The Baseball 主砲の一振り 続編2

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奪還

この金はオレたちの物だ!

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「おい、中へ入ってったぞ!」


「待ってくださいよ、中田さん!」


オーナーを乗せた車はビルの中へ入っていった。


「中田さん、中へ入るつもりですか!」


「いや、ここで待とう」


二人は榊が出てくるのを待った。



それから15分後、榊が出てきた。


しかも陽気に鼻歌交じりで。


「あの様子だと、相当な金額だぞ」


「かなりご機嫌ですね」


二人は榊を尾行した。


「中田さん、榊さん手ぶらだけど、お金貰ったんですかね?」


榊は手ぶらだった。

もし現金を受け取ったらならば、バッグに入れるはずだが、バッグすら持ってない。


「上着の内ポケに入れてるんじゃないのか?」


「まさか!いくら内ポケでも、札束ですよ」


「そうだよな…て事は、小切手を貰ったんじゃないのか」


「あぁ、なる程!小切手ならば、手ぶらでも平気ですよね」



中田の読み通り、榊はオーナーから小切手を貰った。



しばらく後を付けていると、榊は銀行に入った。


「あの銀行で金に替えてくるつもりだな」


「そうみたいですね…」


中には入らず、入り口で出てくるのを待った。



それから約30分後、榊は紙袋を手に銀行を出た。


「おい、アイツ随分と無防備過ぎやしないか?」


「あの紙袋の中に現金が…」


傍から見ても分かる程、紙袋を大事に抱え、軽い足取りで駅周辺のタクシー乗り場へと向かった。



「タクシーに乗るんじゃないですか?」


「そうみたいだな…それにしても、あの中にはいくら入ってるんだろうか?」



榊はタクシーに乗り込んだ。


「ヨシ、また追うぞ!」


「これでホントに試合に間に合うのかなぁ」



昨晩と同じ、榊のタクシーを追った。



着いた先は羽田だった。



「ここから飛行機で山口県に行くつもりだな」


「中田さん…これなら、後を追わないで山口県で待ってた方が良かったんじゃないですか?」


櫻井の言う通りだ。


「まぁ、いいじゃねぇか。そんな事より、アイツからどうやって金奪うか考えねえと」


「それじゃ、ひったくりじゃないですか」


ごもっとも。



かくして3人は羽田で飛行機に乗り、山口宇部空港に着いた。



空港からタクシーに乗り、下関のISHINフィールドに到着した。



「中田さん…結局、ボクらは何しに東京へ戻ったんですか?」


「ん~…金を受け取る場面をこの目で見る為…かな」


実際には受け取り場面を目の当たりにしてない。


「お金は榊さんが持ってるし、もういいじゃないですか。
それより、これから試合なんですよ」


「ヒロト…悪いけど、オレは今日具合が悪くなったから、ベンチに行けないって伝えてくれないかな」


「えっ、どうしたんですか?」


「後はオレが上手くやるから、お前は試合に集中してくれ」


「ちょっと、中田さん!」


中田は一旦球場の外へ出た。





球場では既にナインが到着しており、グラウンドではフリーバッティングをしている最中だった。


櫻井はユニフォームに着替え、グラウンドに出た。


「おぅ、ヒロト!お前も東京に戻ったんだって?」


榊は既にユニフォームに着替え、ベンチに座っていた。


「エッ…あ、ハイ!エッと、急用でどうしても戻らなきゃならなかったもので」


「何だ、そうだったのか。ところで中ちゃんはどうした?」


「エッと…中田さんは何でも、体調不良らしく、今日はベンチに行けないとか言ってましたけど」


中田に言われた通りごまかす。


「何だよ…具合悪いのか。大丈夫かな」


「それ程悪くは無いみたいですけど、今日は大事をとって休養するみたいですよ」


「そうか、それならいいんだが」



その頃、中田は再度球場に入り、警備員に監督室に忘れ物をしたと言ってカギを開けてもらった。



「この中に隠してるはずだ」



中田は机の引き出しを開けた。



「ビンゴ」


案の定、榊が大事に抱えていた紙袋が入っていた。



「いくら入ってるんだろ」


紙袋の中には、100万の札束が5束も入っている。


「ウッソ!500万も入ってるのかよ!」



予想では、1勝につき100万だと思っていたが、合計で500万とは。



榊はオーナー賞プラス、監督への臨時ボーナスと言ってオーナーから更に金額を引っ張り出した。


「あのクソヤロー、500万を独り占めするつもりだったのかよ」



今後、99ersとの試合で勝つ度にオーナー賞が贈られるという事は、合計でどのくらいオーナーから出るのだろうか。



「これとすり替えてやる」


用意の良い中田は、新聞紙を札束に見立てた偽の札束を紙袋に入れ、ホンモノの札束をバッグに入れた。



「待てよ…このままじゃ、ドロボー扱いされるな…
ヨシ、こうしてやろう」


紙とペンを持ち、何から書いて紙袋の中に入れた。



ちなみに試合は2対4でスカイウォーカーズが敗れた。


試合後、監督室に入った榊は真っ先に机の引き出しを開けた。


「ん?何だこりゃ、何か書いてある」


紙に走り書きがしてあった。


【榊恭輔。独り占めは許さん!これは皆で分け合うつもりだ。
今後も独り占めはさせない!by 正義の味方より】


「何だと~っ!!」


中には中田がすり替えた新聞紙の札束が入っていた。



「くっそォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!誰だ、金を盗んだのはっ!!!」


榊の断末魔の様な声が球場に響いた。



榊から金を奪った中田は、公平に選手やコーチ、裏方に配った。

しかも榊には内緒で。
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