The Baseball 主砲の一振り 続編1

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栄冠

最終決戦その5

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【2番センター唐澤】


パーフェクトピッチングを続けていた天海は一転してピンチに陥った。


ノーアウトランナー二塁。

ラファエルのライトフェンス直撃のツーベースヒットで、スカイウォーカーズが初安打を放った。


ベンチからテリー新監督が通訳を伴いマウンドに向かう。




現役時代、元メジャーリーガーという触れ込みで北九州ドジャースに入団。

その後はマーリンズに移籍して優勝に貢献する。

来日3年目に最優秀防御率を獲得。

マーリンズに移籍後はクローザーとして最多セーブを受賞。


今年からヘッドコーチとしてマーリンズに入団したが、鈴木前監督の辞任により監督に就任した。



冷静さと情熱を持ち合わせ、鈴木前監督の右腕としてメジャー仕込みの戦略でチームを上位に躍進させた。


キングダムを解雇された天海を獲得しようと提案したのはテリー監督だ。


「It's adversity that drives us to win.(逆境こそが勝つ原動力となるんだ)」


テリー監督は一言だけそう告げると、天海の背中をバン!と叩いて励ます。


「Amami, you haven't lost yet.Get the best pitch, OK?(天海、君はまだ負けてないんだ。最高のピッチングをするんだ、いいな?)」


「勿論だぜ、監督!完全試合なんぞ、ハナっから眼中に無いしな…
次のバッターは打たせてとるさかい、頼むで!」


「おぅ、任せろ!」


「困った時はサードに打たせろ!オレがアウトにしてやる!」


「ここが踏ん張りどきだ!」


「ピンチの後にチャンスありってな…この試合、絶対に勝つぞ!」


内野陣が口々に天海を励ます。


テリー監督はパンと手を叩き

「We're going to win the championship!(我々は必ず優勝すんだ!)」

と選手を鼓舞してベンチに戻った。


内野陣が散らばり守備についた。




打席には2番の唐澤がヘルメットを被り直し、バットをクルクルと回してピタッと構える。

不動の構えはスラッガーとしての雰囲気を身に纏ってる。


コース別のデータでは、インサイドの落ちる球は163と苦手にしている。


反対にインハイは392と得意にしている。


落ちる球を決め球にして、どうやってカウントを稼ぐか逆算して組み立てる。


(ストレート系でカウントを取っていくしかないか)


第一打席、第二打席共にツーシームを打ち上げてレフトフライに倒れた。


(よし、まずはここへ投げてみようか)


川上がサインを出す。


上体を屈ませ、サインを覗き込む。


セットポジションから、ムチの様にしなる右腕を力一杯振った。


弾丸の如く、放たれた白球は小さく外に変化してズバーンとミットに入った。


「ストライク!」


156km/hとジャイロ回転するバレットが、アウトコースギリギリに決まった。


もう一つのバレットはリリースの違いで縦にも横にも変化する。


制球力に優れてないと投げる事が出来ない。


(微妙に変化した…)


バックスピンのかかったバレットよりも球速は僅かに遅いが、カンペキに捕らえるのが困難な軌道を描く。


天才と謳われ、難しい球をいとも簡単に弾き返す唐澤だが、卓越したバッティングセンスをもってしても、天海のバレットを打つのは容易じゃない。


バレットだと分かっても、バックスピンか
それともジャイロ回転か…


同じバレットでも、二種類を使い分けるとなれば的を絞りにくい。


(フォーシームに狙いを絞ろう)


唐澤の表情が変わった。


その気配を察知したのか、天海は一旦プレートを外した。


「何や、さっきよりもハンパないオーラが漂ってるで…」


一流は一流を知る。


この打席は要注意だと感じ、自らサインを出した。


川上はスっと内側に寄った。


(内側に寄ったという事は変化球か?)


二塁ランナーのラファエルのリードは大きくない。


ラファエルは唐澤をジッと見る。



その様子に気づいたのか、唐澤もラファエルを見た。


天海は牽制する気配が無い。


ラファエルは中腰の体勢でジリジリとリードを広げた。


(まさか三盗するんじゃ…)


ラファエルは走る。


スカイウォーカーズは基本的に俊足の選手にはグリーンライトにしている。


走れると思ったら、自己判断で盗塁をする。


セットポジションの体勢に入った。


首を動かし、ラファエルを見た。


リードは変わらず。


クイックモーションから二球目を投げた。


同時にラファエルがスタート。


フワッと山なりの様なスローカーブ。

バッテリーは虚をつかれた。


「ボール!」

インコース低目のボール球をキャッチすると、素早いスローイングで三塁へ。


だが送球が逸れた。

サードの羽田が腕を伸ばしてキャッチしたが、ベースから離れてしまった。


「セーフ!」


ラファエル三盗に成功。


「クソっ!まさか走ってくるとは…」


天海のサインに首を振るべきだった…川上は悔しがる。


バレットを要求すれば刺せたハズ。



再びマウンドに野手が集まる。



「スマン、天海…オレの送球が悪かった」


「そんな事あらへん、オレがカーブのサインを出したのがいけなかったんや」


「こうなったら1点は仕方ない…だが、1点だけで抑えよう」


1点のみで抑えれば逆転の可能性は十分にある。


羽田はそう考えた。


「それよりも、皆の意見を聞きたいんやが」


天海は野手に問い掛けた。


「何だ、どうした?」


セカンドの藤原がグラブに手を当て答える。


「…満塁策にして4番の鬼束で勝負するもりやけど、皆は歩かせた方がいいか?それとも満塁策にした方がいいか、どっちが良いと思う?」


2番唐澤、3番結城との勝負を避けて満塁策にするつもりだ。


「満塁にするのか?下手すれば1点どころじゃないぞ、いいのか?」


「満塁にして前進守備でゲッツーを取る。
この作戦に一人でも反対するならば、オレは勝負する」


「…オレは満塁策に賛成だ」


「うん、オレも」


「その方がいいかもな」


誰も反対する者はいない。


天海は唐澤、結城と歩かせ、鬼束勝負をする事に決めた。


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