Baseball Freak 主砲の一振り 7

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ストーブリーグ

新守護神は

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秋季キャンプも終わり、つかの間の休息をとる。

新年を迎えたら自主トレを開始し、キャンプインに備えて身体を作り上げる。


新体制を発表したGlanzは、来季こそ日本一奪還の為に新たな試みを行った。


まずは投手陣の起用法だ。


投手部門監督である榊は、今季限りで退団した抑えのジェイク・キムラと、引退を表明した真咲光寿の両左腕の後釜を誰にするかで悩んでいた。

ジェイクはGlanzの守護神、真咲は変幻自在な遅球を操り、先発リリーフの両輪をこなす貴重な存在。


その二人が居なくなるという事は、リリーフ陣が手薄になるのは明白。


歴代最高左腕と謳われた榊からすれば、ピッチャーとは先発完投が当たり前という前提なのだが、今の時代は先発 中継ぎ 抑えと分業制が主流。



些か納得は出来ないものの、勝つためには分業制もやむを得ないと割り切り、試合を逆算して抑えを誰に任命するか考えた。


昨年の先発は、中邑―反町-片山-降谷-東山-皐月というローテーションに加え、谷間に桐生、金澤、真咲の3人が先発を務めた。


中継ぎでは、左の冴島、右の梅澤がその後を継いで、最後はジェイクで締めるというパターンだった。


「この中で、抑えを誰にするか…中邑、反町は絶対先発だし、片山も降谷もベテランになったけど、先発としては必要不可欠だし、皐月は真咲の後継者争いみたいなもんだし、東山は…」


そこら辺に脱ぎっぱなしの衣類が散乱した部屋の中、テーブルに置いてあるガラス製の灰皿は吸殻でてんこ盛りになっている。


榊はヘビースモーカーだ。

現役時代は1日2箱は吸う程の愛煙家で、現在は数は減ったものの、それでも1箱から1箱半は吸う。


球団スタッフからも、禁煙を何度も勧められるが、「酒とタバコとギャンブルは死ぬまでやるのがオレのモットーだっ!」と頑なに拒む。


部屋中はヤニで壁紙が黄ばむ程に吸いまくり、常に紫煙がユラユラと舞っている。



「あ”ぁ~っ!!何でこんなに悩まなきゃなんないんだっ!気晴らしにパチでも打ってこようかな」


プロ野球の監督がジャージ姿で近所のパチンコ屋に出入りしているのは如何なものか。


「打ってりゃ、そのうちいい案でも浮かんでくるだろ」


駐輪場に停めてある、オンボロチャリを漕いでパチンコ屋に向かった。




2時間後


「クッソ~っ!何で激アツを外すんだよ!遠隔操作でもやってんじゃねぇのか!」


あっという間に5万が水の泡と消えた。


いい案どころか、ストレスだけが溜まってリフレッシュにもならない。


足取りも重く、キコキコとオンボロチャリを漕いで自宅へ戻った。



「何しに行ったんだろ…それにしても、あのリーチを外すとは…思い出しただけで腹立つなぁ」


榊はすぐに熱くなるタイプで、ギャンブルには不向きな性格なのだが、ギャンブル好きなタイプは大体こんなもんだ。


「少し寝よっかな」


L字型ソファーに寝そべった。




(抑えってのは、速い球に空振りをとれる決め球を持ってるヤツが適任だよな…ウチで言えば誰だろ?)


まどろみの中、脳裏に色んな投手が浮かんだ。


(ウチで常時150越えるピッチャーは、中邑に反町、降谷に東山…
分かってても打てない変化球を投げるのは…反町の縦のシュートと、降谷の縦のスライダー…後は、東山の無回転フォークか)


その他には、冴島の140を越えるチェンジアップに、梅澤のスイーパーも空振りを奪えるが、この2人は中継ぎでは絶対的なエースだ。


(ドラフトで獲った楠木は左ピッチャーだし、スクリューの変化がハンパないって言ってたな…期待通りの活躍ならば、先発から1人抑えにもってきてもいいんじゃないか)


となると、第一候補に浮かんだのは東山だ。


(そうか、アイツは完投出来るタイプじゃないし、それならいっそ抑えに回してもいいんじゃないか)


ヨシ、とばかりにガバッと上体を起こした。


「決めたっ!抑えは東山でいこう!」


壁掛け時計に目をやった。


時刻は15:00を過ぎたところ。


夕方前の時間帯だ。



「そうと決まれば、リベンジじゃ~っ!!」


急いで支度をし、再びオンボロチャリに跨り、コンビニのATMでお金を下ろした。


今度こそは勝つ!とばかりに、よせばいいのに再度パチ屋へ。


結局、合計で8万を短時間で溶かしてしまったそうな。
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