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1984年、中3

【IF】もしもまだ中学生でいたなら

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波多野が二次募集で受けた高校に合格した。

授業中、僕は波多野の背中をシャーペンで突ついた。


「痛っ」

…やべ、芯で突っついちゃった。

「痛いよ…」

背中を押さえ、後ろを振り返る波多野に僕は

「どうだった?」と聞くと

「うん、受かったよ」

とだけ返事してすぐに前を向いた。

そうか、受かったか…
僕は安心した。

卒業まで後数日。

僕は波多野に告白しようか、どうしようか迷っていた。

(でも、何て言えばいいんだ?好きです、高校が違うけど付き合って下さい!って言うのか?
いや、それよりも波多野はオレの事どう思ってるのか…
ただのクラスメートにしか思ってないんじゃないか?)

そんな事をウジウジ考えて、結局いい言葉が浮かばなく、言い出せないでいた。

根がチキンで、女と話し慣れてないってのが理由なんだけど。

恥ずかしいのは勿論だし、もしフラれたらかなり凹むだろうと想定してるから、言い出せないままで、僕は悶々としていた。


校内ではこんな純情な事を考えてながら、
校舎から一歩外に出ればタバコは吸う 酒も飲む バイクにも乗るで、やってる事は不良の真似事だし、尾崎豊の歌の中にあるような事を意識してやってたのか、いずれにせよ猿まねなんだけどね。

この頃は悪い事してたヤツなんていっぱいいたから、僕のやってることは不良の枠には入らない、どっち付かずの中途半端モンだった。

夜は麻雀やりながら、ビートたけしのオールナイトニッポンを聴いて、翌朝は起きれなくて学校を休む。

この自堕落した生活を、もっと早くにスッパリと手を切って勉強に勤しんでいたら、違った高校にも入れたし、もう少しまともな日々を送っていたに違いない。

今さらだけど、後悔した…

1学期の頃のような成績をキープしてりゃ、こんな事にはならなかったはず…

あくまでも【IF】という事で、過ぎ去った頃を振り返っても、元には戻らないし…

何だかんだで、中学校生活は後数日で終わるんだ。

一体、何をやって来たんだオレは?何故、もっと前から勉強しなかったのか?

つくづく自分がイヤになってくる。

もっと充実した学校生活を送りたかった。

今までやってきた事の愚かさが、自業自得という形で返ってきた感じだ。

悪いのは全て僕だ。

この時ばかりは、ウチに帰っても部屋から一歩も出ずにブルーな気分でいた…

何をするワケでもなく、ただ1日が過ぎていくのをぼんやりとしていた。

でも、この現実を受け入れなければならない。

…流石に当時の僕じゃ無理だ。

卒業の日が近づくにつれ、ナーバスな気分になっていた。

もう戻れない、それは解っている。

あれだけ「つまんねえな」と思っていた中学校生活はもう、終わりを告げる。

今更、何悪あがきしてんだ?と思うのだが、この時思っていたのは

「卒業したくない」

心の底から思った。

薔薇色の高校生活を夢見て、こんなクソつまんねー3年間は、とっとと終わりにしてぇ!なんて思っていたのに、いざ卒業間近になれば、まだ中学生でいたい…

相当なワガママで自分勝手なヤツだよね、僕は。

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