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愛しさにサヨナラ

猿真似は所詮猿真似

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「おい、聞いたか?小沢のバカ、またタバコで停学食らったらしいぜ!」

教室に入ると、園田が僕の所に来て真っ先にその事を伝えに来た。

「ウソッ!アイツ、これで2回目だろ!ダブり確定じゃん!」 

「停学の次は無期停だから…留年だな」

「アイツ、何でバレるようなやり方してんだよ。バカ丸出しじゃんかよ」


とうとう、このクラスから留年するヤツが1人確定した。

僕も留年候補の1人だが、対岸の火事みたいなもんで、何とかなるとタカをくくった。

その日の帰り、小沢の家に寄った。

「よぅ、ダブり!いつまで謹慎中なんだ?」

性懲りもなく、部屋でセブンスターを吸っていた。

換気してないから、部屋中煙で目が痛い。

「うるせーっ!何で、オレだけ見つかるんだよ!ツイてねぇよ、ったく!」

全く…1度見つかったんだから、要注意人物と見なされるのは当然だろう!

「1度パクられたんだから、マークされるのは当然だろ?なのに、何で学校にタバコ持ってくるんだよ?」

こいつの家は母子家庭だ。


ただでさえ私立校という事で金がかかるのに、留年で1年余計に通わなきゃならない。

母ちゃんが泣くぞ、この親不孝者がっ!


「んー…だってほら、吸いたくなるじゃん?」

そりゃ、吸いたくなるのは解る。

僕も食後に一服してたし。

「もっと解らないように吸えばよかったんだよ」

今さらこんなアドバイスを送っても意味無いけど…

久しぶりに、小沢の部屋でギターを手にした。

「小野、このギターいるか?」

僕が手にしたギターは、フェンダーのストラトキャスター。

色はブルーメタリック。


「でも、ギターだけじゃ音は鳴らないだろ?
アンプとかチューナーも揃えるとなると、金かかるからなぁ。
欲しいけどいいよ、ウチじゃ弾けないし」

ホントは、喉から手が出る程欲しい!

でもバイクの費用が…

おまけに、部屋でジャカジャカ弾いていたらアネキが

「うるさ~い、このヘタクソ!」

とか言ってきそうだし。

「オレもう、このギターいらなくなったんだよ。誰かギター欲しいヤツっていないかな?」

勿体無い!フェンダーのストラトキャスターだぞ!

それをいらないって…

せっかくのギターなのに…

やっぱ欲しいなぁ、ギター!

「何で要らなくなったんだよ?」

「いや、オレ新しいギター貰えるからさ」

何っ、新しいギター?

随分と羨ましい話だ。

「別に置いてけばいいじゃん!新しいギターってどんなの?」

「中学ん時のセンパイが譲ってくれるっていうから貰うんだよ。
次はギブソンのレスポールだぜ」

ギブソンのレスポール。


フェンダーと並ぶ二大メーカーの代表的なギターだ。

「へーっ、それってこのギターより良いヤツなの?」

「このギターは元々安いヤツだからな。
センパイがくれるレスポールは、結構高いヤツらしいから」

いいなぁ…

そんな良いギターをポンと譲ってくれる人がいて。

「ギターの事はよく知らねえけど、クラスのヤツに聞いてみようか?」


「悪いな…とりあえず聞いてみてくれよ」

僕は名残惜しそうにストラトキャスターを弾いてみた。

「お前、相変わらず上達しねぇなぁ!そろそろコード押さえるのマスターしろよ」

そうなんだ…

僕はそれなりに弾ける。

いや、単に弾けるだけだ…

問題は一番の難関と言われている、Fコードをマスター出来ればいいんだが、これが上手くいかない。


ここで挫折する人もかなりいる。

Fコードは難しい。

要は慣れなんだけど…

「今度、新しいギター弾かせてくれよ」

「いいよ」

そんな話をしていたら、あっという間に灰皿は吸殻の山盛りに…

さすがに窓を開けて換気した。




それにしてもギター欲しいなぁ…


ギター弾けたらバンドとか組んで、人気が出たらデビュー出来る…


ライブハウスで演奏して、レコード会社からスカウトされて…

いや…いくらなんでも、それは無いだろう。



この頃はホントに何もかもがヤル気が無く、ただ流されていく日を送っていた。

サザンオールスターズのヒット曲【ミス ブランニュー デイ】の歌詞の中に

Oh,Oh,Miss Brand-New
Day
みな同じそぶり

Oh,Miss Brand-new Way
誰かと似た身なり

というフレーズがあるのだが、僕はまさにこの歌詞にピッタリの高校生だった。


ミスをミスターに置き換えれば、僕の事を歌ってるようなもんじゃないかと。

無意味に流行りものを追いかけ、右へ習えで口調も素振りも人と同じ事をしていた。


早い話が、誰かの猿真似をしていたに過ぎない。


所詮は猿真似だから、格好だけ真似てもサマにならない。

分かってるけど、どうしてもその格好を真似てみたい。


ましてや、年頃だから尚更だ。


こんな事ばかりしていたら、楽しい日々なんて永遠に来るワケがない。

何かに夢中になりたかったが、何に夢中になればいいのか解らない。


  
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