The Baseball 主砲の一振り 続編3

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オープン戦

アクシデントは付き物

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試合は2対1と1点リードされた5回の裏、庵野の第2打席はボールをよく見てフォアボールで塁に出た。


守備では多少のもたつき感はあるものの、サードを無事にこなす。


そして7回の裏、庵野の第3打席。


初球、2球目と変化球を見送りワンボール、ワンストライク。

3球目のチェンジアップを上手く捕え、レフトフェンス直撃のツーベースヒットを放つ。


「これで3打数2安打…打率0.750だ」


小さくガッツポーズをする。



「打球が速いな…それだけスイングが速い証拠なんだろうな」


「当てるだけじゃなく、しっかり振り抜くから打球が速いんでしょうね」


調子は上向き、このままいけば一軍も夢じゃない。


しかし、事態は急変する。


8回の裏、バッター筧の打席で事件は起こる。


筧は4番手ピッチャー田所のカーブを上手くライト前に運ぶと、二塁ランナーの毒島が三塁を蹴ってホームへ。


ウォーリアーズは中継プレーでキャッチャー山下に返球。


毒島がホームへ突入するがクロスプレーとなり、山下と激突。


「アウト!」


僅かに山下のタッチが早く、スカイウォーカーズは無得点に終わる。


「ウグッ…」


今のクロスプレーで毒島が右足を押さえて悶絶する。


「おい、大丈夫!」


「サトシ、立てそうか?」


ホームベース上で選手やコーチが駆け寄る。


毒島は足をおさえたまま動くことが出来ない。


「おい、大丈夫か!」


「うゎ…」


コーチやトレーナーも駆け寄り、足の具合をチェックする。


「ここはどう、痛む?」


「うがぁっ…」


トレーナーのマーク安藤が押したのは古傷の箇所だった。


毒島は5年前、アキレス腱断裂という大怪我を負った。


「こりゃ、アキレス腱やっちまったかもなぁ…」


安藤はそう告げる。


「エッ、アキレス腱断裂ですか?」


結城の顔が曇る。


「多分な…とにかく、早く病院に連れていかないと」


しばらくして救急隊員が担架を持って現れた。


「毒島くん、大丈夫かっ!」


「…グッ…」


この様子じゃ、開幕どころかシーズン絶望の可能性が高い。


毒島は担架に運ばれ退場した。


「ヤベーな、こりゃ…毒島は右の大砲としてチームに欠かせない存在だというのに」


「…彼に代わる選手か…」


櫻井はベンチで大声を出してる庵野を見た。


「中田さん、毒島くんの代わりに庵野くんを使ってみようかと思うんですが」


「庵野?それなら、筧の方がいいんじゃないのか?」


守備力ならば筧、打撃力ならば庵野だが、櫻井は攻撃型の打線を選んだ。


「サードの守備はまだまだですが、ボクは庵野くんのバッティングに期待します」


「だったら、鬼束をサードに回して、庵野をレフトにすればいいんじゃないか?」


中田はサードに鬼束が適任だと進言する。


「鬼束くんか…でも、庵野くんがレフトというのは」


「問題無い、アイツは内野よりも外野の方がいいし、その方がバッティングに専念出来るだろ」


櫻井は考えた。


庵野と鬼束どちらがサードに向いているかを。


(トータルでは鬼束くんなんだが、庵野くんの秘めた能力にも期待したい…とは言え、守備力が下がるのは)


「分かりました…鬼束くんをサードにして、庵野くんをレフトに回しましょう」


「鬼束だって、こういう事情だと説明すりゃ納得してくれるって!」

セカンドからレフト、そしてサードとなると、鬼束のプライドを傷付ける事となる。


「仕方ない、これもチームの為だ…」


チェンジとなり、櫻井は守備の交代を告げた。



「鬼束くん」


守備につこうする鬼束に声を掛けた。


「ハイ」


「申し訳ない…キミをあちこちたらい回しにして」


櫻井は頭を下げた。


「しょうがないですよ…アクシデントは付き物だし、監督が頭を下げる事ないですよ」


鬼束は恐縮する。


「いや、それもこれもボクの責任だ…外野を守れと言いながら、今度はサードを守れって言われりゃ、誰だっていい加減にしろって言いたくなるのに、キミは文句も言わず従ってくれる…鬼束くん、本当にすまない!」


「あの…オレ、もうセカンドには拘ってないですし、レフト守りながら、あぁ、他のポジションを守るのも悪くないな、なんて思ってたりしてたんで…」


「鬼束くん…」


「大丈夫っすよ、サードは初めてだけど、セカンドで2年連続ゴールドグラブ賞獲ったんだし、任せて下さいよ」


笑顔でサードの守備についた。


「ありがとう、鬼束くん…」


櫻井は鬼束に感謝した。


「なぁ、ヒロト…野球ってのは、思い通りにはいかないんだよ。
もしかしたら、この守備で上手くいくかもしれないだろ?」


「…そうですね…監督はボクなのに、選手に励まされるなんて…ダメだな、ボクは」


「そんな事ねぇって、お前は良い監督になるぜ」


櫻井の肩をポンと叩いた。


「このチームはまだまだ強くなるぜ~、あのバカが監督してた時より、もっともっと強くなるって!」


ガハハハハ、と中田は高笑いした。


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