The Baseball 主砲の一振り 続編1

sky-high

文字の大きさ
上 下
63 / 84
ペナントレース

スクランブル登板

しおりを挟む
【スカイウォーカーズ、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー片山に代わりまして梁屋 ピッチャー梁屋 背番号51】


ドォーっという歓声が上がり、ライトフェンスの扉が開くと梁屋が姿を現した。


ゆっくりと歩を進め、一歩一歩確かめるようにマウンドへ向かう。


ライトを守る唐澤と目が合った。


「ワタル、しっかりやれよ!」


「おぅ!」


力強く返事をして、「っしゃぁ!」と気合いを入れてから、小走りでマウンドに駆け寄る。


マウンドには内野陣と榊が梁屋を待つ。


口を真一文字にして身体中に気合いを漲らせ、逸る気持ちを必死で抑えている。


「ワタル…緊急登板だが、お前ならきっと抑えてくれると信じてるぞ」


榊がボールをグラブに入れた。


「ハイ」


「梁屋くん、 全力で投げるんだ」


結城が声を掛ける。


「ハイ、大丈夫っす」


「ワタル、オレたちがしっかり守るから、思い切って腕を振るんだ」


「そうだ、困ったらショートに打たせろ」


「頼んだぞ、ワタル」


他の選手も次々と声を掛けた。


「さぁワタル…あのボールでレッズを抑えるんだ、いいな!」


「ハイっ!」


「よし、守備につこう!」


【ハイっ!】


結城の掛け声で内野陣が散らばる。



梁屋は一球一球指先の感覚を確かめるように、投球練習を行う。


5回の裏、レッズは2番乃木から。


ここは乃木から3番ジョーイ、4番浅倉と左バッターが続く。


投手から野手、そして再び投手と目まぐるしい転向だが、梁屋は再起に懸けた。


「プレイ!」


注目の初球は何を投げるのか。


保坂がサインを出す。


梁屋は頷き、ノーワインドアップからスリークォーターのダイナミックなフォームで初球を投げた。


ギュイーン、と小柄な身体から放たれたストレートがズバッとインサイドに決まった。


「ストライク!」


スピードガンは147km/hをマーク。


球の走りは良く、回転も高いストレートだ。


「おぉ、イイネ今のストレートは」


榊は満足そうに頷く。


初球ストライクが入ったせいか、梁屋は少し気分が楽になった。


(いいぞ、ストレートの指の引っかかりもサイコーだ)


乃木はバットが出ない。


「速…こんなに速いとは」


梁屋を侮っていた。


続いて二球目はインコース低めに外れるスライダー。


「ボール!」


見送ったというより、手が出なかった。


とても去年まで野手をしていたとは思えないボールのキレだ。


「す、凄い…まさか、梁屋くんがここまでのピッチャーになるとは」


櫻井は梁屋を自身の構想には入れてなかった。


野手がダメだから、投手なんてムリに決まってると。


先見の明がある櫻井だが、梁屋は計算外だった。


「だから言ったろ、ワタルはピッチャーとして再生するって」


榊にとっては梁屋を再び投手に戻すというのは、一かバチかの賭けだったが、見事に再生した。


「さすがですね、榊さん…ボクは彼を見くびってました」


櫻井は榊の眼力に脱帽した。



カウントはワンボール、ワンストライク。


梁屋は大きく息を吐き、サインを覗き込む。


(高目のストレート、しかもインハイ)


大きく頷き、三球目を投げた。


インハイへノビのあるストレートが唸りを上げて迫り来る。


乃木はバットを出すが、ボールの威力に押され、打球は転々と一塁線上に転がる。


ファーストの結城が捕って自らベースを踏んだ。


「アウト!」


ファーストゴロで先ずはワンナウト。


「ヨシ…」


これで大分気持ちが楽になった。


【3番ファースト ジョーイ】

デヴィッド・ウィリー・ジョーイ。

昨年までメジャーリーグ、ミルウォーキー・ウィザーズでプレーしていた大物選手。

実績だけで言えば、財前よりも格上でリーグを代表するバッターでもあった。


「しかしまぁ、あのジョーイが日本でプレーするなんて、思いもよらなかったぜ」


センターの守備についてる財前が、ジョーイの打席に注目する。


試合前、財前はジョーイと言葉を交わした。



「Hey, Joey! I never expected you to play in Japan!(よぉ、ジョーイ!まさか、アンタが日本でプレーするとは思わなかったぜ!)」


二人はガッチリと握手をした。


「Oh, Zaizen! Long time no see!
I was fired from the Wizards because of my injury, so I decided to play in Japan.(おぉ、財前久しぶりだな!オレは怪我でウォーリアーズを解雇になったから、日本でプレーする事になっちまったよ)」


ジョーイは33才。

まだまだメジャーの第一線で活躍出来る力はある。


レッズとは一年契約を結び、日本で結果を残してメジャーに復帰するという青写真を描いている。


「The strike zone in Japan is different from the major ones, so you'll be confused at first.(日本のストライクゾーンはメジャーと違うから、最初は戸惑うぞ)」


財前はストライクゾーンで苦しむだろうと思い、ジョーイにアドバイスを送る。


「It's true that the strike zone is a little different from the major leagues, but I will return to the major leagues with results in Japan.(確かにストライクゾーンはメジャーとは少し違うが、オレは日本で結果を残してメジャーに復帰するつもりだ)」


日本でプレーするメジャーリーガーのほとんどは、日本のレベルを下に見る傾向が強い。


しかし、ジョーイはそんな驕った気持ちは無く、日本とはいえ、プレーする事には違いないという考えだ。


常に全力プレーをするのがメジャーリーガーとしてのプライド…


そのジョーイは開幕二戦目で来日初アーチを記録。

守備もソツなくこなして、走塁も全速力で走る。


一流のメジャーリーガー相手に、梁屋のピッチングが通用するか。


しおりを挟む

処理中です...