。

2番唐澤の打席で三球目に、二塁へ盗塁成功。


立ち上がりの悪い島袋は続く四球目、アウトローのツーシームを左中間スタンドに運ばれ、スカイウォーカーズが2点を先制。


打った唐澤はいつもの様に無表情でホームイン。



ベンチに戻ると腰を下ろし、腕組みをして険しい顔をしている。


すると

「おいおい、天才クン。いつもブスーっとしてるけど、ホームラン打った時ぐらいはニコっとしろよ」

畑中が隣に座った。


唐澤は深い溜め息をついた。


「…相変わらず、酒臭いですね。飲みに行くヒマがあるなら、その時間を練習に費やしたらどうなんですか?」


まるで汚い物を見るかのような顔で吐き捨てた。



「ハッハッハッハ~っ!」


大きな笑い声がベンチに響いた。


「何がそんなにおかしいんですか?」


その目は明らかに敵意剥き出しだ。


「練習練習って、お前練習で金貰ってるのかよ?」


「何っ!」


険悪なムードが漂う。



「練習ってな、人前でやるもんじゃないんだよ。オレはお前みたいに、練習してますってアピールするタイプじゃないからな」


いつもニヤけて、忌々しい顔だ!


唐澤の顔が一層険しくなる。


「アナタみたいに自分の才能を過信して、練習を疎かにするような人間と一緒にして欲しくないんですよ!」


「おい、唐澤!もう止めろって!」


中山が2人の間に割って入った。


「若いなぁ。孤高の天才を気取るのはいいが、野球ってのは一人じゃ出来ないんだぜ」


その言葉で、唐澤が畑中の胸ぐらを掴んだ。


「おい、止めろって!ケンカしてる場合かっ!」


「お前ら、何やってんだ!」


コーチ達も仲裁に入った。



「おい、天才クン。一つだけ言っておくが、ケンカしたけりゃいつでもかかって来い。ただし、やるからには野球出来ない身体にしてやるから、覚悟しろよ」


そう言うと、畑中は笑って席を移動した。



榊はそのやり取りを気の抜けた顔で眺めていた。

何を思っているのか。


多分、昨日のスロットで惨敗した事を思い出しているのだろう。



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