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何がなんでも優勝

先取点

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回はあっという間に7回へ。


降谷、溝口の投げ合いはお互い無失点のまま投手戦になった。


ドジャースの降谷はここまで2安打1四球。

対する溝口は4安打無四球のピッチング。


球数は降谷が94球に対し、溝口は105球。


そろそろスタミナが気になるところだ。



「さぁ、皆!そろそろ点を取ろう!」


「The Skywalkers are definitely going to win!(スカイウォーカーズは必ず勝つ!)」


櫻井とトーマスが檄を飛ばす。



「よし、んじゃあオレがまず塁に出てやらぁ!」


梁屋がバットを持って勢いよくベンチから出た。


この回は9番梁屋から。


第一打席はレフトフライ、第二打席はショートゴロとまだノーヒット。


ここは何としてでも塁に出たいところ。


降谷はまだスタミナが十分だ。



「ケッ、威勢だけは一人前だな」


降谷が見下ろす。


(何としてでも塁に出る!)


降谷が初球を投げた。


糸を引いたようなストレートがインコースへ。


すると梁屋はセーフティーバントの構えを。


ファーストとサードが猛チャージをかけた。


寸前でバットを引いた。


「ストライク!」


バントで塁に出ようとしているのか。


「バントなんかさせるか、この投手失格が!」


「何っ!」


「へっへへへへ」


降谷は挑発する。


「よせ、ワタル!相手のペースにハマるぞ!」


唐澤のアドバイスで深呼吸した。


「よし」


再びバットを構えた。


二球目は内角の胸元を突くストレート。


「ボール!」


これは僅かに外れた。


「どんな形でもいい、とにかく塁に出なきゃ」


梁屋は口を真一文字に結び、降谷を睨みつける。


「そんなにおっかねえ顔しても、オレの球は打てないよ」


毒づきながら三球目を投げた。


だが、これが少し甘く入った。


「ここだ!」


梁屋は逆らわず左におっつけた。


鋭い打球はサードとショートの間を抜けた。



「よし、これでランナーが出たぞ!」


梁屋のレフト前ヒットでノーアウトからランナーが出塁した。



「ワタルが塁に出たか…ならばオレも」


トップに返って筧が打席に入る。


筧はバントの構えだ。


「送りバントかよ…ウチじゃ、そんなチンケな作戦はしないんだよ」


ドジャースは送りバントをやらない。


セイバーメトリクスに基づいた戦術で、送りバントをしても得点になるケースは低いというデータが出ている。


つまり、送りバントをしなくともヒッティングをした方が得点に繋がりやすいという事だ。



降谷が初球を投げた。


筧はバットを引いた。


ファーストとサードが猛チャージをかける。


「ストライク!」


先ずはワンストライク。


筧は再びバントの構えだ。


「しつけぇな、バントなんかやっても意味ねえのに」


二球目を投げた。


同時にサード吉岡とファーストの島野がダッシュ。


降谷も少し遅れてダッシュした。


「へへっ」


筧はバントの構えから素早くヒッティングの構えにしてバットを出した。


「ヤベっ!」


打球はファースト島野の頭上を越えて一塁線へポトリと落ちた。


「ワタル、行け~っ!」


一塁ランナーの梁屋が快足を飛ばし、二塁を蹴って三塁へ一気に走った。


ボールは転々とファールゾーンに転がり、セカンドの中村が捕って三塁へ。


梁屋がヘッドスライディングをした。


「セーフ!」


間一髪セーフでノーアウトランナー三塁一塁という絶好のチャンス。


ここで迎えるは、天才唐澤。


ドジャースの内野陣がマウンドに集まる。


外野フライでも1点が入るこのケースをどう凌ぐか。



「1点は仕方ない」


「仕方ないなんて言うなよ!何がなんでも無得点に抑えるんだよ」


「このケースじゃ1点は入るだろう」


「やってみなけりゃ分からねえだろ!」


ベンチから小倉監督が出てきた。


「まさか交代か?」


「ウソだろ?この状況で交代なんて有り得ないだろ」


小倉監督はマウンドへ。


「ムヒョヒョヒョヒョ!ユー達、ここは何がなんでも抑えるんだぬ!降谷はウチのエースだぬ!最後まで投げきるんだぬーーん!」



「…そんな事は分かってんだよ!このハゲ!」


「ハゲ、テメー監督らしいアドバイスしろよ!」


「ったく、使えねえヤツだなホントに!」


「テメー、責任取って残りの毛全部剃れ!」


内野陣が一斉に小倉監督を詰る。



「にゃんと!監督であるあちきに向かって、にゃんという不穏な事を言うんだぬ!」


「うるせー!用が無きゃ、さっさと帰れ!」

「帰れ、帰れ!」

「引っ込め、ハゲ!」


「ぬーーーーん!」


小倉監督は泣きながらベンチに引っ込んだ。



この状況をどうやって抑えるのか。


内野陣が守備についた。


やや前進の守備位置でゲッツー狙いをするつもりだ。


「歩かせても、次のバッターが問題だし、その次のバッターも要注意だし」


降谷は考えた。


「よし、キメた!」


降谷は三塁に牽制。


「セーフ!」


(スクイズは無いだろう)


降谷が初球を投げた。


アウトコース高目へ一球外した。


「ボール!」


唐澤はピクリとも動かない。


(これでスクイズは完全に無い)


二球目を投げた。


同時に三塁ランナーの梁屋がスタートを切った。


「しまった!」


唐澤はインコースのストレートをバントした。


「やられたっ…」


三塁ランナーの梁屋はホームイン。


そして打球はサード吉岡が一塁へ送球。


「アウト」


スカイウォーカーズ、スクイズで1点をもぎ取った。


「やった!トーマ、よくやった!」


まさか、唐澤がスクイズをするとはドジャースバッテリーも思いつかなかった筈だ。


これでワンナウトランナー二塁となった。
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