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スカイウォーカーズの逆襲

リリーフなんていらない

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かくして結城はスカイウォーカーズに入団する事となった。

背番号はドジャース時代の23。


スカイウォーカーズの打線は1番梁屋 2番唐澤 3番結城 4番鬼束 5番毒島 6番中山という、気がつけばリーグトップの破壊力を誇る布陣で更なる進化を遂げる。


エース降谷とリーグトップの本塁打を放つ吉岡を放出したが、それでもお釣りがくる程のバランスの取れた攻撃陣は他の球団には脅威だ。


ただ野手の補強はカンペキだが、投手陣はいまだ先発の駒不足に悩む。

現段階でエース的な存在は左の片山だが、エースと呼ぶにはやや物足りない。


片山をエースに真咲、山本、北乃と先日一軍登録した昨年のドラフト1位加勢がローテーションの一角に入れば少しは良くなるのだが、加勢はまだ一軍に上がったばかりで未知数な部分が多い。



「なぁ、高梨。もう野手はいいとして、問題は投手だよな」


「そうですね。軸となるピッチャーがいればいいのですが、今の先発陣じゃちょっと頼りない感じが否めないですし…」


「いっそ、外人でも獲るか?」


「いやぁ~、外国人は投げてみないと分からないしいくら現役バリバリの選手でも必ず活躍するとは限らないですからね」


「そういや、メジャーのストッパーを獲るとか言ってなかったか?」


「あぁ、ジェイク・キムラですか?彼は日本に来たがってるし、あのピッチングは日本向きですから来年はウチのクローザーになってくれればいいんですけどね…」


クローザーか…ウチには中邑という抑えがいるのに、何でもう一人獲る必要があるのか…榊は中継ぎや抑えの重要性を今一つ理解していない。

投手は先発完投こそが正義という、昔ながらの考え方だ。


「抑えねぇ。じゃ、もしソイツがウチに来たら中邑はどうするんだ?」


「それは、キムラが一応抑えの候補ですけど、キャンプの状態を見て決めようかと思うんですが」


「アレだろ。メジャーのヤツってのは、契約を盾になんやかんやイチャモンつけてこれじゃなきゃやらないっ、て言ってくるんじゃないのか?」

どういう契約を結ぶのかは不明だが、メジャーの選手は契約時にそのポジション以外の事を拒否出来る権利があるという。


あくまでも獲得した場合なのだが、今は水面下でも交渉を行ってない状態だ。


「それだと、中邑が可哀想じゃないか?せっかく抑えとして定着したのに、ソイツが来たら投げる場面なんて無いだろ」


「もし、キムラが来て抑えに定着すれば中継ぎに回ってもらうつもりですけど」


「アイツ、球速いんだよな。おまけにまだ若いだろ。」

「まだ二年目ですからね。この前も158km出したから、下半身をもっと強化すれば160kmは出せるでしょうね」


「アイツの持ち球はストレート、ツーシーム、フォークと、たまにスライダーを投げるぐらいか…」


「スライダーというか、カットボールみたいに小さく変化しますけど、ほとんど投げませんよね」


「まだコントロールが不安なんで、ああいう場面ではなかなか投げられないとか言ってたな」


「精度を上げれば投球の幅が広がりますね」


以前、二人は中邑の球質が軽い事を難点として挙げた。

本人もその事は分かっているのだが、球質を重くすればストレートの速さが落ちてしまう可能性がある。


「アイツ先発に転向させようぜ」


「えっ、じゃあ抑えは誰がやるんですか?」


「抑えなんて、誰がやっても一緒だろ!」


「そうはいきませんよ!この前は中継ぎの真咲を先発にして今度は中邑だと、後ろが誰もいなくて大変な事になりますよ!」


「いいんだよ、先発が完投すりゃいいだけの事だろ。リリーフなんて、敗戦処理のヤツらだけ集めときゃいいんだって!」


「だから、今は投手分業制の時代ですよ!中継ぎや抑えがいないと勝てません!」


「誰が極めたんだよ、そんな事?ウチは抑え無しでやりゃいいだろ!」


「榊さん投手出身なのに、そんな事も理解出来ないんですか?」


「投手出身だからこそ、先発完投にこだわるんだよ」


「それじゃ、ウチは終盤で点を取られて敗けますよ」


何で抑えの必要性を理解出来ないのか、高梨は首を傾げる。


「だったら、下から球の速いヤツ上げればいいだろ。誰かしらいるだろ、そういうのに向いてるヤツが」


「そんな簡単に抑えなんて務まらないですよ…」


「じゃあ、オレが今度二軍の試合観に行ってめぼしいヤツいないか探してくるよ」


「…まぁ、二軍にそんな選手がいればいいんですが」


そんなワケで榊は二軍の試合を観戦する事になった。
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