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スカイウォーカーズの逆襲

クロスファイアボール

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ロドリゲスが右打席で威圧感溢れる巨体を揺すりながらバットを構える。

翔田の影に隠れがちだが、来日してから3割30本を常にマークしている。

浅野監督曰く「キングダム史上最高の助っ人」と賞賛する。

助っ人外国人選手にありがちな引っ張り一辺倒のタイプとは違い、右方向の打球も多く追い込まれるとバットを短く持ちノーステップでミートを心がけるバッティングをするので厄介だ。

また選球眼も良く、出塁率はかなり高い。


片山が初球を投げた。

インサイドにくい込むスライダーが決まりワンストライク。

ロドリゲスは初球は必ず見送る。

余程の絶好球ではない限りボールをよく見てピッチャーに球数を投げさせ、四球を選ぶスタイルは評価が高い。


ネクストバッターズサークルでは翔田が素振りをしている。


「ホントに打たせていいんだろうか?」


片山はチラッと翔田を見た。


スカイウォーカーズのベンチでは榊が相変わらずスマホゲームに没頭している。


「それよりもこのバッターを打ち取らなきゃな」


毒島のサインに頷き二球目を投げた。

今度はストレートをインハイへ。


「ボール!」


ロドリゲスは動かない。


三球目、今度はツーシームを外角へ。

ロドリゲスがバットを合わせるが、打球はバックネットに。

これでワンボールツーストライク。

ロドリゲスがバットのグリップを余すように持ち替えた。

このスタイルでファールを打ち続け、ピッチャーが根負けして歩かす事も多々ある。


次の四球目はインコースからボール球になるカーブを投げた。

しかし、ロドリゲスはその誘いには乗らずバットを止めた。

これでツーナッシング。


五球目を投げた。

インコース膝元のストレート、ロドリゲスはバットを出すが球のノビが良く空を切った。


「ストライクアウト!」


片山のクロスファイアボールがズバっと決まった。

片山が勝ち星を多く挙げるようになった要因は、右打者のインコースに決まるクロスファイアボールの精度が上がった事だ。

現役時代この球で数々の強打者を打ち取った榊のウイニングショットでもあり、片山にアドバイスしたお陰で投球の幅が広がった。


140そこそこの速さだが、コントロールに磨きをかけ、球のキレで三振を奪えるようになった事が大きい。



これでツーアウト、しかし次のバッターは神の子翔田だ。



【4番 センター翔田 背番号1】


「キッドーっ!」


「ツバサーっ!」


大歓声の中、翔田が左打席に入る。


左対左とは言え、相手はパーフェクトプレイヤーと呼ばれる選手だ。


今シーズンも打率364、ホームランは早くも24本で目下二冠王。


将来の永久欠番と言われる1を背負い、王者キングダムを牽引する。


片山がベンチに目をやると、まだスマホゲームに夢中になってる。


試合そっちのけでそこまでのめり込むとは、開いた口が塞がらない…


マウンド上には毒島が駆け寄る。


「ホントに打たせていいのか?」


「さぁ…でも監督がああ言ってるんだし、打たせるしかないんじゃないすか?」


毒島も戸惑う。


「肝心の監督はずっとゲームやってるけど…」


「とにかく打たせろって言うんだから、甘い球投げて下さい」


「う、うん…それじゃ、打たれるんだしノーサインで投げるぞ」


「了解」


毒島が守備に戻り、セットポジションの体勢から一度牽制を入れる。


「打たれていいなら、気楽に投げよう」

半ばやけくそ気味に初球を投げた。

打ち頃の棒球をド真ん中へ。


しかし、裏をかかれた翔田は思わず見送る。


「ストライク!」


翔田は呆気に取られている。


すかさず二球目を投げた。

ノーサインなのでテンポが早い。


これもド真ん中の緩い球。


しかし、翔田はバットを振らない。


「ストライクツー!」


おかしいと首を傾げる。

何故二球続けてこんな絶好球を投げるのか?

これは何かあるのではないかと勘繰る。


気を取り直しバットを構える。


続いて三球目を投げた。

これもド真ん中ハーフスピードの直球。


ギリギリまで引き付け、最短距離でバットを振り抜いた。


ガゴン!という打球音を残し、ライトの唐澤は一歩も動かず。

アッパーデッキに飛び込む今シーズン第25号ツーランで一点差に迫った。


大歓声に包まれ、ベースをゆっくり回る。

しかし、翔田は少し浮かない表情だ。

それもそのはず、三球続けてド真ん中の緩い球を投げるのだから何か企んでいるのでは、と勘繰ってしまうだろう。


ベンチでは榊監督が手を叩いている。


「何だぁ?打たれたのに拍手してるのかよ…アイツのやる事はサッパリ分からん」

浅野監督まで首を傾げる。


初回から点の取り合いとなったこの試合、一体どうなる事やら…
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