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異世界で恋人っ?

フォークが投げられない

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守屋との間には単なるチームメイトだけではなく、近衛の父親で、東京マスターズの名一塁手だった清志郎(せいしろう)が育てた選手でもある。


清志郎はマスターズの主砲として、数々の栄光を手にしたスーパープレイヤーで、個人タイトルは2度の首位打者のみだが、MVPは歴代最多の5回を記録するマスターズ4連覇の立役者だ。


通算安打2583本、本塁打は歴代4位の526本。

背番号10は引退と同時に永久欠番に認定。


引退後、幾多の球団から監督としての要請があったが、清志郎はこれらを全て固辞して、母校の目黒誠志堂学園野球部の監督に就任。


甲子園の春夏連覇を果たし、その時の投手が守屋だ。


つまり、守屋との対戦は父親との対戦でもある。










「さぁ~、この調子で後2回もノーヒットに抑えようっ!」


バックネット裏からクレアの声援が飛ぶ。



試合は7回の表、ワイズスは相変わらずノーヒットでランナー1人も出ない状況。


打順はトップに返ってイシューから。



(何としてもランナーを出さなきゃ…その為には、この回が重要だ)


もしこの回ノーヒットならば、勝てる確率が0になってしまう。


だが、どうやってあの守屋を攻略すればいいのやら。



守屋が初球を投げた。


スライダーがインコースギリギリに決まった。


「ストライクワンっ!」


フォークばかりが注目されるが、スライダーのキレと変化は超一流だ。



「スライダーに気を取られると、フォークが来る…守屋さんのピッチングはカンペキだな」


ストレートとスライダー、フォークのみでバッターを牛耳るピッチングは球界の至宝と呼ぶに相応しい。



「一応、守屋さんの投球をチェックしておくか…
ミリア、チョットスコアブック見せて」


ミリアはスコアラーも兼ねている。


一体1人で何役をこなしているのだろうか。


「ハイ」


「サンキュー、守屋さんの投球内容は…アレ、何か変だな」


ピッチングの内容を見て違和感を感じた。



(何だこれ、3回以降フォークは1球も投げてない。
どういう事だろ?)



フォークを投げないという事は、ケガで投げれないのか、それとも終盤の為に温存してるのか。



「いや、どんな時でも全力投球の守屋さんが温存なんて有り得ない…て事は、投げられない何かがある…」


「チョット、さっきから何ブツブツ言ってるの?」


ミリアが怪訝そうな顔で近衛を見る。


「ん?あぁ、チョットね…」


近衛は何かを閃いた。


「チョッ…タイム!」


タイムをかけ、イシューを呼び寄せた。



「なんですか?」


「なぁ、イシュー。お前、スライダーなら当てる事出来るだろ?」


イシューはミートが上手く、変化球打ちを得意としている。


「ハイ、でもフォークがいつ来るかと思うと、それに気を取られてしまって」


落差の大きいフォークを捕らえるのは不可能に近い。



「フォークは捨てて、スライダーを当てるんだ。
しかも、出来るだけカットしてファールで粘るんだ」


「でも、フォークが来たら…」


「その時は仕方ない!でも、出来るだけカットして粘るんだ、いいな?」


「は、はぁ…」


イシューのミート力に懸けた。





カウントはワンストライク。


(多分次もスライダー。フォークは投げてこないハズ)


守屋が2球目を投げた。



今度もスライダー、しかも1球目より変化が小さいが、若干縦に変化している。


「クッ…」


イシューはカットでファールにした。


これでカウントはツーストライク。



テンポ良く3球目を投げた。


今度はアウトコースへのストレートだ。


「速っ…」


上手くバットに当てて打球は3塁側ファールゾーンに飛んだ。


「ファールっ!」



「ヨシ、いいぞ」


近衛はイシューが塁に出ると確信した。






その後もイシューは上手くカットで粘り、7球連続ファールにした。


(さぁ、どうする…もうスライダーは通用しないぞ)


近衛はフォークを投げるのを待っていた。


イシューを打ち取るにはフォークを投げるしかない。



マウンド上の守屋は何度もサインに首を振っている。



(首を振ってるって事は…次はフォークに違いない)



ようやくサインが決まり、9球目を投げた。


「フォークだっ!」


146km/hの高速フォークが鋭く落ちた。


「ヤバッ…」


イシューのバットが空を切った。



「うゎッ…」



だが、キャッチャーのチャールトンが後逸した。



ボールは転々とバックネットへ転がる。



「イシュー、一塁へ走れっ!!」


近衛が叫ぶ。


チャールトンがもたつく間に、イシューは快足を飛ばし一塁へ。



「セーフ!」


「ヨシ、パーフェクトを阻止したぞ!」



イシューの振り逃げで初のランナーが出た。



「ヤッパリな…あまりにもフォークのキレが良すぎて、キャッチャーが捕れないから投げれないんだ」



守屋はチャールトンのキャッチングがイマイチなせいで、フォークを投げることが出来ない。



フォークを投げるには、キャッチングの上手いキャッチャーが必要なのだが、ガーディアンにはそんな選手はいない。




パーフェクトから一転、勝機が転がってきた。


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