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ベスパネット・ワイズスというチーム

特殊能力追加

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この世界は不思議なことが多すぎる。

異世界だから当たり前だと思うのだが、それにしても首を傾げる事ばかりだ、と近衛はつくづく思う。



開幕まで約1ヶ月、選手たちは連日グラウンドで練習を行う。

今までならば、オープン戦で試合勘を慣らしていくものだが、あいにくコッチの世界ではオープン戦というものが存在しておらず、実戦形式の練習が乏しい。


(初めっから無いと思えばいいのかもしれないけど…こんなんで開幕して大丈夫なのかな)


と、不安になる事も。





あの試合後、マーモセットは姿を消した。



監督から4番の座とサードのポジションを剥奪され、戦力外に等しい扱いを受けたせいで、皆の前に出てこれないのかもしれない。



行方不明のまま開幕を迎えると自動的に戦力外とみなされる。


果たしてマーモセットは何処へ行ったのか。







「コノエ…ちょっといいか」


「ハイ」






エースのナチに呼ばれた。



「コノエ、私と勝負して欲しい」


「エッ、勝負?」


唐突な申し出に些か戸惑う。


勝負ならば、この前の紅白戦で対戦して、ヒットを打ったハズなんだが。


「言い訳したくないんだが、この前の対戦は全力を出し切ってないんだ」


「はァ…」


勝負と言われても…


だが、マーモセットの時とは違い、純粋に勝負を挑みたいというのならば受けて立とうと思った。



「わかりました…その代わり、1打席勝負でいいですね?」


「異論は無い。感謝する」



かくして、近衛とナチの1打席勝負が始まった。


左対左の対決だが、この世界のレベルならば簡単に打てるハズ。



「いくぞ、コノエ!」


口を真一文字にしたナチが初球を投げた。



(真ん中やや外寄りのボール…)


これなら打てそうだとバットを出した。



「ん?これは…」


すると、ボールは鋭角的にスライドして外角に変化した。



「危な…」



咄嗟にバットを止めた。



「ボール!」


判定はボールだが、思わず手が出てしまいそうな程のスライダーだった。



「あのスライダーに手を出さないとは…新人とは言え、侮れない相手だ」


ナチの表情が更に険しくなる。



(あんなスライダー投げてなかったハズ…これは要注意だ)


前回の対決では外角には一切投げず、内角のみで勝負していた。


それは、サードを守るマーモセットの拙守を考慮して敢えて外角には投げなかった。



「スゲーなぁ…スライダーのキレがハンパない」


「フフフ」



次は何を投げるのか。


テンポ良く2球目を投げた。


(ストレートだ)


コースは低めギリギリ。



「ストライクっ!」



「ほぇ~、低め一杯に決まったか」


低めに外れると思ったストレートは、ノビがあって低めギリギリに入った。



(いい球だけど、打てない球じゃない)



ピコーン…



すると、ステータスが表示された。



「ん?何だこんな時に」



ブゥン、と浮かび上がったパネルには新たな特殊能力が加わった。



【特殊能力、《狙い打ち》が追加された!】



(狙い打ち?何だそりゃ?)



狙い打ちとは、ストレートや変化球に的を絞ってバットを振ると、約40%の確率でヒットが打てる能力だ。




(狙うのはストレートのみ!)



果たしてストレートを狙い打ちできるのか?
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